友人達(高校生編)
祖父母の引っ越しは、少しづつ荷物を運び出すことから始め、3か月くらいを目安にしている。
という、綿密な計画だ。
とにかく、隣の家の人間には知られないようにが前提だ。
最期の引っ越し挨拶はする予定だが、引っ越し先を知られないようにするつもりだ。
「近所の方でお友達数人とは年賀状くらいはやりとりしたいわね」
「隣りの家の話をして、住所を知られないように話しておくといいよ」
「そうね」
祖母がダンボール箱に運び出す荷物を決めているところで、度々蒼真に確認を取るかのように
迷っている事柄を尋ねてくる。祖母の戸惑いはなんとなく理解出来るので
蒼真も言葉を受け止めて返している。
「でも、お婆ちゃん。もしも今の生活を続けたいのなら、引っ越しは取りやめた方がいい。
この家をそのまま残しておいて、1度お試し同居をして決めてもいいと思う」
「・・蒼真」
自分を気遣っていると感じた祖母は、首を左右に振る。
「これまで私は薄々気づいていながら、息子を助けてあげられなかったから。
今度こそは、頑張るつもり」
にっこりと笑う。
「婆ちゃん」
「ふふ。心配有難う。蒼真の言葉で吹っ切れたわ」
そうして、静かに3か月掛けて引っ越しは完了した。
引っ越し業者は使わなかったこともあり、毎週大変なことだったが、
それはそれで祖父母は楽しかったと数年後話してくれた。
引っ越しパーティーは、本当に仲が良かった何人かを数回に分けて招待し
楽しく過ごすことが出来た。
------------------------------------------------------------------------
「そんなことが。蒼真君もモテるけど、お父さんもまだまだイケメンだものね」
「未だに追いかけられるとは思わなかったみたいだよ」
既に秋。学校対抗秋のスポーツ競技会。土日2日間かけて競うもので
S高に市内の高校のテニス部とサッカー部が集合。
他校の試合が始まり、1試合済んで休憩時に皐月 瑠璃と再会。
近況を話しているうちに、女子同士が話している感覚に陥り、久しぶりに会話が弾む。
瑠璃に思わず愚痴を零していた。
ストーカーという女子には怖い話だが、瑠璃は普通に返答をしてくれている。
「ひとまず、安心だね」
「とりあえず、そうなんだろうね」
瑠璃の考え方は、皐月家そのもの。蒼真自身も皐月家の考え方が馴染んでいるもので
素直に頷ける。
ついうっかり自然に話をしていた蒼真は、自分がイケメンだという自覚を忘れていた。
サッカーをしているグラウンドとテニスのグラウンドの境界辺りにある
水飲み場近くで、周囲に人がいることも忘れて2人の世界に入って話をしていたもので
危機感に気付くこと、遅れることになった。
蒼真の肩にガシッと音がしそうなくらいの手が置かれた。
「か~つらぎ~君。誰かな~」
顔を向けると、2年の先輩2人と同級生3人がニヤニヤ顔。
「え・・」
蒼真と瑠璃が周囲を見渡すと、女子からは嫉妬感が漂っているし、男子からは「へえ」と
面白がっている様子。
「いやいや、知らなかったよ。学校で彼女作らないからおかしいなあと思ってたんだ」
蒼真の通う学校は、イケメン男子が多いので、その手の話は多い。
「そうそう。イケメンなのに、おかしいって」
「他校にいたのか」
完全に面白がっている様子。
F高校では、彼女が出来るとからかわれるという、よくある風景だ。
「いえ、違います。知り合いの娘さんで」
「どのくらいの付き合い?」
「あの、知り合いなんです」
蒼真の言葉は、他の言葉でかき消されてしまう。
完璧を貫いていたことが、アダになったようだ。
ここぞとばかりに囃し立てられる。
「浮気しないよう、見張っててあげるよ、そこの彼女」
「これで、桂木は彼女アリでいなくなった」
「園田ファンクラブとしては、有難い」
(注意・園田百合子というF高テニス部所属のF高の美人)
どさくさに紛れて、サッカー部ではなく、女子テニス部の応援団の男子達が吠えていた。
「ちょっと、皐月さん。どういうことよ」
こそこそと瑠璃の隣に近寄ってきた先輩らしき女子数人が、瑠璃と蒼真との間に割り込み
口々に質問し始めた。
「ええ・・と。知り合い?」
瑠璃は、蒼真の存在をどう説明していいのか迷い、あやふやな返答をするが、そのうち
人数が増えてきて、蒼真達男子達との距離があいてきて、もみくちゃになっていく。
「桂木。彼女、ちょっと拙いぞ」
サッカー部数人で、からかい半分の雑談をしていた1人が、近くに立っていたはずの瑠璃が
蒼真と離されて行くので、慌てて蒼真に告げた。
「うわ、もみくちゃ」
「桂木」
「分かった」
蒼真は、女子の恐ろしさを身に染みているので、慌てて女子達をかき分け
瑠璃を引っ張って、外へ脱出させた。
蒼真が女子達の肩を押して中へ進んだこともあり、蒼真に触れられて、きゃあきゃあ喜んでいる
一部を除いて、明らかに瑠璃に向けての嫉妬心の視線が多い。
慌てて自分の学校のサッカー部男子数人の輪に入り込み、安全を確保。
からかっていた先輩も同級生達も協力してくれる。
「大丈夫か?」
「うちの学校じゃないから、様子が違うな。こんな人がいる場所で、拙かったんじゃ」
イケメンが自校でない場所で女性と話をすると、こういう展開が起こるのは、先輩達も同級生達も
よく知っている。自校では、イケメン率が多いので、まずならない現象だが、場所が悪かった。
「瑠璃さん、君の友人達は?」
ぜえぜえお互いに息を整えながら、蒼真が聞くと、瑠璃は後方で心配そうに見ている面々を確認した。
「あそこ・・に」
「後ろの女子は知り合い?」
直ぐ後ろ手で、まだブツブツ言いながら嫉妬心をあらわにしている女子達が数十人。
「先輩が数人いますが、後は他校の生徒みたい。着ている服装で、分かるわ」
「そうか」
2人で、どう乗り切ろうか話をしていると、蒼真の先輩は頭を左右に振り。
「ここは、桂木が彼女の高校の先生がいるところまで、あそこで心配している友達と
行った方がいい。うちの学校の試合は、この後、午後からだから。
時間を気にしつつ、行って来い。こっちのことは、俺達やそいつら(同級生達)が
先生に言っておく」
「そうそう。イケメンについての対策は、俺達もよくある話だからな」
「桂木、頑張れ」
「すみません。お願いします」
蒼真が頭を下げると、先輩も同級生も頼りなげな蒼真に一瞬驚いたが頷いた。
「とりあえず、頑張ってこの場を離れよう」
「はい」
まずは、携帯で瑠璃が友人達にメールで連絡し、テニスコート方面へ走った。
走り出した2人の後を友人達、先輩、他校の生徒と続いたが、
S校のスペースに、瑠璃達が到着すると、諦めたように自分達の学校スペースへと
こちらを睨み付けながら戻っていった。
「先生~」
「何かあったの?」
試合は続いていたので、他校の試合を見学していたS校の顧問の下へ行き、事の成り行きを話して
瑠璃をお願いして、騒ぎが大きくならないうちに蒼真はその場を離れた。
念のため、その場に集まってきたS校のテニス部面々には、瑠璃が自分の父の友人の娘で
知り合いという関係を説明したことで、その場は丸く収まった形になった。
瑠璃をターゲットにさせるわけにはいかない。
配慮なく話をしたことを瑠璃に謝罪した。
彼女は、笑っていたが、今後何か嫌がらせがあるようなら、必ず教えて欲しいと伝えた。
周囲の彼女の友人達にもお願いしたので、やれることはやれたと自分では思っている。
あまりに仲良く話をし過ぎたことで、変に勘ぐられて、瑠璃を窮地に陥らせてしまった。
蒼真は、グラウンドへ戻りながら反省。
(気軽に話しが出来る唯一の女子なのに。先輩もこんな思いをしていたのかな)
その後は、自分の学校スペースに引きこもり、他校の生徒達とは接触しないよう
配慮して大会を終えた。
「こればっかりは、うちの学校はよくあることだから。気にするなよ」
先輩は、苦笑する。
イケメンの宿命さ と笑うイケメン達に、ここに自分の父親よりも上手く波に乗って
生活出来ている生きた見本達の存在に気が付いた。
(そういえば、先輩達も同級生達も皆、イケメンだった。俺よりもランキングが上の人が
いるじゃないか)
「師匠達。ぜひ、ご指導を」
先輩達も同級生達も、笑って頷いた。