外伝:タケル&ジロウの強化倍率解説漫才
### 前口上 二人の芸人、異世界へ
召喚された三十七人の高校生――というのは、実は正確な数字ではない。
大聖堂の隅っこに、ひっそりと立っていた二人組がいた。当時、高校の文化祭でお笑いコンビを組んでいた、タケルとジロウである。
「――ボケとツッコミ。加護、《軽妙話術》」
大鑑定官の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「なんスかそれ」「うわ、俺ら二人セットで一個の加護かよ」
戦闘にも魔法にも一切役立たない、しかし妙に「場を回す力」だけに特化した、前代未聞のスキルだった。当然、二人も辺境送りが決定するかと思われたが――
「お二人には、戦況解説officialという役目を与えよう。この異界、退屈な戦記が多くてかなわん」
こうしてタケルとジロウは、大陸の戦場という戦場を渡り歩き、「戦況・強化倍率の解説担当」という、謎の役職を得ることになったのである。
以下は、彼らが各地で披露してきた「解説漫才」の、選りすぐりの記録である。
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### その一 辺境防衛戦・魔導砲台の回
タケル「どうもー、戦況解説のタケルです」
ジロウ「ジロウです。よろしくお願いします」
タケル「いやー、見てくださいよこの砲台。ボロッボロですよ。魔力伝導路、劣化しまくり」
ジロウ「そらそうよ、何十年前の骨董品やと思とんねん」
タケル「それを、うちの装備強化担当・相楽ハルト氏がですね、三週間かけてじーっと観察したわけです」
ジロウ「三週間? 長すぎるやろ、待つ方も大変や」
タケル「でもね、結果を見てください。理解度38%で、強化倍率×90ですよ」
ジロウ「38%て中途半端か! テストなら赤点やないか!」
タケル「これがすごいところなんですよ。数字は低いのに、劣化しきってた老朽兵器が、王都の攻城兵器並みの威力を叩き出す」
ジロウ「理解度低いのに結果だけ出るとか、こっちが一夜漬けしても出ん点数やんけ」
タケル「弾着地点、見てください。この大穴」
ジロウ「大穴すぎる! ワイらの持ちネタより爆発しとるがな!」
タケル「というわけで、辺境防衛戦、砲台の一撃に懸かってます!」
ジロウ「頼むぞハルトさーん!」
(この回、戦場の兵士たちからも失笑混じりの拍手が起こったと記録されている)
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### その二 竜族編・紅蓮の牙の回
タケル「はい、というわけで場面変わりまして、竜族の里にやってまいりました」
ジロウ「めっちゃ気位高そうな竜のお姉さんおるやん」
タケル「紅蓮様です。ちゃんと様つけなさい」
ジロウ「すんません」
タケル「この紅蓮様が、自分の抜け牙を、なんとハルトさんに提供したんですね」
ジロウ「牙を人にあげるとか、歯医者もびっくりやぞ」
タケル「竜族にとっては、自分の身の一部を預けるのは、最上級の信頼の証らしいです」
ジロウ「ほな、めっちゃ気合入っとるやん、この強化」
タケル「理解度、なんと83%」
ジロウ「おお、さっきの魔導砲台より真面目な数字出たな」
タケル「強化倍率、上限×48000です」
ジロウ「4万8000!? 単位おかしいやろ、牙一本の倍率とちゃうやろそれ!」
タケル「これがですね、竜族の歴史とか、紅蓮様が背負ってきた悲しい過去まで含めて理解したから、っていう話でして」
ジロウ「理解の深さで、感動の量がそのまま威力になっとるんかい」
タケル「泣ける強化ってやつです」
ジロウ「涙で錆びるわ、その理論やと」
(紅蓮様、この漫才を陰でこっそり聞いて、ふっと笑ったという目撃証言あり)
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### その三 最終決戦編・法則暴走の回
タケル「さあ、いよいよ物騒な回がやってまいりました」
ジロウ「なんスか、物騒って」
タケル「因果律と侵蝕の力が融合した、暴走兵器です」
ジロウ「もうその時点で漫才のネタちゃうやん、命懸けの案件やん」
タケル「理解度、ハルトさんの装備一式で97%まで積み上がってます」
ジロウ「おお、ついに満点近いやん! 今までで一番真面目な数字!」
タケル「魔力耐性、∞です」
ジロウ「無限て。単位振り切っとるがな。強化倍率の話しとったはずやのに、いつの間にか無限出てきたぞ」
タケル「これがハルトさんのスキルの恐ろしいところでしてね、理解を積み上げれば積み上げるほど、倍率が指数関数的に伸びていくらしいんです」
ジロウ「つまり?」
タケル「つまり、上限がない」
ジロウ「怖すぎるやろその理論! 誰かちゃんと監視しといたほうがええぞ、これ!」
タケル「実際、盟約連邦にちゃんと監督機関ができました」
ジロウ「良かった、ちゃんとオチついとる」
タケル「というわけで、この暴走事件、ハルトさんと仲間の皆さんの連携で、間一髪、鎮められました」
ジロウ「よかったよかった。ほな、この漫才もそろそろ――」
タケル「――理解度、まだ100%には届いてないんですけどね」
ジロウ「まだ伸びしろあるんかい! 台本にツッコミ欄増やさなあかんやろこれ!」
(この回を最後に、二人の解説漫才は「大陸随一の戦場エンタメ」として、盟約連邦の各地で語り継がれることになる)
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### 番外 大団円式典にて
最終話、大団円の式典の片隅で、タケルとジロウは、いつも通り軽口を叩き合っていた。
「――しっかし、こうして振り返ると、俺らも結構な戦場、渡り歩いたよな」
「せやなあ。加護《軽妙話術》様様や」
「戦闘スキルなしで、よう生き残ってこれたわ」
「まあ、うちらの持ち味は、命懸けの現場を、ちょっとでも笑って過ごせるようにすることやからな」
式典の壇上で、ハルトが最後の台詞を口にする瞬間、タケルとジロウは、珍しく茶化すことなく、静かにその言葉に耳を傾けていた。
「――俺は最後まで最弱だった。強かったのは、俺が信じ続けた道具たちだけだ」
万雷の拍手が沸き起こる中、ジロウがぽつりと呟いた。
「……こういうの、ちゃんと感動するとき、ツッコミ入れへんもんやな」
「せやな。たまにはボケなしでもええやろ」
二人は、顔を見合わせて、静かに笑い合った。
**(外伝・完)**




