・・・くる!
直列世界第10番アテーネ。無限に存在する世界の中で、二桁の番号を持つこの世界は、直列世界全体の中でも強力な世界だ。
そもそも、世界に付けられた番号は、そのまま世界の序列である。それぞれの世界には固有の能力や特徴などが存在し、それが強力な世界から順番に数字が付けられていく。つまり、今クロムがいる直列世界第1380番ティターニアは、無限に存在する世界全体で見れば十分に強力な世界だと言える。
以前、世界にも意思があると言ったのは覚えているだろうか?世界は、生まれた瞬間に、その力量に応じた番号を付けられ、それ以下の世界の順位が変動する。そしてこの数値は、クロム達『守護者』・『抑止力』がどの世界を救いに行くかの目安となっているのだ。
当然だが、彼ら『守護者』にも力の強いもの弱いものが存在する。力の強いものが序列の低い世界でその強大な力を使えば、最悪の場合その世界を殺してしまうことも有り得るし、逆に力の弱いものが序列の高い世界に行っても、力不足で救えないかも知れない。
それを避けるために、『守護者』間では大会などを開いて力の見極めを計り、その人物の力を測定して、丁度いい位の世界間を任せるのだ。
因みに、一番最近の大会でのクロムの順位は1041番。どんな強大な力を用いても絶対に破壊されない世界である、全ての直列世界の生みの親だと言われる、直列世界第1番ゼウムで開催されるその大会で、ヘタな世界ならば跡形も残らず破壊されるような攻撃を用いてもその順位だった。それ程に、世界と世界の溝は深いのである。・・・まぁ、名のある神獣や聖獣、果ては神まで存在する『守護者』において、一般的には脆弱だとされる人間種族でこの順位というのは驚異的なのだが。
さて、話を戻そう。
この直列世界第10番アテーネには、クロムの次の順位である1042番の『守護者』が住んでいた。珍しい事に、この『守護者』も人間種族であり、性別は女性。そして、クロムと同じように不老不死という特性を持つこの女性は、自分と同じ存在であるクロムに多大なる興味を抱いていた。
・・・ただ、クロムのように不完全な不老不死ではなく、ほぼ完璧な状態での不老不死なのだが。だが、どちらも一長一短である。クロムの『回帰』は、生き返ると同時にそれまでの全ての状態異常などもリセットされるが、この女性の不老不死はそういう特性は付いていない。ただ老いないだけ、ただ死なないだけ。体が欠損すればそこはそのままだし、呪いなどを掛けられてもそのままだ。だから、それらに対処するために、彼女は様々な世界の術を習得しており、術の扱いについては『守護者』間でも上位であった。
そしてそれは、クロムと殆ど同じである。性格などの細かな違いを除けば、クロムの女性版といっても過言ではない女性だった。・・・そして、彼女はクロムと一緒に『フェアリー』シリーズを作り上げた張本人である。・・・つまり、『フェアリー』は、『守護者』二人の間に生まれた子供たちであるといっても過言ではない。
『守護者』二人の技術と知恵を合わせて生まれた子供たちは、全員が無意識下で繋がっている。それはつまり、全員の思考、記憶、感情を共有しているということである。世界を超えても繋がっている。
そして、父親について行った子供たちがいるように、母親について行った子供たちもいるのだ。
・・・話は長くなったが、つまり、クロムがそれまでの力と知恵を無くして無力な少年に戻ってしまった事を、その女性は知ってしまったということだ。そして、行動的なその女性は、後先考えずに突っ走った。
・・・・・・クロムに何が起きるのかは、まだ誰にも分からない。