《セツメイ》
「ここはエムロード大陸さ。緑豊かな精霊の集う大地。」
エムロード、たしかフランス語でエメラルドという意味だったよな。大陸の名前が一緒ってことはやっぱゲームの世界か。
オレとブラウはオレが破壊した岩に腰を落ち着けて、ブラウからしたら当たり前のことを話し合った。
問題は同じ年代かってことなんだよなあ。
ゲームでは神暦1005年だったハズ、神暦1000年からゲームが始まったからな。どれだけ時が経って、もしくは戻っていることやら。
『なあ、今は神暦何年なんだ?』
するとブラウはそんなことも忘れてしまったのかと気の毒そうにオレを見つめてきた。
悪かったな、記憶喪失で! 違うケド。
「ああ、今は神暦705年の四の月、二十八日だな。」
マジかよ、嘘だと言ってくれ、ジャスト300年前なんて。
ゲーム開始時にはオレ死んでるんじゃ、いや、身体はエルフだから、見た目はあまり変わらないのか? この身体はたしか1000年は越えてるしな。
よし! じゃあ気楽に300年生きるか、ん? 開き直りすぎじゃねぇって? なんか精神が身体に引き摺られてるみたいだな、クリスという身体にとって300年は肉体年齢にしてわずか三年足らずってこと。だからへらへら出来るんだろうな、それはそれで問題だけど今は感謝だ。
しっかし、エルフは能力値が高い代わりに成長遅いな。玻璃としてしていたこのゲームの時も思ったけどさ。
プレシャス・ワールドというゲームは他とは少し違ったレベルアップ制をしているんだ。普通レベルアップっていったらモンスター倒して、経験値貯めて、一定値超えたらレベルアップ~、イエーイ、だろ。
それがプレシャス・ワールドでは違うんだよなあ、コレが。なんとプラスして日数が必要になるんだよ。
レベル20までは普通にどんどん人間でも、エルフでもレベルが上がるんだよ、でも、それ以降は種族差ってのがあるんだ。それがもうエルフはめちゃくちゃめんどくさい。
人間の場合は一日に二つまでレベルが上がる、獣人で一日に一つ、二番目に遅い竜人でさえ三日に一つなんだが、エルフは七日に一つという驚異的な遅さだ。もう、最初の頃とか苛つくし、恥ずかしいし、ハンパなかった。
オレと違って堪え性の無い現代っ子は早々にそれが分かると人間や獣人にチェンジしてしまうんだ、だからか慢性的にエルフは数が少ない。
でも、考えてみろよ、レベルが上がっていけば必然的にレベルアップする速度は当然減少するしかねぇだろ。長期的にプレイすることを考えれば、たとえ初期の成長が遅くても、他を圧倒する魔法が使えるエルフならば工夫次第によっては十分カバーできる範囲なんだ。
ましてや、オレのように高レベルになれば、もはやパーティー戦においては敵無しだ。仲間に足止めを頼んだりしてトリガーハッピーならぬマジックハッピーとなる、正直ヤバイくらい楽しい。
ソロのときだって、体力多いのや防御力の高いモンスターを召喚して、壁にして、その間に魔法を使ったり、ぶっちゃけオレに敵はねぇ、状態になるんだよな、エルフって。何故、皆気付かねぇんだ?
まあ、気付いたとしても他よりも経験値も日数も必要だからある意味等価交換ってことで当然っちゃあ当然なんだなぁ。マル秘だけどエルフだけが出来る経験値の荒稼ぎ方もあったりするけど。
ちなみにオレは現在レベル282、五年もやってたらそんぐらい上がってた。エルフとしたら、間違いなくトップレベル、もしかしたら一番かもしれねぇ。
しかも前から溜まってたのとか、この前大型イベントとかでそのマル秘荒稼ぎしたからレベルあと20ぐらい上がりそうなんだよ、実は。
ポイントをどこに振り分けようかなあ、とか思ってたところにコレだよ。オレ、イン、異世界、たぶんプレシャス・ワールド。正直マージーでーすーかーと言いたい、むしろ言わせろ。
有り得ないことは有り得ないってどっかの誰かが言ってたけど、それこそ有り得ないだろ。いや、ホント。
もう、ブラウには当分頭が上がらないな。
『へぇ、そんなことがあったんだ、大変だなぁ。』
「そうだろ? まさか支払いを踏み倒されるとは思ってもみなかったな、だから冒険者ギルドに入ったんだ。もうあんな羽目になるのはこりごりだからな。」
いつの間にか話はブラウの武勇伝やギルドに入ったいきさつなどになって、大人しく聞いてみたけど意外と話は面白かった。特にワイバーンに襲われた時とかが笑いを誘って爆笑物、実際は恐ろしいんだろうけどな。
『ところで、これからどこに行くんだ?』
「ん? そだなぁ、エムロード大陸の西にあるリュビ大陸に向かうのさ。あっちはここより暑いけど、大丈夫かあ?」
うえ、暑いのかよ、でもたしかリュビ大陸は温泉が有名だったよな。やった、オレってば無類の温泉好きだからノってきたかも。露天風呂とかもう死にそう。
『平気! オレ温泉好きだから。我慢できる。』
「そりゃあよかった、暑さに弱かったらどうしようかと思ってたんだ。
………オンセンってなんだ?」
その時浮かれていたオレにブラウの言った最後の言葉は届いていなかった。
ちゃんと聞いていればオレはそこまでショックを受けなかっただろうに、チクショウ!




