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クロム  作者: 芳奈揚羽
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修行開始

「・・・頼む。僕を、鍛えてくれ。」


 クロムは、翡翠に深々と頭を下げた。翡翠は大慌てである。自分は、この一件に関わることの危険さを教えて、マスターに覚悟を問いたかっただけなのだ。それでもなおマスターが救いたいと願うのなら、自分たちはそれを全てを掛けて後押しするだけである。まさか、自分の生みの親に頭を下げられるとは思っていなかったのだ。


「ちょっとマスター!?」


「僕は、この国の事を聞いて、最初は信じられなかった。・・・国王が民を虐げるなんて、僕の中の常識では有り得ないことだからだ。僕の世界では、たった二つの国が世界を支配していたから・・・当然だったのかもしれないけど。」


 彼の世界は、大地の国サン・アペンロと、空と海の国ブルー・アポロティスという国が惑星の全てを支配していた。そもそも、戦争とは相手が居なければ起こりえないものである。もっと富を、もっと権力を、もっと民を豊かにしたいなど、理由は幾らでも存在するが、奪う相手がいて始めて成立する。・・・だが、彼の世界では、その相手が存在しなかった。


 相手ならばいるではないかと思われるかもしれないが、これには理由がある。そもそも、空と海の国ブルー・アポロティスの国民が、鳥人とりひと海人うみひとと呼ばれる人種だったのだ。彼らはそれぞれ、空と海に特化した身体性能を持っていた。鳥人は、超高高度での強風と酸素の薄さに対応し、更に白い翼を持ち、自由に空を飛ぶことが出来るため、無数の浮遊島で世界中を飛び回っていた。海人は逆に、深海の暗さと水圧に対応出来るように体が進化していたし、水中での呼吸が出来るようにエラのような器官も備わっていたため、海底に多数の都市を建造し、そこで暮らしていた。彼らは大地で生活することも可能ではあったが、居心地の良い場所を捨ててまで大地で暮らす必要性など存在しない。そして、大地の国サン・アペンロの国民は、逆に空と海に対応していなかった。


 大地や深海の資源も、お互いがお互いに対して融通していたので、これもまた争いの原因にはならなかった。そして、彼らの世界には、魔獣と呼ばれる人類共通の敵が存在したことも、彼らの仲を深める要因であった。


 魔獣は強大すぎた。それこそ、いくら倒しても終わりが見えない程に多く、小さな街程度ならば壊滅させるレベルの力を持つ個体も多く存在した。倒しても倒しても何処からともなく湧いてくる魔獣を相手に、人類同士で争っている場合ではなかったのだ。


「僕は、もう王子ではないけど・・・それでも、一人の王族としてこの国の王が許せないんだ。王とは民を守る者。王とは民の先頭に立ち戦い続ける者。僕はこう教わってきたし、こうしてきた。その王が、民を虐げ、あまつさえ世界を崩壊させようとしている(国王本人は戦争の為の兵器くらいにしか思っていないようだが)ならば・・・僕が戦いたい。」


 クロムは、もう一度深く頭を下げる。


「・・・お願いだ。君たちの指示にはちゃんと従う。君たちが危険だと判断したなら、全てを投げ捨ててでも撤退すると誓う。・・・だから、頼む。僕を鍛えてくれ。もし、僕が期限までに強くなれず、この戦争に赴くには力不足だと判断したなら、この世界から脱出すると誓うから。」


 全てを翡翠たちに委ねると・・・そう言った。クロムを鍛えてから、結果を見て決めてくれと。些か弱腰ではあるが、これも仕方がないことだった。何故なら、世界を救うのに失敗した場合、犠牲になるのは彼だけではなく、翡翠など『フェアリー』シリーズ達や、この世界全てが死んでしまうのだから。クロムの意地に、翡翠たちを巻き込むわけにはいかない。


「・・・・・・分かりました。私の負けです。その代わり、私たちがダメだと判断したら、絶対にこの世界から脱出してもらいますからね。」


「・・・分かった。」


「・・・それでは、あまり時間がありませんし、早速修行を開始しましょう。・・・出てきなさい『水晶』。」


 翡翠の言葉に、クロムの腰に付いた『韋駄天』が光輝き・・・そして、人影が現れた。


「うーん・・・外は久しぶりだなー!」


 そこに居たのは・・・


「子供?」


「・・・うわ、話は聞いてたけど、本当に記憶なくなってるんだねぇ・・・。ま、いっか。自己紹介すると、僕は『フェアリー』シリーズの三番目!【空間魔法】に特化した『水晶』だよ!よろしくね!」


 人間で言えば五歳くらいの女の子であった。


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