選択
「しっかりしてください!」
パチンという小さくもハッキリとした音が森に響いた。音の発生源はクロムの頬であり、犯人は翡翠である。
「あ・・・・・・。」
クロムは、呆然と自分の頬を撫でた。小さな翡翠の平手なので、別に痛くはない。寧ろ、叩いた翡翠の方が若干涙目になってしまっている。だが、彼にとっては十分に衝撃だった。何故なら、彼は王子であり、努力家でもあったため、人に恨まれたりという経験があまり無かった。普通、王子と言えば贅沢な暮らしをしていたりして恨まれるというのが相場だが、彼の世界では、王族とはその国で一番強い一族であり、魔獣退治には必ず出撃する必要があるなど、命の危険も多かった為に恨まれるような事はないのだ。
「ショックなのはわかります。・・・でも、先ずは話を最後まで聴いて下さい。これから、貴方はどうするのかを決めなくてはいけません。・・・時間が無いんです。」
翡翠がここまでするのには理由があった。・・・彼女は焦っているのだ。とある理由によって、急がなくてはならない事に気が付いたのである。
だが、翡翠のこの行動によって、混乱の極みにあったクロムの精神も少しずつ安定を取り戻していった。
「・・・分かった。続けてくれ。」
一時停止状態になっていた映像が再開する。
『・・・さて、今俺が言った事は、お前に大きな影響を及ぼしているだろうな。自分のことだから分かる。今まで必死で守ってきた国が、世界が、千年以上も前に滅びた何て聞かされて平常心でいられるわけがない。』
まるで見ているように現状を言い当てられ、少し顔を赤くするクロム。
『いいか、お前がこれから選べる選択肢は三つある。一つは、このまま全てを忘れて平和に暮らす道。』
映像の中の彼が指を立てる。
『世界は無数に存在する。その中で、お前が気に入った世界で生きればいい。どうせ、死ぬことも出来ないし狂う事も出来ないんだから、永劫に世界を旅行し続けるのもいいだろうさ。・・・長い人生だから、楽しい事を探して生きていくっていうのが一番楽な選択肢だ。』
二本目の指を立てる。
『二つ目の選択肢は、このまま世界の守護者として生きるという道。滅亡の危機に瀕している世界は無限にある。その中で俺達が助けられる命は、ほんの一部に過ぎない。・・・だが、お前が頑張る事で救われる命も確かに存在するんだ。そして・・・』
三本目。その時の彼の顔は、苦悩に満ちたものだった。
『三つ目は、あまりオススメしない。恐らく、一番辛く、険しい選択肢だ。・・・本当は、未熟なお前には先程の二つの内から選んで欲しい。・・・・・・俺ですら、半ば諦めてしまった選択肢なのだから。』
そう言って苦笑する映像の中のクロム。その表情は、全てを諦め、諦観してしまった人間の顔であった。クロムも、翡翠でさえも唾を飲み込む。
『この選択肢は・・・俺たちの世界を破壊し、更には他の様々な世界を破壊し尽くそうとする組織の壊滅の為に奔走する道。俺が、千年掛けて達成出来なかった難題に突き進む道だ。』
仕事の関係で、最近凄く忙しいです。なので、短いですが投稿。続きは少し待って下さい