出撃準備
「俺の意見を言わせて貰うとだ。今すぐクーデターを起こしたほうがいい。」
<ロイヤルナイツ>が戦闘行為を中止し、やっと混乱が収まったレジスタンスの会議室。この会議に参加しているのは、リーダーである真也、副リーダーである龍一と奈々、実行部隊隊長である吉井、そしてクロムと、<ロイヤルナイツ>隊長である舞花であった。今後どうするかを決めるその会議で、クロムは発言した。
「何故だ?クロムも見ただろう、俺たちレジスタンスの練度の低さを!軍とまともに戦えるのはほんの一握りしかいないんだぞ。今国と争うのは危険過ぎる!」
龍一が反対意見を出す。奈々も同じ意見のようで、頷いている。今回の襲撃で、レジスタンス側は烏合の衆だということがクロムにも分かっていた。態々襲撃の事をクロムが知らせたにも関わらず、何の行動も起こせなかったのだ。軍と戦うべきだと叫ぶ人間、逃げるべきだと言う人間、恐怖で動けなくなる人間・・・意見がバラバラになりすぎて、結局何も出来なかった。
(この集団の事を過大評価していたようだな。トップが部下を纏めきれていない。何がレジスタンスだ、唯の素人集団じゃないか)
クロムは、真也に失望していた。確かに、彼の戦闘能力は高い。部下からもある程度は信頼されているのだろう。しかし、組織のトップに立つ人間に一番必要なのは、組織を纏める力だ。部下を自分の手足のように動かすことが出来ない人間はトップに立つべきではないとクロムは考えている。
逃げるなら逃げる。戦うなら戦うでトップが判断を下さなければならないのだ。今回、もし此処にクロムが居なければ何も出来ずにレジスタンスは崩壊していただろう。
「確かに、このレジスタンスは烏合の衆のようだ。」
クロムの言葉に、集まった幹部達は驚いた後、悔しそうな顔をして俯いた。自分達でも自覚しているのだろう。真也の落ち込み具合は特に酷かった。
「しかし、それでも今戦うべきだ。」
だが、落ち込んだ彼らの耳に届いた言葉は驚くべきものだった。彼らは呆然とクロムを見る。クロムが何を考えているのかが分からないのだ。
「今回レジスタンスに参加した<ロイヤルナイツ>の隊員には、制限時間がある。彼らは、大切な人を人質に取られているんだ。」
そして、その言葉を聞いた彼らは、この会議に特別に参加していた<ロイヤルナイツ>隊長、有里舞花を見つめた。彼らの目は、本当なのかと彼女に問いを投げかけている。
その視線に対して、彼女は一度頷き、
「本当です。私も、将来を誓い合った恋人を人質に取られています。他の隊員も、家族や恋人を。・・・でも、私達が盗聴や自爆術式に気がついてしまったので、時間が無いんです。・・・・・・我々の大切な人は、明日にも殺されてしまうかもしれません。」
俯き、搾り取るような声で告げられた内容に、聞いていた人間はすっかり同情してしまった。
「成程・・・。それで今すぐクーデターを起こせと言うわけか。」
龍一はしきりに頷いている。つまり、<ロイヤルナイツ>の協力を得られる最後のチャンスなのだ。恐らく、あの国王は人質を殺すだろう。しかし、それには数日掛かるはずである。何故なら、彼はギロチンでの処刑が大好きだからだ。毎日、罪のない一般人数百人がギロチンによって処刑されている。今から人質の処刑を決定しても、実行まで何日かの余裕がある。その間に助け出せばいいのだ。
逆に、もしレジスタンスの行動が遅れて、人質の処刑に間に合わなかったらどうなるか?恐らく、<ロイヤルナイツ>全員の協力を得るのは難しい。何人かは大切な人を奪われた復讐で協力してくれるだろう。しかし、少なくない人数がこの国を去るか、もしくは自殺する。最悪のケースとしては、行動が遅れたレジスタンスに怒りの矛先を向ける人間もいるかも知れない。
今、この時が、世界最強の戦力を味方に出来る最後のチャンスなのだ。
「俺はクロムに賛成しよう。確かにレジスタンス自体は弱い。だが、<ロイヤルナイツ>が仲間になってくれるのなら話は別だ。クーデターが成功する確立は飛躍的に高くなる。」
龍一の言葉を受けて、リーダーである真也は腕を組んで考え込む。
「俺も賛成だぜ。どうせ何時かやらなきゃいけないんだ。それが多少早くなっただけだろう?」
その言葉に吉井も続いた。
「私も賛成かな。世界を破壊出来る術式が何時完成するかも分からないでしょ?昨日の襲撃で完成を遅らせることは出来たと思うけど、完全に破壊は出来ない。なら、先に国を落とすことが出来れば、術式の研究も辞めるしかなくなるよね?」
昨夜、彼らが研究所に襲撃をかけた理由であった。あの研究所で、世界を破壊する術式を研究していたのである。本当は術式ごと全てを破壊したかったのだが、予想よりも厳重な警備だったので、少ししか破壊することが出来なかったのだ。時間を掛ければ掛けるほど、世界は危機に陥っていく。早めに解決出来る手段があるのなら、その方法を使うべきである。
「え、世界を破壊・・・?」
この話を初めて聞いた舞花は呆然としているが、それもしょうがない話だろう。王国でも一部の人間しか知らない筈の話だ。
「・・・・・・分かった。お前らがそういうのなら。俺たちは明日、国王の首を取る。準備を始めろ!」
真也の号令と共に、全員が働き出す。レジスタンス全員に話を伝えに行くためだろう。
(・・・しかし、自分で煽っておいてなんだが、随分と荒い計画だよな・・・。まあ、俺も暇じゃ無いし、何時までもこの世界に居られない。さっさと終わらせて、別の世界に行きたい)
クロムは、慈善事業で守護者などをやっているわけではないのだ。彼には彼の目的がある。そして、その目的はこの世界では叶えられないと判断した。その為、面倒な事は早く終わらせようとしているのである。
(ま、多少計画が荒くても、俺が無理やり突破してやればいい)
レジスタンスが何かをミスっても、それを修正するだけの力が彼にはある。恐らく、1対1万の戦いをしても楽勝に勝てるだろう。彼の実力に裏打ちされた自信であった。
(でも、まだ足りない・・・。これじゃ、奴らには勝てない)
彼は何処までいっても人間である。人間以上の才能は『ダウンロード』では手に入れられない。だから彼は世界を巡るのだ。何時か、人間以上の何かに成れる日を夢見て。
「首を洗って待ってろよ。何時の日かお前たちに追いつく。あいつらの仇は、絶対に取るからな・・・・・・!」
青空を見上げる彼の瞳には、一体何が映っていたのだろうか・・・。
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