閑話
「・・・うわぁ・・・・・・。」
若干引いたようなクロムの声を尻目に、ガガガガガガという凄まじい音を立てて小さな機械が振動している。この世界で聞くことは出来ないであろうその凶悪な音によって、魔獣は怯えて全てこの一帯から姿を消していた。その機械は本当に小さな代物だった。一辺が5センチ程の正方形をした灰色の物体である。『拠点作成』と名付けられたその機械は、数百年前のクロムが、半ば遊びとして作った機械であった。その能力は名前の通りの拠点作成。予め設定した建物を、周囲の材料を消費して作成する機械であった。
見えない不思議な力で周囲の木々を伐採し、地面を掘り返し、見たこともない材質で出来た建物が完成していく。実は、錬金術や合成術などの機能も備わっているため、取り込んだ材料を別のものに変えてそれを材料としている。無駄に高性能な機械であった。
「う・・・うわぁ・・・。」
稼働開始から僅か十分で、森の一部が消滅し、明らかにオーバーテクノロジーの塊な白銀のドームが完成していた。
「魔術による認識阻害結界や、機械による物理的な防御手段も完璧な、正に要塞と呼べる建物なんですよ!更に更に、私達がこの拠点が必要なくなって破棄した場合、時間魔術の応用で、全てが元通りになるようになってるんです!環境にも優しい発明品なんですよ!」
翡翠が、まるで自分のことのように誇らしげに自慢しているが、クロムは『未来の自分は一体何をしていたんだ・・・』と思っていた。
「さ、中に入りましょう!」
中に入る際にも、声紋認証や網膜認証、指紋認証に魔力認証など、様々なセキュリティーを突破しなければならないという、面倒な仕様であったことを明記しておく。
建物の中は、外のゴテゴテとした見た目とは裏腹に、優しい、柔らかな感じの雰囲気であった。リビングと思われるその部屋には、柔らかそうなソファーと、熱々の料理が乗ったテーブルが置いてあった。
「・・・何でさ?」
ソファやテーブルは兎も角、料理は何処から出てきたのかが理解出来ず、フリーズするクロム。分かるだけでも、シチューにステーキ、サラダに焼き魚、ワインなどの酒類、その他多種多様な料理がこれでもかと並んでいて、美味しそうな臭いをさせている。
「私にも、この料理がどうやって出来ているのかは分かりません。でも、美味しいですよ?」
「・・・これほどの食材をどうやって調達したのかという疑問は残るが・・・まぁいいか。食べ物を粗末にするのは駄目なことだし。」
実は、今まで一度も食べ物を残したことがないのが密かな自慢という、相変わらず王子らしくないクロムであった。
もうしばらく忙しいので、更新は遅めです。お待ちください。