《タイリク》
遅くなりまして
ギシャアアア!!
緑色の肌をしたトカゲのようなモンスターが十数匹、集団で襲いかかってきた。
それを時に躱し、杖で殴り、いなして一つの塊に、と集めた。
そんな大変な目に遭っているオレを尻目にブラウはというと、昼飯の用意をするからと、こちらを見向きもしないで包丁を動かして肉を切っていた。
・・・なんか無性にイラッときたのはしょうがないよな?
『ちっとは手伝ったりしろよな!』
シュッ!
叫んだ瞬間モンスターの爪が目の前を横切った。
っぶねえ! 掠りかけた。
緑肌トカゲもどき、もとい、《ポイズンリザード》には爪と牙に毒があるから、たとえレベルに相当の差があったとしても十分に注意しねえと痛い目に遭うぜ、コレ基本!
『よし、大体集まったかぁ? そんじゃいきますか
地獄の業火よ、燃やし尽くせ≪ヘルファイア≫!』
ゴオオオオォォ!!
まるで地獄の底からの叫び声のような炎の燃える音と共に、焔がモンスターのいる場所を舐めた。
それは唱えた本人が言うのもなんで、とても凄惨な光景だったのだが。
『イヤ、ないだろ・・・ゲームマスターってシュミ悪っ!』
ぶっちゃけ、不気味すぎるぜ。音が耳に残ってかなり不快な上、効果範囲もあまり広くないし、せいぜい二十匹前後が上限だろうと思うと、連発には向かねえな。何より、オレがあの音を聞きたくねぇ。
あー、疲れた。そんでもって
ハラ、減ったぁ。
キュウウゥ
パチパチ
あれからすぐに効果範囲外にいたモンスターも秒殺してオレも夜の支度を手伝った。薪を集めてくるの早くなったなあ。
『んま! ナニコレ、何の肉使ったらこんな美味くなんだよ!?』
マジで美味い、この蕩けるような柔らかさ、染み出る肉汁、堪んねえ!
「ああ、それはさっきお前が仕留めた《ラピッドラビット》さ。高級食材なんだぜ。
名前の通りメチャクチャ動きが素早いし、養殖しようとしてもストレスですぐ死んじまうからなかなか手に入らねぇんだ。果たして売ったら幾らになったことやら。」
ヤレヤレとブラウは大げさに肩をすくめて見せた。
つか、あのどこにでもいそうなシロウサギがなあ。やけに素早いと思ったが、どおりで。てっきりそれが普通だと思っていたから、コッチの世界の動物身体能力スゲェなぁ、ついていけるかなってビビッていたのに、そういう訳だったのか。
あー、よかった。
内心そう思いながら、パクリとまた肉を一口食べ、俯いていた顔を上げるとブラウは三杯目をよそっていた。オレの分まで食べられそうな勢いに、しっかり味わいながらも急いで中身を掻き込むのだった。
『食べたなぁ。』
「はー、もう食えねぇ。」
腹をスリスリ、ブラウがのたまう。二人とも胃袋の限界に挑戦するかのように食べたため、動くのが辛そうである。まったくもって自業自得だが。
既に月は昇りきり、あとは眠ることが今日の最後の仕事となったので、二人は疲れた身体で大人しく寝袋へと潜り込んだ。
のだが。
気が高ぶっているのか一向に眠気がやってこない。
困った。明日も早いってのに、どうすっかなぁ。
ゴソリとクリスは寝袋の中で身じろいだ。
「なあ、暗黒大陸≪デュシルス≫ってのを知っているか?」
おう? いきなり何だ?
『暗黒大陸、ねえ。んーん、知らない。』
ブラウは寝袋から起き上がると、消えかけていたたき火に枝をくべ足してからこちらを振り向いて覗き込んできた。何となくその体勢がムカついたからオレも起き上がって向かい合った。
「オレたちが今向かっているリュビ大陸のはるか東、海の最果てに存在する大陸なんだが、そこには人間もエルフもドワーフも住んじゃいねぇ。
いるのは魔族や魔物などのモンスターだけさ。日々生存争いを繰り返し、より強いものが生き残っていると言われている。
ウワサじゃリュビ大陸の竜闘山脈≪グランドラン≫に住むようなモンスターがうじゃうじゃいやがる、そんなコエーところらしいぜ。」
『オー、そりゃスゲエな。暗黒大陸ねぇ、アッチじゃアフリカ大陸なのにな。』
アフリカ大陸はオレが産まれるその昔、内陸部がほとんど知られず、文明も遅れていると考えられていたことから暗黒大陸≪Dark Continent≫と呼ばれていたらしい。
それがこっちでは邪悪な大陸ってワケか。
でもなんで今さらそんな話をしたんだ? 別にそんなとこ早々行きも行けもしないだろうによ。
「リュビ大陸の次に行くつもりの場所だからだ。」




