写メ(高校生編)
応接室に寿司桶を2つ座卓に並べ、それに合わせて煮物と吸い物、お浸しが並ぶ。
「この煮物と吸い物、お浸し全部が蒼真君が作ってくれたのよ」
元母親は、笑顔で座卓に並べていく。
それを聞いて、里羅と澪さんが大喜び。
「イケメンの手料理~」
「うわ、嬉しいわね」
一口食べては「美味い」お汁を飲んでは「凄い。お店の飲むようなお汁だ」と大騒ぎ。
先ほどまで地に戻っていた瑠璃は、静かに食事をしていた。
食事があらかた終わると、桶は元父がキッチンへ運び、澪さんがお盆にお皿やコップを集め
瑠璃が何度か運び役。
里羅はというと。
「ねえ、蒼真君は彼女いるの?」
蒼真の隣を陣取り、いろいろ質問の続きを始めていた。
「里羅、手伝いなさい」
難度か澪さんと瑠璃に言われたが、全てスルー。
元伯母としては、困ると考え
蒼真は苦笑いをしながら、手伝う為に立ち上がった。
「蒼真君、どこいくの?」
「ん?皆が片付けているから。俺も」
そう言いながら、澪さんから布巾を受け取り、座卓を拭き始めた。
「蒼真君、ぜひ我が家に来て欲しいわ」
澪さんは、にこにこしながらお盆にお茶用湯呑と急須を運んできた。
「里羅は、恥ずかしくないの?お客さんの蒼真君が手伝っているのに」
瑠璃が注意すると、何故か私の味方になってという視線を里羅から蒼真は受ける。
目で語るとはこういうことか。
(伯母さんの立場なら、味方することは出来ないのよね)
「そうだね。里羅ちゃんは、どうしてお手伝いしないの?」
蒼真の後を離れない里羅に視線を向けると、里羅はあからさまにしゅんと項垂れた。
「もう中学生なんだから、お手伝いはしておかないと、いざという時困るよ」
そう付け足すと、最初はむくれた顔をさせたが、無言で立ち上がると
母親の澪の手伝い、お茶が注がれた湯呑をそれぞれ配るという作業を始めた。
「うわ、蒼真君の言葉は聞くのね」
澪さんは、呆れながら笑ってた。
それからは、それぞれ雑談を始め。
「蒼真君は、サッカーなのか」
「私と里羅はテニスなの」
「へえ、妹のくるみもテニスだよ。同じ中学生だから、気が合いそうだね」
「妹さん、くるみちゃんなのか」
すっかり打ち解けて、砕けた会話が可能になってきた。
蒼真としては、女子とこれだけ話をするのは久しぶりかもしれない。
クラスでも話はするが、プライベートに当たるようなことは話さない。
「ねえ、それで蒼真君は、彼女いるの?」
どうしても聞きたいらしい。
ちょっとため息が出るが、姪なんだから仕方がない。
「いや。彼女はいない。女子の友達はいるけど、特定の子はいないよ」
「そんなにイケメンなのに?」
「どうかな。F高校って、俺より凄いイケメンが多いからね」
「そういえば、F高校は何故かイケメンが集まる高校だよね」
「共学だったよね。女子も美人が多いの?」
「う~ん、好みだからなんとも」
「そうなの」
「でも、いいなあ。頭の良いイケメンが多いなんて」
それから携帯のアドレス交換を強請られ、里羅と交換すると瑠璃も「私も」と交換。
「私も」
「俺も」
と、皐月家の大人達まで全員と交換させられることになった。
「せっかくイケメン高校生と知り合いになれたんだもの。メル友したいもの」
「お母さんてば」
「俺も。先輩の息子さんが、こんなにイケメンで羨ましい。
やっぱり婿とまでは言わないが、娘を貰ってよ」
(こら、槇。お前、元姉をなんだと思ってるんだ)
「お父さん」
瑠璃が窘めている。
「ねえ、写メも撮らせて」
「え?」
格好良い恰好でとリクエストされるが、どんなポーズがそうなのか困っていると
元弟がこんな感じと
親指を立てグーという形を手で作り、片目を瞑る。
見るに堪えないキザポーズ。
(おいこら、槇。元姉になんて恰好をリクエストするんだ)
ムッとした顔が出たのか、槇が慌てて「いや、ごめんごめん」と手を合わせて謝罪ポーズ。
「こんな感じよ」
澪さんが、腕を組んで少し視線を上向きでのポーズをとると、あれこれ皆が指示を出して修正される。
皐月家で話し合いが始まり、
代表で、里羅が「ここで普通に微笑んで」と、窓側に座らせて、Kーpop的な姿勢を取らされる。
パシャ・・パシャ。カシャッ。
全員で撮影会かよ。
「も、もういいですよね」
(皐月家、おかしい。私の前の家族って、こんな性格だったのかしら)
ちょっと残念な気持ちになってしまう。
「今度は、里羅と2人のも撮っていい?」
にこにこと笑顔で聞いてくるので、蒼真は今後予想される嫌な勘が働き。
(恋人とか勝手に嘘ついて、恋人役をやらされるとかは絶対に勘弁)
「それは困る。もしも恋人とか勝手な事をされたら、困るから」
「ええ~」
「ごめん。2人で撮るのはダメだけど、3人以上ならいいよ」
蒼真は、里羅と瑠璃の携帯を澪さんへ預け、写メを撮るように伝えると
傍にいた瑠璃と里羅の姉妹に腕を肩に伸ばし引き寄せ、自分は真ん中上に写るように
笑顔を作ると、瑠璃と里羅の携帯を持った澪さんは、直ぐに撮ってくれた。
肩まで伸ばした腕を引込めると、姉妹が耳まで真っ赤になっていた。
「蒼真。やり過ぎ」
静かに静観中だった桂木父が、湯呑のお茶を飲みながらポツリと呟いたのだった。