元弟の子供で、元姪達(高校生編)
香の両親は、元父母とか元両親と表記しています。
単独で父は、桂木 樹生を指しています。
香だった頃の母親は、「ごめんなさい。先にお参りを済ませてくるわ」
と、桂木父と少し世間話をすると頭を下げ、墓石の方へ歩き出した。
元父親も頭を下げ、元母親に続く。
なんだか小さく見える元両親の後ろ姿を目で追っていると、
まだ蒼真と父の前にいた元弟が早く話がしたいのか待っていた。
「息子さんを紹介してくれないか?」
どうしても蒼真の事を聞きたいらしい。
それは、元弟よりもその隣の妻に。
「ああ。息子の名は、蒼真。私立F高で、今は1年。蒼真?」
自分の紹介が始まり、促されて慌てて頭を下げる。
「初めまして、蒼真と言います」
「きゃあ」とはしゃいだ声は、元弟の妻と娘。
「俺は、桂木さんの後輩で、皐月 槇。こっちは奥さんの澪さん。
で、この2人の娘。姉がS高1年で、瑠璃、妹はN中学2年で、里羅」
ほくほく顔で、父よりも自分に向けて紹介する元弟の魂胆が見えてきた。
隣りの妻澪さんは、弟の同級生だと、ようやく思い出す。
にっこり微笑まれて、握手まで求められる。
「よろしくね、蒼真君。私、こんなイケメン高校生の知り合いになれるなんて、嬉しいわあ」
(やはり・・)
苦笑しつつ、しっかり手を握られる。
ようやく手を離されて、ホッとしていると、今度は妹の方が笑顔で、夢見ている顔で
近づいてきて、目を潤ませ見上げる女性特有の仕草をしてくる。
「初めまして。私、妹の里羅です。蒼真君、よろしくね」
「よろしく」
そして、おっとりした感じの姉の方は、顔を真っ赤にさせて、おどおどしている。
「お姉ちゃん」
妹に叱責されて、ようやく視線が蒼真に向いた。
「あの、瑠璃です」
姉の方は頭を下げて、いきなり墓石前にいる元母親達の方へ、蒼真の横を速足で通り過ぎた。
通り過ぎる際、耳まで真っ赤なのは気付いた。
「もう、お姉ちゃんは」
妹は、失礼でしょと怒っている。
(たぶん、イケメン男子に免疫ないのだろうなあ。自分で言うのもなんだけど、
会話するのって、女性側なら余程自分に自信があるとか、好きだからこその勇気がないと
きついものだ。私も息子としてイケメンの父には緊張する。特に父が笑顔全開の時が。
このイケメン遺伝子が凄いことは、イケメンになって改めて思うから)
しみじみと、蒼真が思っていると、元弟とその妻は嬉しそうだ。
「桂木さん、ぜひ息子さんにうちの娘のどちらかを貰ってやってください」
「あなた、失礼よ。桂木さん、ぜひ我が家へ遊びに来てください。そうだ、今日この後予定は?」
元弟は蒼真を娘の婿にさせたいのが丸わかり、澪さんは、イケメンに対しかなりハイテンションだ。
父は、苦笑しつつ
「それは本人達が考えることで、私には・・」
と、言葉を濁した。
(それはそうだよ。まずは、好きにならないと始まらない問題だ。)
蒼真は、元弟が昔から調子が良いことは変わらないことに呆れた。
「蒼真君。部活何してるの?」
「サッカーだよ」
里羅は、どうしても蒼真の事を知りたいらしく、次々に質問してくる。
彼女は、どうやら蒼真の苦手なタイプの女子と似ている。
だが、槇の娘ということで、嫌悪感なく話が聞ける。
(しようがないよ。元弟の娘で、本当なら姪なんだから。どうしても身内意識で
話をしてしまう。本来は、苦手なんだけどなあ。姪と話をしていると思うと平気なのかも)
「そういえば、瑠璃さんの学校は、S高だったね」
「お姉ちゃん?そうだよ」
「俺、来週の土曜日。2時にS高との練習試合で会場がS高なんだよ」
「え?そうなの。私、応援に行く」
「・・、俺は1年だから、補欠で出るかどうかは」
「蒼真君に会いたいもん」
(もん・・て)
お参りを済ませた元両親と姪の瑠璃が戻ってくると、まだ立ち話をしている4人に合流。
「槇、お参りしてきなさい。桂木さん、この後、良かったら食事にきませんか?
我が家にお取り寄せを準備してあるから、ぜひ。今まで娘の命日に来て頂けたお礼を
したいわ」
元母親の話が続いたので、槇も奥さんも下の娘も慌てて、墓石前に走っていく。
その間に、元両親は、桂木親子の前で頭を下げる。
「桂木さんには、私も感謝しているんだ。娘を忘れないで頂けて有難いことだ。
毎年心苦しく思っていた。この機会にぜひ、お願いしたい」
元両親の言葉に、蒼真は胸がいっぱいになる。
(お父さん、お母さん)
香として名乗り出したいという想いが膨れ上がる。
でも、自分は香の記憶があるだけの桂木 樹生の息子。
言っても笑われるような話だ。
心の中で葛藤があり、胸が苦しくて仕方がない。
(もう香じゃないのに)
父は元両親の猛烈な誘いを断る状況でなくなっていて、蒼真の意見も聞こうとしたのか
「そうですか。蒼真、皐月さんの家へお邪魔するか?」
そう言葉にして、蒼真が涙をポロリと数粒零れていく瞬間を見て驚いた。
「蒼真?」
呼ばれてハッと、我に返る蒼真。
いつのまにやら俯いていたらしく、顔を上げてまだ少しだけ身長差のある父を見上げると
父は驚いて、優しく微笑んだ。
息子の頭を手を広げてぐりぐりさせて、スラックスのポケットからハンカチを取り出すと
蒼真の手に押し付けた。
「これで拭け」
それから皐月の両親へ顔を向け、
「それでは、少しお邪魔させていただきます」
皐月の元両親は、顔を綻ばせた。