表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

守りたいもの(高校生編)

そのまま自宅へ戻ると思っていたら、車は花井家を出ると進路を変えて

別の道を進み始めた。

「父さん?」


疑念を抱いた蒼真は、静かに父を呼ぶと

「ああ、このまま桂木家へ行く」


「爺ちゃん家?」

「ああ、このまま報告へ行く。ゆうちょ本局のポストへこの届けを出してからね。

明日明後日と休みだから、このまま実家へ泊まる」

泊まりと聞いて、くるみは自分の着替えがないと騒ぐ。

「ええ~、お父さん。着替えは?」

「一応、適当に」


後部座席から後ろを見ると、蒼真とくるみと自分の着替えが適当に入れられた

スポーツバッグが3つ置いてある。

「適当・・」

「適当ね」



30分も行くと、辺りは夜10時で真っ暗な世界の集合住宅地へたどり着いた。

入って右の列の一番端の土地に建てられている家が、桂木家。

父が連絡していたのか、玄関には灯りが灯されていた。


車を車庫に入れて、車を降りたところで。

「まあまあまあ、樹生く~ん」

ハートが飛んでいるような声が、隣の左側の家の窓から掛けられた。

その声に蒼真は、怪訝な顔をして父を見た。

父は、首を左右に振り、玄関を指差す。

無言で3人が祖母が開けてくれた家へと入っていくと、直ぐに玄関のチャイムがピンポンと鳴った。

蒼真達3人がリビングへ通された後、祖母が「こんな遅くに誰かしら」と

たった今、切った玄関の灯りを点けた。


「こんばんは~、小母様」

「あら、どうしたの?崇子たかこちゃん」

「今、樹生君が見えたもので、来ちゃった」


(次から次へと、問題が起こるものだ)

廊下から聞こえる声に、蒼真が眉間に皺を寄せると、父も苦虫をつぶした顔をさせていた。

くるみは事情を知らないので、蒼真の腕にしがみついている状態。


そう、隣りの家の娘であり、現在はシングルママになって、実子(娘14歳と息子12歳)を連れて

実家に戻っている崇子さん(樹生と同級生)は、この集合住宅に中学入学と同時に

樹生が引っ越ししてきてからのストーカーのひとりだ。


この崇子さんが、樹生の女性不信、女性嫌いになる原因だ。


蒼真が初めて、この崇子さんに出会ったのは、小学1年の家族で夏休みに帰省した時。

夏休みは、毎年来ていたが、隣の家の崇子さんの両親には何度か会っているが

本人には会う機会はなかった。

それが、小1の時に彼女が家族で帰省した日と重なったその年から

またストーカーっぽい事が起きだした。


彼女は、樹生が結婚したと同時に失恋を受け止め、1年後別の男性と結婚した。

中学から28歳まで続いたストーカー人生が、ようやく終わったのだ。

だけど、どうしても忘れられないようで、ついに3年前離婚して

実家に戻り、樹生が帰省してくるのを待っているのだ。


祖母の話では、桂木家に車が止まると、誰が来たのか確かめているそうだ。

今日、離婚届けをポストに入れたことが分かれば、

大喜びで再婚をしようとするだろう。

絶対に、話を聞かれては拙い。




祖母が帰って頂こうと、扉を押したが、彼女の方が若く力がある。

押し返され、ズカズカと家の中へ入ってきた。

蒼真は、父親が立ち上がろうとしたのを静止、くるみと祖父にそのまま待機を支持し

廊下へと出た。

「あら、蒼真君。こんばんは。お父さんにそっくりねえ」

蒼真を見る目が、うっとりで怖い。

「こんばんは。崇子さん、今日はもう遅いですからお帰り下さい」

「まあ、そうなの。でも、突然帰宅して、何かあったのでしょう?私も何か力になれるかしら」

(なれるか)


ぐいっと、背を押すと、玄関までズルズルと押していく。

「え?なあに?どうして?相談に乗るわよ」

「いえ、崇子さんは他人ですので、桂木家とは関係ありませんから」

「そんなこと言わないで。私、蒼真君のお母さんもなれるのよ」

「いえ、お断りします」

全然こちらの話を聞かず、自分の言いように受け取り、自分の言いように話をするこの性格は

どうにかならないのか?

蒼真は、不機嫌をあらわにしつつも、隣の家まで送り届けようと、靴を履くように伝えるが

これがまた嫌だと喚く。

「あの、ここは俺達の家で、貴女は不法侵入ですよ」

「そんな。お隣なのに」

「いえ、関係ありませんから」


祖母は、蒼真の視線を受け止め、直ぐに隣りの家の彼女の両親へ電話した。

直ぐに両親が駆けつけ

「桂木さん、すみません」

何度も彼女の両親は頭を下げる。

「やだ。どうして謝るの?隣なんだもの。何か力になれたらと、来たのよ」

全く空気が読めない。

「崇子」

頭を下げて、娘と言っても40代を2人で押さえながら、帰って行く。

隣りの家の玄関が閉まるまで、彼女の罵声が響き、背筋がぞっとした。


ようやく、玄関にカギを掛けて、リビングへ向かい扉を開けると

皆で労ってくれた。

「助かったよ、有難う」

「お兄ちゃん、お父さんとお爺ちゃんから聞いたけど。あの隣りの小母さんて、

中学からのお父さんのストーカーなんだって。びっくりしたよ」

くるみは、恐ろしいと震えている。


蒼真は、父を見ながらため息を吐いた。

(先輩が、女性不信になるのも分かる。あんなに人の言葉が通じない相手って、

法律でも裁けないわ。あんな自己中ストーカーにやられたら、人間的に人が信じられないわ)


蒼真は、リビングのテーブルに祖母がお茶が入った湯呑を人数分配り終えたところで

祖父を見た。

「爺ちゃん」

「ん?なんだ。蒼真」

「離婚した話を聞いたと思うけど。隣の家には知らせないのがいいよ」

「そうだな。あの勢いだと、再婚してくれと迫ってきそうだな」

蒼真と祖父は2人で話を始めると、祖母がうんうんと頷き、樹生は青い顔をさせた。

「それは、困るな。崇子さんは悪い人ではないが、思い込みは激しくて、困る」

「父さん、付き合ったことあるの?」

「ない。姉御肌で調子の良い人だけど。関わってはいけない勘が働いて」


それでも、中1の登下校はくっついてくるし、部活のマネージャーになろうとしたが

なれなくて、追っかけを始めたのが最初。

「誰かと親しく話をしていると、話をしていたその子が彼女からいじめを受けるんだ」

「それは、大変だね」

「高校進学の時も、母さんがうっかり隣りの母親に言ったばかりに、近くの高校へ進学して

登下校付き纏われた」

樹生がうんざりとした顔をさせるので、蒼真は香の高校時代を思い浮かべる。


(先輩の高校時代は・・。ああ、そういえばいたね。皆で先輩と下校している時に

背後から近くの高校の女子が着いてくるの。誰だったかは分からなかったなあ。

なにしろ、先輩のストーカーって、10人はいたから。その中の1人で、一番酷いストーカーって

ことかな?)


「樹生も大変ね。愛結さんも社会人になってから、貴方のストーカーだったと調査表に載っていたわ」

祖母は、A4サイズの封筒を樹生に手渡した。

「これは?」

樹生がどこぞの探偵事務所の名が入ったその封筒から、中の書類を取り出すと、無言になった。

「実はね。貴方がかなりストーカーや女性に関して怖い思いをしているのは、調べて分かっていたの。

なんとかならないかと、考えていた時に、貴方が珍しく女性を連れてきたから。

自暴自棄にでもなったのかと思って、調べたの」


独身時代の愛結の写真、しかも他の男性遍歴や、彼女が突然樹生を追いかけだした時期とか

考え方とかを調べていたのだと。

「貴方が知っていて、結婚したのだとばかり思っていたの」


蒼真は、隣からこっそりと盗み見して絶句した。

(母さんは、父さんを顔と経済的な事で選んでいたのか。それはよくある結婚の仕方だからいいけど。

せっかく理想の男性と結婚したのに、浮気して家庭を壊してバカな人だ。)


樹生は花井家での話を伝えると、樹生の両親は樹生の気持ちを優先した。

「お前がそれでいいなら、やっていきなさい。私達は、お前の味方だ。

お前の方が悪いということなら、叱るつもりだったが、そういうことなら、

いつでも声を掛けてくれ」

祖父はにっこりと笑み、祖母は頷いた。


「蒼真、くるみ。お前たちは、私達の孫だからな。いつでも相談に乗るから

いつでも頼りなさい。」


その言葉に、蒼真とくるみは感動のあまり泣き出した。

「え?あ・・・ど、どうしたんだ。樹生、どうにかしてくれ」

祖父が慌てだすと、樹生は笑みを浮かべ

「父さん、有難う御座います。蒼真もくるみも父さんの言葉に感動したんですよ。な」

樹生が蒼真とくるみに視線を向けると、2人は頷いた。

「爺ちゃん、良いこと言うから感動したよ」

蒼真が涙を袖で拭きつつ返答すると、祖父は「そうか、そうか」と涙ぐんだ。

「まあ、貴方まで」

祖母は近くにあったタオル生地の物を渡し、それで祖父は目尻を拭いた。


「あ、婆ちゃん。それ、布巾」

「あら、やだ。間違えた」


せっかくの感動も、祖母のうっかりに祖父以外は爆笑だった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ