写真嫌いの人たち
写真を撮ろうと言い出したのは彼女だった。
そこの面々は軒並み写真嫌いで、自分はその中でも輪をかけて写真という物が嫌いであった。その位のことは三年の付き合いで分かっているものと思っていた。
卒業の日だというセンチメンタルが情緒のかけらもない面々にいくら影響していたのかは分からない。誰かが、いいんじゃないか、と言った。
いやだ、と最後まで抵抗した自分の態度をポーズと取ったらしい、二、三人が悪趣味に肩に手をまわしてきて、無理やり、並ばされた。
こんなものは嘘だと自分は思った。
誰もいないその箱に向けて笑顔を向けるのは、見られるように用意をするのは、今ここでないどこかに向かうのは、それは、嘘だ。
変わってしまう。終わってしまう。
エネルギーは留まることを許さない。
どこかへ向かわなければいけないことは誰もが察していた。
その陳腐な儀式は、どこまでも非効率なその時間の終わりを告げるようで。フラッシュの光ったその瞬間から、切り取られた時間は褪せ始める。
自分はその時ひどく、さびしかった。
写真を撮ろうと言い出したのは彼女だった。
あ、いいな、と思ってすぐに、私は周りをうかがった。その面々が写真嫌いなのを思い出したからだ。私はと言えば、実際の所、写真を取ること自体が嫌いなのではなくて、後で写った自分を見るのが嫌なだけだった。どうみても野暮ったいのだ。
その時は写った自分を見る不快さと、幸福な時間の証明を残すことを秤にかけて後者が勝った。
数の上では少数の女子がその子を真ん中に前列に集まる。後ろではいつものように騒ぐ声。
何もかもがいつもよりももっと楽しい気がする。
忘れたくないなと思うのにその端から忘れてしまいそうなくらいふわふわしている。
ちらりと後ろを振り向くと出会ってから三年間、ちっとも背が伸びなかった子が居て、あわてて前を向いて身をかがめた。
カメラをセットしていた子の言った冗談に合わせて私は笑った。
きっといい顔になっている。
ありがとう、と誰にともなく言いたかった。
写真を撮ろうと言い出したのは彼女だった。
その時は輪の外の方にいたのだが、見まわした彼女と何故か目があって、色々と、あきらめた。分かってやっているのかはたまた天然か。どちらと取っても魅了されずにはおれないその笑顔。多分,何かやりたいことがあるのだろう。
良いんじゃない、といった。見立てとしては半数以上が心を動かされたようであったから。場の雰囲気をくみ取ったと言ってほしい。
背筋を曲げるのはなんだか嫌だったから、列の端にそっと立った。
ふざける奴も、止める奴も、キレかかってる奴も、眺めている奴もいつもと変わらない。ただほんの少し気恥ずかしそうなだけ。
目線の斜め下でお互いを気にした様子の小さい二人がやけに微笑ましかった。
ほけほけとした理系の奴が絶妙な間合いでボケた。おそらく計算だとは思うけれど知らないふりで笑う。
色んなモノを知らないふりをしてきた。
それはそれで楽しかったけれど、もう、おしまいにした方がいい。
何も考えない方が、楽しいこともある。逃げることはいつだってワクワクするけれど。
明後日十一時に桜の下、ふと、そう決めた。
写真を撮ろうと言い出したのは彼女だった。
日頃はあれほどカメラを嫌って、「自分が撮られずにいかに相手を撮るか」というゲームに熱心になっていたような連中がその時はやけにあっさりと同意した。僕は少し迷った。上手く間のとれないあの待ち時間が苦手だったせいもあるし、そうやってピリオドをつける気分でなかったせいもある。
用意の良い彼女はカメラを取り出して場所決めにかかっている。ざわついた空気を眺めていた僕にカメラが手渡された。
曰く、タイマーのやり方が分からない。
その辺の連中にパスしようとすると「お前理系だろ」と言われて、逃げられた。ここの面々は圧倒的に文系が多くて、だからこういう理系差別が多分に存在する。だがそう言った奴らの中に二人ほど理系が混ざっている気がしたのだが気のせいだろうか。
ざわつきは収まらない。収めたがっていないようにも思えた。
端に行きたがる人、真ん中に押し出される人、ボールの投げ合いをやめない馬鹿、怒られるのを楽しんでいる。本気で嫌そうな彼、いつもよりかわいく見える泣いた目の子。
ふと口をついた冗談にみんなが笑った。
それだけのことが嬉しかった。
『わらって』
写真を取ろうと言い出したのがだれだったか、覚えていない。
少なくとも私じゃないのは確かだ。そんな分かりやすいことをしたいと思う性格でもない。
訳のわからないメンバーだった。趣味も思考も性格も全体に共通するものなんか何もなくて、それで喧嘩もせずに馬鹿をやっていた。訳のわからない日々だった。そして私はその真ん中にいた。
何も得たものはなかった。
なのに今、写真を見るだけで笑えてしまう自分が居る。エピソードを反芻して泣きそうになる自分が居る。
真ん中で笑っている私は、何も知らない顔をしている。
あのころ、わたしたちは、
End.