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《シホタル》

それから一週間、オレはひたすらブラウから世情と魔法について教わった。勉強は好きではないがこの世界ではウソのようなホントの話ばかりでちっとも苦ではなかった。


魔法の方は相変わらず、発動はするのだが、どうやら魔力が多いせいで、どうしてもコントロールが効かずに規模がでかくなってしまったようだ。


そこで純粋な魔力の球を造り出し、小さくしたり大きくしたりしてコントロールの練習をしている。これがまた思ったよりムズい。小さくしても圧縮しているだけだと言われたり、爆発しかけたり、四苦八苦している。


とはいえ、今はなんとかそれなりに出来るようになったはずだ。


………タブン。




「いいか、よく狙えよ、落ち着いて……やれ。」


『うん。《ファイアボール》』


狙い違わずオレの放った火球は吸い込まれるように対象のモンスターに当たり、爆発した。肉片が飛び散ることもなく、きれいにこんがりと焼き上げて火は消えた。


よし、コントロールも出来ている、後はもっとピンチの時でも使えるようになれば……


ポンポンとオレの頭を撫でてブラウがそうのたまった。


「よしよし、よくやった。流石はオレ、教え方が上手かったおかげだな。」


オイ、ちょっと待て。


オレがこの一週間教わったことといえば、同じ量の魔力で造った《ファイアボール》を百発空に向かって撃て、ただし間違えたら初めからやり直し、だの、魔力の球を維持したまま寝ろ、だの大雑把感覚に頼るようなものだったぞ。学問的見地からの教えなんてものはちっともなかった。


それでもか!?


と大いに不満を抱いたオレがいきなりブラウを殴ってしまったのも………まあ仕方がない、ことだよな。


「テテテ、いってえなぁオイ。でもちゃんとコントロール出来るようになったんだからいいだろ。あん?それとも手とり足とり教えて欲しかったのかい?」


そう言ってブラウはニタニタとこっちに向かって来た。ハッキリ言おう。


『エロい、キモい、コワイ、来んな、こっち来んなあ!ひあっ!?ちょっ、やめっ、触んなあ!


………いい加減にしやがれこのエロ親父ぃ!』


「ぐぁっ!」


『……あ』


思わずオレはわき腹をくすぐってくるブラウの腹にむかって全力で強烈な右手ストレートを繰り出していた。ヤベッ!


モロに食らったブラウは5メートルほどぶっ飛ばされ木に当たりずるずるとくずおれ、そのまま動かなくなった。


いくらオレが物理攻撃力が全種族中最弱のエルフだったとしても、高レベルのオレともなればそれなりの威力を持っているはずだ。


ともすればオレはブラウを殺してしまったかもしれない、どうか生きていてくれよ!


そう思いながらオレはブラウへと駆け寄って抱き起こした。


『ブラウ! 今治すから! 死ぬな!「や、生きてるから。」《リカバー・コンプリートリ》! え?』


パニックに陥りながらも傷を癒そうと魔法を使おうとするが、その前にブラウの声が聞こえた気がして、唱えた後にまたパニックになった。


そんなクエスチョンマークを大量に飛ばしているオレを置き去りにして完成された魔法は効果を発した。ブラウの下に魔法陣が現れ、淡い緑の光と共にブラウについた傷が消え去った。


『生きてる?』


「おう!」


『マジで?』


「このとおり、何だ、心配したのか? クク、こんな、涙まで流して。」


グイっとオレの目蓋を拭ってブラウは頭に手を置いてきた。オレは顔が熱くなるのを感じて見られないように下を向いた。


『べ、別にそんなんじゃないし! 泣いてなんかないし! 思い上がりも甚だしい、勘違いすんな!』


必死になって訂正しようとするが、ブラウはクスクスと笑うばかりでまったく取り合ってくれなかった。


違う! オレは泣いてねぇ!


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