怪物の誕生
「男の娘に俺はなる!!」
誰もいない家の中に、高校1年、桜花瑞樹の声が響き渡った。怪物の産声である。
かっこいいと言われるより可愛いと言われた方が嬉しいと感じ始めたのはいつ頃からだっただろう。自慢するわけではないが、自分でも自分の顔は整っている方だと感じていたし、かっこいいと言われることもたびたびあった。
それを言われてうれしくない人はなかなかいない。
何人かの女の子にも告白されたこともあった。
でも、どこかしっくりこなくて、彼女を作ることもなく、漠然としたモヤモヤを抱えたまま高校生になった。
無難に友達を何人か作って、教室のモブBとして何気ない毎日を過ごす。退屈だけど幸せであるだろう毎日。
中学生からのモヤモヤも慣れたもので、そのうち時間が解決してくれるだろうと考えていた5月。
何気ないスマホのスクロールで人生が変わった。
「アカウント……面倒だけど作るか」
5月の金曜日、学校が終わり、宿題をやる気にもなれずリビングのソファーでスマホを眺めていた。部活には入っておらず、遊びに行く予定も今日はない。父親は単身赴任、母親も海外で働いており、家の中はしんと静まりかえっている。寂しさも、年齢を重ねるにつれ薄くなっていった。高校生になって、初めてできた友人にピンスタを交換しようと誘われ、クラスメイトにも誘われたものの、アカウントを作ったこともなくわざわざピンスタのDMで話すくらいならば、レインでいいじゃんと思ってしまうタイプであったため、のらりくらりとかわしていたが、やることもない今、入れてみてもいいかなという思いが湧いてきた。
アカウント登録を終えて、未知のアプリに少しだけワクワクしながらスクロールを繰り返す。無心にスクロールを続けていた時、ある投稿が目に引っかかる。
「この人めっちゃ可愛いな……」
自分の好みにどストライクな女の人が投稿しているアカウントがあった。どんな人なのか気になって、プロフィールを見てみる。
「ふーん、大学生なんだって、え?男…………??」
想像もしてなかった情報に体が硬直する。世の中にはそういう人もいることは知っていたし、昨今話題のLGBTQも学校で勉強したため知っている。しかし、自分はかっこいいと言われることにモヤモヤしていたものの、男の子人が好きなわけではなかったし、女の子になりたいと思っていたわけでもなかった。だから別段興味を持つこともなかった。
脳みそにダイナマイトをぶち込まれたような顔になりながらも、こんなことがありえるのか、信じられないと思いつつ、他の投稿も見てみる。確かに、足や手など男性的特徴が目立つところは黒いタイツやポーズによって見えないようにしているようだ。それを考慮したとて、という話だが。しかし、投稿を見ていくにつれ、衝撃が薄まっていくのに比例するように中学生の頃から抱えていたモヤモヤも晴れていくような気がした。こんな風になりたかったのだと、コメントの褒め言葉を自分に向けられてみたいと。
今日はそれから徹夜してそれらを調べた。
その結果……
「男の娘に俺はなる!!」
ここに将来、数多の人の性癖を捻じ曲げる怪物が誕生した。承認欲求を人並み以上に持ち、可愛いと言われたい面のいい女の子(男の子)。もともと男であるため、男の子には距離が近く。女の子にも見た目は女の子であるため、距離が近く。
未来の被害者の皆様には深く謝罪しなければならないだろう。もう普通の人では満足できなくなってしまう体に、否が応でもなってしまうのだから。




