母の姉とその家族(高校生編)
川西と話をしてから、自宅に戻る前、実はその足で母方の実家を訪ねていた。
自宅のある地域の駅から3つ目の駅から20分先に、祖父母の家がある。
駅に降り立つと、バスに10分乗車し、最寄りの停留所に降りた。
昔は、母が1か月に1度は連れてきてくれたが、今はお盆とか正月、夏休みに顔を出すくらいで
中々学校が忙しくて行っていない。
それを、実の娘の不名誉な話を伝えに行くとは思わなかった。
玄関前までたどり着くと、母の姉の娘みちる 高3 18歳が丁度犬の散歩をする為か
出てきたところで再会した。
「蒼真じゃん」
「ミルミル、元気か」
みちるが蒼真から呼ばれた自分の愛称にしかめ面をした為、しばらく沈黙が漂う。
気持ちを切り替えたのか、みちるは蒼真を睨む。
「もういい加減にミルミルは辞めろ。恥ずかしい。・・愛結さんなら、来てるよ」
「そう」
「何かあった?」
蒼真の様子がおかしいと感じたのか、腕を掴み強引に散歩へ誘って歩き出した。
「顔に出てる?」
蒼真が、歩きながらみちるに尋ねると、みちるは眉間にしわを寄せ
「まあね。切羽詰まったか、困惑中か」
「あのさ。みちるなら、どう思うか意見聞かせてくれる?」
道を歩きながら、母のしたことをたんたんと説明していくと、みちるは顔を強張らせた。
「うそお、本当に?あののほほおんとした顔で、そんな事出来るとは」
「で、川西さんに会って話をしてたら、奥さんがその店に来ていて、退散してきた」
「ある意味、修羅場になる前に逃げたのか」
「そうそう」
トボトボという表現が合うようなふたりの歩き方に、犬も付き合ってゆっくりと歩いてくれた。
「応援するから、頑張れ。でも、何故叔父さんが参加していないのか
そこはちょっとどうかなと思うよ」
「父さん?」
「そ。自分の事なのに。息子に任せて」
そういえば、そう思われるよね。
(16年前に知っていて婚姻を続けるというのは忍耐のような気がするけど)
「私から思うと、叔父さんはイケメンでモテルのよね。叔父さんが浮気したというなら
モテルからやっぱりと思うけど。叔父さん、イケメン顔を利用しないで真面目だよね。
中途半端なイケメンの奴らは、ナンパしたり遊ぶのにね」
「ああ、それはイケメンでも女性不信な過去があれば、しないよ」
「そうなんだ。叔父さんにそんな過去があるんだ。蒼真は?」
「変態の女子生徒達に拉致されたことはある」
先週の貞操の危機に陥った話をすると、みちるはお腹を抱えて大笑い。
「うわあ、そんな女子いるのか。凄いね」
「凄いねじゃないよ。笑いごとじゃない。お蔭で、女子が怖くて」
自分の体を抱きこむような仕草で、身震いしている風を装うと、さらに笑われる。
「全く、男なんだからしっかりしなさいよ」
「・・。今の女子は、男みたいだよ」
「否定はしないけどさ」
2キロ歩いた先には、駅前商店街。駅からバスで来た道を戻っていきている。
そうして、その商店街の中にある花屋へ到着した。
母の実家の店だ。花の卸問屋で、主に企業や小規模個人経営の店へ配達している。
母には姉妹しかいなくて、姉が婿養子を貰い、姉夫婦が跡を継いだ。
中小企業で市内では有名店だけど跡継ぎがいないことで、閉めるという話になっていたが
運よく、母の姉は体育会系で花とかアレンジメントが趣味という彼に巡り合い
婿養子になったのだ。出会いは、隣りの市の有名な華道の先生のフラワーアレンジメント教室。
華道をしながら、アレンジメントの資格を取ったという女性の講師。
普通に会社員の男性だったが、どうしても趣味は続けたいと、会社帰りにその教室に通っていたところ
母の姉と出会い、3年教室で生徒しながら付き合ったとか。
「うちの親って、両方ともに花が趣味だから上手くいっているのかしら」
みちるが笑いながら、犬を店の外の犬用の杭に紐を括りつけ
(犬を飼っている人が多く、店の中までは入らないように商店街での対策。)
店の中へ蒼真を誘導してくれた。
カランとカウチベルが鳴り、奥の方から
「いらっしゃいませ」
と、男女が出てきた。
「あら、みちる」
「おう、蒼真君か。久しぶり」
「こんばんは」
店の奥に案内され、簡易椅子とテーブルが直ぐに広げられ、4人で座る。
みちるの母は、ポットとカップ4つにインスタントコーヒー瓶を持ってきた。
「蒼真君には、悪いけど。うちはコーヒーはコレなのよ」
「いいですよ」
「そう?」
カップに粉が入り、お湯を入れてコーヒーが完成すると、スプーンごと手渡された。
お菓子の缶が目の前に置かれ
「それで、今日はどうしたの?」
「2人とも深刻そうだな」
母の姉夫婦に問われ、蒼真は大きく息を吸って、今までのいきさつを全部話した。
証拠に持っていた、写真とくるみのDNA結果を彼らに渡した。
「愛結・・。また、16年も前からなんて」
「男としては、辛いなあ。自分の娘だと思っていたら、他人の子かあ」
そこで、彼らの考えや意見を聞き、姉家族は一切静観するようにお願いした。
「そうね。愛結と樹生君の問題だものね。それに、こんな証拠があっては、
私達も愛結が身内でも協力はしたくなくなるわね。自分が樹生君の立場だったら
凄く悲しくて、私おかしくなるかも」
母の姉は、肩を落とし、その夫も頷いた。
「そうだね。ずっと知らずに騙されていたら、傷つくなあ。樹生君は、どうしてる?」
「父さんは、どうするか考えているみたいで、返事は聞いてない」
「そうか。彼が許せるかどうかだな」
蒼真は、自分の今の気持ちを母の姉家族に打ち明けることにした。
自分では、母をどうしていいのか分からないということ。
母として信用し、今まで家族として過ごしてきたが、
自分の母として受け入れられない、受け入れたくない、気持ち悪く感じて
ここまで会いに来たものの、会ったらどういう態度になってしまうのか
自分でも分からないということ。
「頭の中で整理出来ていないんだよ。急には整理出来ないけどね。
今日、会うの辞める?実家に泊まっていくように愛結さんに言うよ」
みちるが気を利かせると、母の姉 沙耶さんも頷いた。
「こっちで、愛結を引き留めておくよ」
「うん」
「蒼真君。樹生・・あ・・と・・、お父さんと話し合って、それから花井家に来た方がいい。
それまで、君のお母さんは、こちらで預かるよ」
沙耶さんの夫 陸さんにまで、気を使われた。
「今日は、もう自宅へ帰った方がいい。自分で気づいていないかもしれないけど。
本当に落ち込んでいる顔をしている」
その言葉に、沙耶さんもみちるも頷く。
蒼真は、自分の顔を近くにあった花が入ったガラスケースの鏡になる部分で
確認し、落ち込んでいる顔を見て俯いた。
(酷い顔だ)
「さあ、遅くならないうちに」
駅までみちると沙耶さんに送ってもらい、蒼真は改めて母と対峙する為に
まずは自分の立て直しをすることにして、自宅へ戻ったのだった。
母方 花井 葉月 (はづき) 祖母 70歳
沙耶 (さや) 愛結の姉 45歳
みちる 沙耶の娘 18歳
隆哉 (たかや)沙耶の息子 20歳
陸 (りく) 沙耶の夫 婿養子 45歳
花井家は、自営業 花屋の卸問屋
企業への配達、小規模個人経営店への配達、
自店でも花屋をしている