<ロイヤルナイツ>
『・・・・・・・・・。』
クロムと真也はじっと見つめ合っていた。・・・というより、真也がクロムの瞳から目を離さないと言うべきか。
『・・・・・・。』
残りの二人も、静かに見守っている。既に、この状態が二分以上も続いていた。
「・・・・・・うん、分かった。仲間になってくれ。」
やがて真也がそう言うと、残りの二人も安堵し、溜めていた息を吐いた。
「真也が言うなら間違いないわね。まだ隠し事があるっぽいけど、一応信じて上げるわ。よろしくクロム。」
「歓迎する。強い奴は沢山欲しいからな。」
「ああ、よろしく。」
(成程。コレが真也の特殊能力か・・・)
ティターニアから得た情報によると、真也には人の心を読む力があるらしい。『読心眼』と呼ばれるその眼に見つめられたものは、その心の中身を全て曝け出されてしまうのだとか。真也のこの能力は先祖返りだそうで、あまり力は強くないらしく、精々相手が自分に敵意を持っているかが分かる程度だそうだが。
だが、この能力があれば、仲間内に裏切り者などがいた場合でも速やかに対処出来る。
(それに、力が弱いほうが彼にとっては都合がいいだろう)
人には、必ず隠し事がある。他人には知られたく無い秘密を、誰もが持っている筈だ。もし、それを全て知られてしまうとしたら?誰もそんな人には近づかない。敵意が分かる程度の力だった彼は幸運だろう。
「ところで・・・そろそろお前ら武器を仕舞え。俺たちはもう仲間なんだから。」
という真也の言葉で、二人は杖を背中に背負った。
(収納)
とクロムが念じると、白銀の長剣は光となって消え去った。
『・・・・・・。』
「・・・?何だ?」
「ぶ、武器何処に消えたんだ・・・?」
真也が恐る恐る尋ねる。彼らにとって、それ程に非常識な光景だったのだ。
(・・・・・・そうか、物質転送の技術はまだ確立していなかったんだった)
クロムは、自分の迂闊さを呪った。こんなことなら、鞘も一緒に転送しておくべきだったと。しかし、今更嘆いても仕方がない。彼にさえ、時間を巻き戻す事は出来ないのだから。
「・・・俺が発見した、物質転送術式だが。・・・・・・お前らにも渡そうか?」
本当はクロムが開発したものだが、面倒なので古代遺跡から発掘したことにする。明らかにオーバーテクノロジーだが、どうせこの世界では再現出来ない。そもそも、魔法という力そのものが存在しないのだから。なら、一つや二つ渡しても支障は出ないんじゃないだろうかとクロムは考えた。
「え、くれるのか・・・?」
それに、この術式は家一軒程度の大きさまでなら転送することが出来る(ただし、無機物に限るが)。コレがあれば、戦略の幅が広がる筈だ。とそう自分を納得させるクロム。
「貸すだけだ。貴重な物だからな。あと一つしかないものだから、大事に扱えよ。」
と言って、ポケットから出したそれを真也に押し付ける。これは、万が一の時の為に余分に作っておいたものだ。オリハルコンで出来ているため滅多なことでは傷一つ入らないが、用心に越したことはないだろう。
「それは、生体反応を認識し、持ち主しか使用出来なくする。今、お前は仮ユーザーとして登録された。俺は絶対権限を持っているので、俺が使用禁止と命じれば使用不可能になる。俺が死んだ場合も同じだ。」
これは保険だ。これを目当てに、クロムに牙を剥く人間がいないとも限らない。クロムが死んだ場合も使用不可になると言っておけば、無茶な事をする人間も減るだろうと考えた。
(まあ、俺を殺せる存在なんているのか分からないけどな)
だが、面倒な事は早めに対処するに限る。
「転送出来るのは無機物のみ。一般的な家一軒分程度なら転送可能だ。」
「す、凄いなこれは・・・。」
クロムが真也に使用方法をレクチャーしている間、残りの二人は『念話』を使用していた。これはこの双子の特殊能力で、この二人はどんなに離れていても話をすることが出来る。
『どう思う奈々?』
『うーん、敵じゃないとは思うけど、それ以外はさっぱり。あの銀色の長剣とか、転送装置とか、色々規格外過ぎるよ。一体何者だろう?』
『身体能力も異常だ。ゴーレムの攻撃を片手で防ぐなど、信じられん。だが・・・。』
『うん、これで勝機が見えてきたね。・・・この世界を破壊なんてさせるもんか。私たちが、必ず止める。』
『ああ。・・・・・・あの人を、必ず止めよう。もし、止まらないと言うのなら・・・・・・。』
『うん・・・。私たちが殺す。他の誰にも譲らない。』
『ああ。・・・・・・一応、クロムに監視を付けるぞ。完全には信用出来ないからな。』
『分かった。それは私がやるよ。他の人だと頼りないから。』
『了解した。』
『念話』を切った2人は、取り敢えず本拠地に帰ろうと真也に進言するのだった。
★★★
クロムたちが居たあの山の奥には、巨大な研究所が存在していた。そこでは、日夜<壊術>の研究が行われている。
今そこは、混乱に見舞われていた。テロリストにより研究所内で爆発事故が発生し、その消火活動に追われていたからである。更に、たった3人のテロリストを捕縛させる為に出撃させた捕縛部隊が敗走したのだ。
この研究所の兵士の能力は高い。流石に、王国最強と呼ばれる<ロイヤルナイツ>には敵わないが、それに準じる程であったはずなのだ。それが、突然現れた一人の男に、成すすべも無く敗北したという。
研究所の主任である四谷蓮二は、捕縛部隊隊長である桐ヶ谷宗二の報告を聴き終わり、溜息を付いた。
「・・・つまり、突然現れた黒い男に部隊を全滅させられたと?」
「いえ、全滅では有りません。部隊員の、約半数が行動不能になりました。」
宗二は、臆するでもなく淡々と話を進める。
「未知の攻撃により我が部隊の半数を一瞬で無力化し、更にゴーレムを瞬殺。全滅の危険性があまりにも高かった為、やむ無く撤退をしました。」
「やられた人間の容態は・・・?」
「腕と足の骨が折れており、更に酸素欠乏により気絶。戦闘服にも全身に亀裂が走っています。全員同じ容態です。」
頭痛がしてきた蓮二だったが、宗二の言葉に引っかかりを覚え、質問した。
「・・・全員同じだと?」
「はい。骨はほぼ同じ部分が折れています。」
(それは・・・<壊術>ではない・・・?)
<壊術>の研究において第一人者である蓮二は悟る。そもそも、<壊術>では細かい制御など不可能だ。<壊術>で人体に攻撃すれば、全身の骨が粉々になる。それだけを目的とした力なのだから当然だ。更に、<想術>では破壊行為そのものが出来ない。捕縛部隊に、ゴーレムを創る人間がいるらしいが、それは<想術>で作ったゴーレムに<壊術>を掛け、ゴーレムが触れた物質全てを破壊する術式だ。
(なら、どうやって骨を折る?何らかの特殊能力か?だが、銀色の長剣はどう説明する?)
蓮二の悪癖がここにきて表面化した。彼は知らないことがあると、知るまで突き進む人間である。今回の次元破壊術式でさえ、『次元を破壊したらどうなるのか知りたい』という欲望により始めたことだ。王に嘘を付いてまで。自分の家族を捨ててまで。
(知りたい知りたい知りたい知りたい・・・)
こうなった彼は止まれない。否、止まるつもりがない。
「隊長、国王に<ロイヤルナイツ>を派遣するように頼め。」
「は、はあ!?」
これには流石の宗二も驚いた。<ロイヤルナイツ>は国王の剣であり盾。国王の傍から離れるなど有り得ない。
「この研究所が襲われたのだ。国王も事の重大性を理解しているさ。もう一度襲撃を受けて、万が一、アレが暴走したら、私達では止められないよ?」
「・・・!・・・了解しました。しかし、いい返事が貰えるとは限りませんよ?」
「貰えるさ。」
蓮二は不敵に笑うと、部屋を後にした。残されたのは隊長と、調書を取っていた部下一人。
「・・・来てくれますかね?」
部下が尋ねる。
「お前も分かってんだろ?・・・来ないさ。」
そう答えて部屋を出る宗二。
・・・しかし、二人の予想に反して、翌日<ロイヤルナイツ>の大部隊が、研究所へとやってきたのだった。
感想等まってますよー^^