記憶操作
「お、俺の術式にも自爆術式が・・・。」
「俺のもだ・・・。」
クロムの指摘により自身の<ロイヤルナイツ>の術式を調べていた彼らだが、彼らの術式には例外なく盗聴と自爆術式がかけられていた。普通に術式の点検をしていたのでは見つけられない程巧妙に隠されていたが、唯の研究者程度が作成した術式など、クロムの敵では無かったのだ。
「しかし、何で自爆術式が発動しなかったんだ・・・?」
部隊の一人が言う。確かに、不可思議な状況だ。今までの会話が盗聴されていたのなら、隠していた術式がバレた時点で遠隔操作で自爆させているはずである。使い捨ての駒にされた彼ら<ロイヤルナイツ>が国王の為に働くことなど有り得ないのだから。それどころか、レジスタンスに参加して国に反乱を起こす可能性すらあるのに、何故自爆させなかったのか?
その答えは簡単で、単にクロムが自爆術式を妨害していたからであった。盗聴していた王は、既に自爆ボタンを押していた。ただ、その自爆を、クロムが魔法で押さえ込んでいただけである。時魔法による術式の凍結・・・圧倒的な魔力保有量を誇るクロムならではの力業だった。常人がこれをやろうとすれば、恐らく魔力枯渇で気絶、もしくは死亡していただろう。
(さて、こいつらの記憶を弄らせて貰うか)
パン!と彼が手を合わせると、その瞬間、彼の周囲半径10km以内の全ての生物が眠りについた。敵も味方も関係なく、人間も動物も無差別に。空間魔法と眠りの魔法の合わせ技である。一定空間内の対象を眠りにつかせることが出来る。
クロムは目立つ訳にはいかないので、今の戦闘を見ていた人間全ての記憶を改変しなければならなかった。記憶改変には、それなりの手間と労力が掛かるため、その間眠って貰ったのだ。
「武器倉庫解除。トの1番を転送。」
何時ものように『韋駄天』から光が飛び出し、彼の目の前に浮遊する。光が収まると、そこに浮かんでいるのは、全長10cm程の、羽の生えた小さな女の子であった。薄い緑色のワンピースを着て、髪の色は金髪の、美少女である。
「・・・起きろ『翡翠』。出番だぞ。」
彼が話しかけると、その少女は一瞬ピクリと身動きをし、閉じていた目蓋を開けた。そして、彼の姿を確認するとその整った顔一杯に笑顔の花を咲かせ、彼の頬に張り付いた。
「マスター、おはよー!」
「ああ、おはよう・・・・・・。」
この時ばかりはクロムも優しい微笑を浮かべて挨拶を返した。彼女は、彼が制作した人工生命体『フェアリー』シリーズの長女、つまり最初の作品であった。これは、長い間一人で世界を巡ってきた彼がその孤独に耐え切れずに作成したものだ。ただし、この容姿は彼が設計したものでは無く、とある世界で出来た女性の友人がデザインしてくれたものだった。彼の名誉の為に記しておくが、彼は決してロリコンではない。例えるならば父親であった。
「それで、何かご用ですか?」
翡翠がその小さな首を傾げて要件を尋ねる。彼はその仕草に心が和むのを感じながらも、先に要件を済ませることにした。
「こいつらの記憶を弄りたい。頼めるか?」
彼がそう尋ねると、翡翠は心外だとばかりに頬を膨らませて抗議した。
「私を誰だと思ってるんですか!この程度の人数、楽勝です!」
「俺の戦闘を見たやつ全員の記憶を改変してくれ。」
「わかりました。じゃあ、まずは半径20kmの生物の記憶を一斉検査しますね。」
翡翠がそういうと、その小さな体に見合わない膨大な魔力が放出された。彼らを中心に地面にはクモの巣状にヒビが入り、風が吹き荒れ木々が揺れる。一つの街を滅ぼせそうな魔力を噴出しているのに、当の本人達は涼しい顔をしていることから、翡翠も強力な力を持っていることがわかるだろう。
彼らの真上、上空300m程の場所に、巨大な魔方陣が出現した。それは、彼女からの無尽蔵の魔力供給を受けてドンドン広がっていき、数分後には直径20mくらいの超巨大な魔方陣が完成したのだった。
「魔方陣完成です。じゃあ、記憶を覗きますよ。」
翡翠はそう言って、効果範囲内の生物のここ2時間程の記憶を眺めていく。そして、クロムの戦闘を見た人間の記憶を、無害なものに改変していった。
結局、『クロムと戦う前に自分たちで盗聴と自爆術式に気がつき、戦闘行為を即時中止。国王に対して反逆をするためにレジスタンスに参加』という記憶にすり替えて置いた。
「この人たち、人質を取られていたみたいですよ。」
翡翠が不機嫌そうに喋った。恐らく、この国の国王が許せないのだろう。彼の政治は、圧政、恐怖政治だ。自分の思い通りにならないものは殺す。自分が第一の自己中心人物。自分の楽しみの為ならば、民の命などどうなっても構わないという人間である。
「私、この王様嫌いです!」
翡翠が更に頬を膨らませている。どうやら、相当頭にきているようだ。
「俺もだよ・・・。こういう奴は許せない・・・・・・!」
しかし、翡翠の怒りはクロムの怒気で霧散してしまった。翡翠が恐る恐る彼を見ると、普段本気で怒ることの無い彼が歯をむき出しにして怒りを露にしている。
「あいつらと同じだ・・・あいつらと・・・。」
(・・・マスターは、どれだけ辛い過去を背負っているの・・・?)
せめて、彼の苦しみを少しでも和らげたいと思い、彼の頬を撫でてみる翡翠であった。
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