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ファンクラブ(小学校編)

小学生も高学年になると、1年から鍛えている合気道もサマになってきた。

弱弱しく見えていた体型もしっかりとしてきて、身長も150㎝。

父は178㎝で、母が163㎝なので、そこそこは伸びると思っている。

マッチョにはならなかったが、包容力ある雰囲気のイケメンに育ちつつある。


蒼真は、姿見の自分の男らしくなっていく姿を見ては、はあ・・とため息。

(本当に男なんだなあ。思考がいつまでも26歳の女から見ているから、どうしても信じられない。

このしまっていく体。腕の筋肉。本当に自分なのか。でも、慣れというのは凄いかも)


4年になる妹は、蒼真の姿を見てはうっとりしているし、母親は父の若い頃に似てきたと喜んでいる状況。



本日は日曜の朝。

顔を洗いタオルで拭きながらキッチンへ入っていくと、笑顔の母親と妹が迎えてくれる。

「おはよう、寝癖あるわよ」

「お兄ちゃん、今日の予定は?暇なら私のテニス見に来てよ」


「寝癖?」

「ほら、横のところ」

慌ててキッチンにある手鏡で確認し、水を付けて直しながら

「今日の予定はない。くるみ、まだ始めたばかりなのに試合?」

妹に声を掛けると、

先月から習い始めたテニスクラブの話が始まる。

「クラブ内の練習試合。1~6年までの会員の全員が参加するから1日がかりなんだ。お弁当持っていくの」


母が今作っているお弁当を指差すので、「ああ」と頷く。

「でも、習い始めたばかりで試合にならないのじゃ」

ふと疑問を口に出し、妹を傷つける言葉だと思い、しまったと思って妹へ視線を向けると

案の定、口をへの字にむくれている。

「ご、ごめん。応援行くよ」

妹が喜ぶ言葉を告げると、「本当?やったあ」と喜び始めた。

「くるみは、大好きなイケメンのお兄ちゃんを見せびらかしたいのよ」と

母親が付けたしのように話を続けたので、蒼真はうんざりした顔でその言葉に返答した。


「父さんは?」

そこで初めてリビングで新聞タイムで寛いでいる父に声を掛けると

父は午後から出勤なので、家でゆっくりするとのこと。

お昼用に父には、カレーが用意されている。

「母さんは?」

「くるみに着いていくわよ。開始は9時からで、予定では3時には終わるそうなの」

作っているお弁当用のおかずを見ると、ほとんど冷凍食品が使われていることが分かる。

そう思っていると、レンジからチンと音がする。

「あ、出来たかな」

母はカチャリと扉を開けて、からあげを取り出した。

(そういえば母さん。料理は適当で、あまり得意じゃなかったな。裁縫は好きで趣味でやるけど。

苦手なんだろうなあ)

「俺も作っていい?」


冷蔵庫を開けて、中を物色。

母が用意しているお弁当のおかずに被らないものを作るつもりで、準備を手際よく始めると、

母はぽかんと口を開けて見入っているし、父は蒼真の言葉に驚いて、

リビングからキッチンまで来て息子の奇行を静観。

妹は、素直に驚いていた。

「お兄ちゃんて、料理出来るの?」

「家庭科で習ったから」

「あ、そうか~」

兄妹の会話は、実は不自然だった。

小学生の家庭科では、だしまき卵は作らない。牛肉の薄切りをアスパラに巻きつけての料理も習わない。

きんぴらにえびちり、タコさんウィンナーを作り終えると、お弁当箱に綺麗に見栄え良く詰め込んでいく。

おにぎりは、手毬風な物をいくつか作ると、1つづつサランラップで包む。

「うわあ、美味しそう」

素早く手に取り、えびちりとおにぎりを口に入れたくるみは、「うわ、美味しい」

と小躍りし、えびちりを1つ掴んで父の口元へ。

「お父さん、お兄ちゃんのえびちり美味しいよ」

パクリと口にした父も味付けに唸る。

「凄い。自分で調味料を作ったのか?本格中華料理だ」

「うそ」

母も1つ口にして、驚いている。

「蒼真。凄いわ、料理上手なんて知らなかったわ」


(はい。なにしろ、前はプロの料理人ですから)

蒼真は、ニコリと微笑むと

「時間、時間」と、時計を指し、母と妹が自分の支度が済んでいないことで、時間が押し

慌てて家を出ることになった。



家から車で20分先にあるスポーツ教室の施設に入ると、今日はコートは、全面テニスクラブの貸切らしく

既に準備がしてある。

9時まであと少しなので、参加する小学生達がラケットを持ちウロウロ。

「選手の皆さんは、集合してください」

放送が入ると、くるみもラケットを手にして走っていく。


学年ごとに並び始めるので、蒼真と母は見学席に回る。

「何人参加なんだろ」

「そうねえ。このパンフレットに一応名前があるけど」

母は施設へ入った時に渡されたパンフレットを広げ、人数を確認する。

「くるみの学年は、23人ね」

「へえ、結構クラブに参加しているんだな」

「そうね」





 まもなく試合は開始され、くるみは自分の試合するコート前で待機することになった。

女子が集まると、必然とおしゃべりが始まる。

「ねえねえ、くるみちゃん」

「なあに」

「あの人って、お兄さん?」

仲良しの友達が何人かと高学年の女子達やその保護者が数人、くるみの周囲に集まってきた。

「え?そうだよ。蒼真お兄ちゃん」

「凄いイケメンだね」

「いいなあ」

くるみも美人な母に似て十分可愛いが、父はそれよりも格好良い甘いマスクのイケメンで

母もくるみも実は周囲からは普通に美人程度な感覚で霞む。

だが、俳優並みのイケメンパパに似た蒼真が気にならないはずはない。


「ねえ、紹介して」

「お兄さんは、何年生?」

「いいなあ。あんなにイケメン」

「え。くるみちゃんのお兄さんなの?さっきから気になってたのよ」

「ファンクラブってあるの?」


「な、ないと思う」


勢いで次々と質問責めに合い、くるみはこの状況に冷や汗ものになった。

なにしろ、イケメン兄を自慢したくて連れてきたつもりだが、こんなことになるとは

思いもよらず。

歩くたびにいろいろな女性からも聞かれるし、疲れてくる。

彼女の本音は、こんなはずじゃなかった だ。




「学校違うけど、ファンクラブ作ってもいい?」

「私、入る」

「あの、おばさんもいいかしら?」

「私も入る」



「え?お兄ちゃんの?え?ファンクラブ~?」


勝手に盛り上がる女性達と女子達に、くるみはタジタジ。

見学席からこちらを見ている兄に大変申し訳なく思うのだった。



後日。くるみの家を知っている女子達が家まで押しかけてきて、兄にファンクラブが出来た報告が

されたことで、兄 蒼真が一層女性恐怖症が増したことは家族だけの裏事情だ。

この時、母は自分の世代の友人ママ達が息子のファンクラブの会員に名前を連ねていることを知り

さらに驚いているのだった。







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