対決 (高校生編)
昼食を取り、時計を見ると1時。
まだ2時間前。
時間まで手持無沙汰。
母さんはどこに行ったのか気になったが、駅前では見つけられなかった。
公園の木の下のベンチに座り、隠し持っていた母の携帯を起動させる。
数件、メールと電話の着信が入っている。
メールを開けて、順番に読んでいく。
電話については、母さんの実家の電話番号が3回。
(もしかしたら、実家に戻ってる?そこから電話を何度か掛けたということか?)
メールの中身は、母方祖母の携帯から
「この携帯を拾ったら、警察へ届けてください」という文章。
母の友人からの来週の水曜日のランチの連絡。
昨日の深夜に、川西さんの確認メール。
「昨日の夜に連絡した通り。午前中はクライアント先での会議がある。午後2時には、カフェに着く予定。携帯は午前中は切ってる」
そうか。後、1時間か。
メモ帳を取り出し、川西さんに質問したいこと、事実確認したいこと
思いつくだけ書きだした。
30分前になったところで、目的地のカフェに入ってみた。
モダンな感じで、大人が集まるという雰囲気の店。
男女のカップルの多いこと。
この裏手に例のラブホがあるので、もしかしたら待ち合わせ場所によく使われるのでは?
と、思いつく。
(香の年齢でも思ったが。大人って汚いことするよな。子供の気持ち、何も考えてないと思う。
浮気する人って、ある意味病気なんだろうなあ。
ここに母もいたことがあったかと思うと、気持ち悪いって思えてくるなあ)
一番奥の席に着くと、ウエィターが水の入ったコップとお手拭を置いた。
「ご注文は?」
帽子を深く被り、茶髪メガネの男は、軽いナンパ男に見えるだろう。
なんだか不信な目で見られる。
「アイスティー」
「承りました」
会釈して去っていく。
テーブルの前にアイスティーが置かれ、待ち合わせ時刻まで後10分。
ずっと自動ドアの出入りをチェックしていた。
(母さんは、実家の婆ちゃんの携帯から、川西さんに連絡は出来なかったのかな。
会議で携帯の電源オフでもメールくらいは出来るはず)
そんなことを考えていると、2時過ぎた。
それと同時に自動ドアが開いた。
川西だ。
当人は、きょろきょろしながら、店内を母の姿を探している。
母の携帯を再度見ると、新しいメール着信を確認した。
「カフェに着いた。場所を教えてくれ」
俺は、川西さんが振り向いた瞬間、手を挙げた。
あちらは、蒼真が手を挙げているとは知らず、首を傾げながら近づいてきた。
「え?愛結変装?」
蒼真の前の席に座り、持っていた鞄を自分の横の席に置く。
蒼真は会話録音をオンにして、川西の目の前で変装を解いた。
「あ?あ・・・。樹生?」
慌てる川西に、蒼真はにやりと口の端を上げる。わざと意地悪く笑い
「父さんに見えた?」
と、川西を見た。
川西は、慌てたもののウェイターが来ると、普通に対応し、蒼真と向き合った。
「どうしてここを?」
蒼真は、テーブルに母の携帯を置いた。
「勝手に?」
「まあね。でも、16年前から、貴方の親友は知っているけど」
絶句。その言葉が合う状況になった。
川西は、黙ったまま蒼真を見つめる。
「初めから、知ってたのか」
「そもそもどうしてこんなことを?」
川西の話は、樹生の結婚する報告で、母さんを知ったこと。
蒼真が生まれてから、出産祝いを持っていった時に、樹生は香の墓参りに行っていて
2時間程いなくて、母さんと2人きりで話をした時に、条件付きで結婚したことを知った。
それから毎年、墓参りの時期になると、情緒不安定になるらしく
連絡が来るようになった。
今回も墓参りの日に会うことになっていたが、仕事があり今日になったこと。
くるみが生まれた頃、樹生に申し訳ないと思い、覚悟を決めて結婚を申し込んだが、
母さんは樹生が好きだからと断っていたこと。
母さんからの連絡で、年1回会っていた。
1年前から月1回会っていたのは、母さんが息抜きしたいからと我儘を言い始めたから。
川西自身が10年前に結婚した時は、もう辞めようと話したが、
くるみの事をバラすと言われ、仕方なく。母さんの事は、10年前に自分自身
結婚してから気持ちはない。
秘密の関係で気分転換になっていたし、
最近は、セフレに会っている気分だったと。
親友の妻に対し、随分失礼な言い方をする男だ。
母さんに何言われても痛くも痒くもないが、樹生という親友を失うことの方が怖ったというので
どんな考え方してるんだと呆れてしまった。
「突然なんだけど。
川西さんは、奥さんと子供がいるけど。そこにくるみを入れてあげられる?」
「え?」
突然切り出された内容に、川西は目を瞠る。
身に覚えがあるのか、かなり動揺しているのが分かる。
ウェイターがテーブルに置いたアイスコーヒーのグラスを持つ手が、震えている。
「DNA鑑定は、済んでいるし、今の話でも分かったけど、本人達が知っている話だと思いますが」
「・・・・。くるみちゃんは・・」
「弁護士通して慰謝料請求した場合、大丈夫?」
ラブホに入る2人の写真を1枚、追加で携帯の前に置く。
「・・・蒼真君」
「俺、自分にも親友がいるけど。こんな形でずっと裏切られていたら、もう人を信用出来ない」
その言葉に川西は、項垂れた。
「父さんは、どうしたいのかは聞いてないけど。ずっと川西さんに言わなかったのは、どうしてなのか
分からない?」
川西は、首を左右に振る。
「親友からの言葉を待っていたって」
「・・・・、済まない」
「それで、川西さんはこの結末は、どうする気でいたの?」
「どうするって」
「いつかは、バレることは分かっていたはずだ。バレたら、どうするつもりだった?
母さんとは別れて、自分の家族の所?母さんと再婚して、両家に慰謝料と養育費を払う?
くるみは、連れて行く?」
(父さんは、くるみの事は何も言わなかったな)
「樹生には、悪いと思っている。でも、親友の樹生という存在を失いたくない」
父さんの親友という立場を失うことを恐れているようだ。
「そこは、父さんに聞いてください」
慰謝料と養育費の計算を算出していたので、
その紙を広げて見せると、川西はさらに蒼白になった。
「これは、一般的な計算だから、前後はあると思うけど。日本の法律では不貞行為がある場合
で、離婚の選択した場合、300万。あくまで平均はね。自分に子供がいる場合、1人月2~4万の養育費を大体、成人か大学卒までは払う必要がある。これは、母さんにもいえる」
子供に面会出来るかとか、子供の親権に養育権とかもあるけど、15歳以上は、子供が選択出来る。
「まあ、お金よりも、心の問題なんだけどね。信頼は失うね。川西さんと父さんの共通の友人達は
どちらの側につくかな」
じわじわと追い詰める言葉を吐き出していくと、川西は追い詰められていることが分かるのか
額に汗が凄い。
「母さんには、これから。実家にいるようだから、婆ちゃんと爺ちゃんに話をしてみるつもり」
「・・・・」
「川西さんの奥さんには」
ガタンと川西の背後から、誰かが立ち上がる音が聞こえる。
立ち上がった人は、振り返って、蒼真と川西へ顔を見せた。
「え・・あ?」
今度は、蒼真が驚いた。川西は、恐怖に満ちた顔になっている。
「そう。桂木君は、16年前から。私は、去年よ」
川西の妻 七海だった。
「貴方の携帯から私の携帯へ転送していたの。今日、1か月振りに愛結と会う計画を立てていたから。
私も行動することにしたの。会社、今日は午後からフレックス休暇取っているのも知ってるわ」
後の事は、夫婦で話し合ってもらった方がいい。
そう判断して、蒼真は退散することにした。
「あ、七海さん。これ、証拠にどうぞ」
ラブホに入る2人の写真を手渡すと、彼女は笑った。
「有難う。十分証拠になるわ」
自宅に戻り、父に報告すると、「そうか」と一言。
父には父の思うところがあるのだろう。
その日は、夜勤で仕事に行ったものの寂しげな背中を見送ることになった。
その後、彼らがどうなったかは分からないが、半年程経った頃
川西の名で、桂木家に300万送金があった。
川西 43歳 樹生の親友
川西 七海40歳 川西の妻




