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それは秘密です(中学校・高校編)

無事、私立中高一貫校へ入学。


小学校の卒業式で、初めてクラスに私立中へ行くことを公表すると、付き纏っていた数人の女子には

大泣きされ。

別クラスの女子が聞きつけて、教室までやってきて、質問責めに合うというオプションがあったが

無事に逃げることが出来た。



晴れて、彼女達とは別の中学へ通えることが嬉しくて正門をくぐった。


クラスを確認し、教室へ入るところでいろいろな生徒達とすれ違う。

どの男子もイケメン。それは言い過ぎかもしれないが、イケメンが多いことは確かだ。

女子はいろいろだが、イケメン男子の率が高く、思わずニヤケてしまう。

(俺、目立ってない。左右イケメンがいる。俺が一般人でいられるなんて、凄い世界だ)


「おい、お前何笑ってるんだ?」

後ろにいた男子に声を掛けられるが、つい本当の意味での笑顔で振り返ることが出来た。

本音である「自分が普通になれた」ことは言えないが

この喜びは伝えたい。

「いや、悪い。つい幸せに浸っていたよ」

「ああ、まあな。お互い、ここ受かるのに苦労してるからな。分かるよ」

「何組?」

「ああ、D組」

「一緒か。俺は、桂木蒼真かつらぎ そうま。よろしく」

「俺は、木野きの 達人たつとこちらこそ」


この木野とは、今後親友という仲になる。



そして、穏やかな世界で、蒼真はサッカー部に入り

中学生活を満喫することになる。






そうして時は過ぎ、平和な学校生活も4年目。

蒼真は高校1年生。後を追って受験して同じ一貫校へ妹のくるみも入学して現在中学2年生。


分岐点になる出来事がここから始まった。





その日、父は黒の喪服に着替えていた。

たまたま家で寛いでいた蒼真は、毎年この時期になると、1人出掛ける父に疑問を

持っていた。

思わず、出掛けようとする父に声を掛けていた。

「父さん。毎年この時期に一人で出掛けるけど、どこへ?」


父は肩を少し揺らし、息子の問いかけに怯んだが、ふと大きくため息を吐いた。

「そうだな。お前も高校生か。どうだ?俺と一緒に来てみるか?」

「一緒に?」

「ああ。お前はスーツっぽいもの持ってないか」

「あ、ああ。それなら結婚式で着た服がある」

「直ぐに着替えて来い」

父に促され、急いで着替えてくると、車へ移動し、助手席に促された。

「毎年今日は、俺の若かりし頃の心残りの日なんだ」


少し寂しげに語る父は、そのまま車を発進させた。



40分程走らせただろうか。

蒼真は、車の窓から懐かしい風景に変わっていくことに気付いた。

(あれ?この市は・・)


昔、自転車で走った道。高校の帰りに行った店。

(ここ。昔私が住んでいた町だ。懐かしい)

車は止まることなく、山道を走り、皐月家の先祖が眠る墓地がある寺へ到着した。

(ここ、お寺だ。裏手は墓地があったはず)

心の中で、昔両親と曾祖母の墓参りへ来たことが思い出される。

(あの時は、大変だったな)

車から降りると、共同で使用出来るお墓参り用の道具を借りて

桶に水を汲み、柄杓を持つように言われ、父の後に着いて行く。

父の手には、いつ購入したのか花束がある。

(昨日に内に用意でもしていたのかな?)


蒼真の想像通り、裏手の墓地へ歩いて行く。

(お墓参りだな、これは。でも、誰の?)

父はいつもひとりで墓参りをしてきたのだろうか?

母も息子の蒼真も娘のくるみさえも連れて来ない場所。

父の秘密を知るようで、蒼真はドキドキした。


「ここだ」


父が墓石の前で立ち止まる。

そこには、皐月家の文字が刻まれている。

驚いて、墓石の横にある名前を確認する。

(わ。私の、皐月 香の時の名前が)


「母さんにも結婚する前に話はしている。俺は、ここに眠る人が好きだった。

俺を顔で選んで話をしてくれる人でなく、唯一きちんと俺の言いたい事や話が通じる人だった。

彼女はシェフを目指していた。彼女の夢が叶って落ち着いたら、話したい事がたくさんあった」

「父さん」

墓に花束を添え、墓石に水を掛ける。

線香に火を点け、それも専用の位置へ置くと、2人で手を合わせる。


「生きていたら、お前の母さんだったかもしれない」


蒼真は父の言葉を聞きながら、顔が真っ赤に染まっていく。

(それって、告白?もしかして先輩は、私の事好きだったの?死んで生まれ変わってから

聞かされるなんて、なんて勿体ない。それに、ずっとお墓参りしてくれていたんだ。

有難うございます。)

神妙な面持ちで、自分の墓前に立ちながら、新たに夢が膨らんだ。


(今度こそ、シェフとして夢を叶えてみせる)


決意をしたところで、父は息子へ振り返った。

「お前に話していいのかは、分からないが。俺は、お前も知っているように

女性不信で誰も好きになれなかった。唯一心許せる相手の皐月さんが亡くなって、

自暴自棄だった頃。俺の職業とは全く関係のない女性の母さんに出会った。

母さんからプロポーズを受けたが、俺の心には響かなかった。

俺は誰も愛せないし、皐月さんの事は一生忘れることは出来ない男だから

それでも結婚するというならと、条件を伝えた。

大抵の女性は、これで離れてくれるが、彼女は違った」

クスッと、父は笑う。


「俺が誰も愛せなくても、私は貴方を愛するからってさ」


「うわ、なんて最悪な条件を承諾したんだ」

うっかり蒼真が本音を零すと、父も頷く。

「そうだろ?お前の母さんは、変わってるよ」


クククッと、父が笑い、蒼真は呆れた笑いをする。

親子で笑いあった後、再度墓石を見つめる。

(まさか、自分のお墓へお参りする日が来るなんて。世の中、不思議だ)

一通りのお参りが済み、途中で食事でもしてから帰ろうと話が決まり

帰ろうとして、父が呼び止められた。


「桂木さん」


父と同じ世代を思わせる声。

父は「ああ、皐月さん」と穏やかな顔で応え、蒼真はその中年の男とその家族らしい人達を見て

目を瞠った。


(え・・、やだ。誰かと思ったら、しん


父と親しそうに話を始める香の弟、それを懐かしげに見つめる。


(あの背後の40代の女性は、奥さんかな。その後ろの2人女の子達は娘か。

あ、父さんと母さんも。ああ、皆元気そうだ。良かった。

心のどこかで、先に逝ってしまったので、親不孝だと思われていないか

ずっと気に病んでいたから、こんな形だけれど、凄く嬉しい。)


「息子さんですか?」

「ええ。下に娘もいますが今日は留守番です。今日は、息子を紹介しようと思いまして」

「お元気でなにより」


槇と父と話が終わろうとすると、後ろ手にいた懐かしい歳を取った母が

懐かしそうに父を見る。

「毎年、桂木さんに来て頂けて、感謝しています。有難うございます」

「いえ・・」

父は苦手なのか、会話が少なくなっている。


「息子さんも、私の娘のお墓参り、有難うね」


自分の元母親に、言われるなんて、なんだか複雑だった。








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