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クロム  作者: 芳奈揚羽
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亡霊と少女

「ハハハ!ビンゴ♪」


 クロムが撃墜されたその時、彼らの場所から南へ約30km程離れた小さな村の宿屋で、そんな声が響いた。宿屋と言っても、一軒家の二階を宿として提供しているだけの小さなものなので、その声は早朝の村にはとても響く。主人や早朝から仕事が始まる人間が迷惑そうに顔を顰めているが、その声の主は気がつく筈も無かった。


「お仕事・・・完了?」


 赤いジャケットに黒いジーパンを着て、宿屋の中だというのに無骨な狙撃銃を構えている金髪の男に、小さな少女が尋ねた。その少女はまだ4、5歳といったところだろうか。白銀の髪を腰の辺りまで伸ばしている。着ているのは涼しげな印象を与える蒼いワンピースであり、蒼い瞳の色と相まって、神秘的な印象を醸し出している。誰が見ても美少女と言うであろうその少女は、しかし見た目の年齢に似合わず瞳に力が宿っていなかった。全てを諦めたようなその絶望を、何故この少女は持っているのだろうか。


「あぁ。守護者を殺せなんて依頼がきたときは俺の人生もこれで終わりかなんて思ったが、相手が守護者の中でも『普通』の部類のヤツで助かったよ。守護者・・・抑止は神様やら幻想種やらの集まりだからな。さっきの黒いヤツも強いんだろうけど、人間の形をしているなら俺の敵じゃねぇ。暗殺にかけて、俺は間違いなく全次元最強だからな。」


 狙撃銃を片付けながら飄々と喋るその男の言葉は、誇張ではない。彼は、同じ惑星にいるのなら、『惑星の反対側からでも対象の暗殺が可能』な暗殺者なのである。距離も障害物も関係無く狙撃し、標的以外には一切被害を出さないこの男は、『亡霊ファントム』と呼ばれ、いくつもの次元世界で恐れられている。


 何故、そんなことが可能なのかと言えば、それは彼の固有スキルと武器の御陰である。先天性固有スキル『千里眼』。彼は、対象の顔や名前などの情報を知ることさえ出来れば、距離に関係なく標的を視る事が出来る。さらに、彼が特注で作成した狙撃銃『ゼロ・レンジ』は、撃った弾を転移させることが出来る。しかし、この能力を使用するには対象が見えていて、目的地点の座標を入力しなければならないというデメリットがあり、実質、彼以外には有効活用出来ない代物であった。


 彼に狙われて生き残った人間は皆無である。どのような鎧やシールドの類もすり抜けて、標的を一撃で殺害する彼に、一体誰が太刀打ち出来るというのか?更に、狙撃地点の近くに彼はいないので、捕らえる事も不可能だ。彼は、狙われたら運が無かったと諦めろと言われるレベルの災害であった。


「しかし、このタイミングで抑止を殺せってことは、この世界を破壊したいヤツがいるってことだろうな・・・。世界の破壊なんて物騒な事、一体誰がやってるのかねぇ・・・。」


 『ゼロ・レンジ』を片付けながら独り言を呟く彼。最近、次元世界が相次いで消滅しているのだ。守護者、抑止が救いに行ったにも関わらず。このような事は、今まで無かった。何百年かに一度、抑止が間に合わず崩壊する程度だった筈なのに、この十数年の内に、なんと3つもの世界が崩壊しているのだ。これは異常な数値である。世界の崩壊によって死んだ命は、数えられる筈が無いほどの数。何者かが裏で動いているとしか考えられない事態だった。


「あぁ・・・。ヤメヤメ!依頼人の事を詮索しようとする奴は長生き出来ないし、俺に関係無ければそれでいいか!」


 最悪、自分の居る世界が壊れそうになっても別の世界に転移すればいいのである。彼は自分が楽しければ他の人間がどうなろうと関係無いという人間なので、この疑問を直ぐに振り払った。


「じゃぁ、帰りますか!ほら、ソフィー。」


「・・・ん。」


 だが、彼女に手を伸ばした彼の笑顔は、とても自分本位な人間の物とは思えない程に慈愛に満ちていた。少女もそれを感じているのだろう、無表情だった顔にほんの少し笑みを浮かべて伸ばされた手を取る。


「じゃ、転移開始!『アークフィールド』へ!」


 彼らの足元に光り輝く魔方陣が形成され、彼らの肉体を分解していく。叫んだり光ったりと周りに迷惑な行動ばかり取る客に一言文句を言ってやろうと二階に上がってきた主人が見たのは、誰も居ない部屋。そして、机の上に置いてあった金貨であった。これを見て主人が喜んだのは言うまでもない。


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