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フレール煙の友「特集・あるエルフの喫煙事情」

作者: ビト
掲載日:2026/03/22

 昨今、トールマンの若者の間で、煙草離れが深刻化している。ルクレシア帝の喫煙に対する否定的な姿勢もその一因ではあるだろうが、それ以上に、最近流行している健康ブームの影響がより大きい、と見る専門家もいる。「フレール煙の友」も先月で創刊百二十年を迎えたが、この世間の風潮が続くようであれば廃刊に追い込まれるのではないか、と頭を抱える編集者も多い。

 しかし、筆者はそこまで悲観的ではない。何故ならば、この健康ブームというものは今のところ、トールマンの中だけでの流行であり、ドワーフやホビット、そしてエルフのコミュニティーではついぞ聞かないからである。それどころか、最近ではエルフの若者(とは言っても、我々トールマンからすれば随分年配ではあるが)の中で喫煙が流行している、という話も聞く。

今回筆者は、帝都在住のアレグリアさん(エルフ・二百五十歳以上)に取材した。

アレグリアさんは、多くのエルフ族の故郷でもある「レンバス」出身で、帝都には先の魔道大戦が落ち着いた百年ほど前に移住してきた。現在は、雨傘通りで小さな雑貨屋「エーレーンの木陰」を営んでいる。筆者も取材するにあたり訪れたが、小さいながらもきちんと整頓された陳列と、紅茶などの趣向品を中心に、ちょっとした小物まで扱う品ぞろえで、高級店にはない居心地の良さと押しつけがましくない気品が同居する大変魅力的な店であった。

アレグリアさんによれば、世界では未だに種族、民族間での対立が多いけれど、自分の店ではそのような壁を設けず、エルフのハーブの横に、ドワーフのネックレス、ホビットの紅茶を並べるような店にしていきたいのだ、と熱く語って頂いた。

 閑話休題。

 以下より、アレグリアさんのインタビューである。喫煙者の方も、また、非喫煙者の方にも興味深く読んで頂けるような、貴重なインタビューになったと自負している。是非最後まで読んで頂きたい。(編注:紙面の都合上、一部カットが入っている箇所が御座います。あらかじめご了承ください)


筆者:本日は取材を受けて頂き、ありがとう御座います。


アレグリア(以下、アレ) いえいえ! いつも楽しく読んでますから、いつか出たいなー、なんて考えている矢先にお話を頂けて。ありがたい限りです。


筆者 そうでしたか! いつもご愛読、ありがとう御座います。




 この後しばらくの間、以前特集した「東方ジンの国の煙草・水煙草のすゝめ」についてひとしきり盛り上がった。




筆者 いや、そんなにしっかり読んで頂けてるとは。記者として嬉しい限りです。


アレ 実際面白いんですから、自信持ったほうがいいですよ。


筆者 ありがとう御座います(笑)


アレ 最近、煙草新聞減ったから寂しいんですよねぇ。「煙海」もなくなっちゃったし。(編注:「煙海」はフレール帝国で発刊されていた煙草専門新聞。二年前に廃刊)


筆者 そうですね。僕らもちょっと悲しかったですよ、長年のライバルがあんな形で潰れちゃうなんて。

アレ 「フレール」さんとは違う切り口で面白かったんだけどなぁ。


筆者 いけない。本題を忘れるところだった。そうです、本題に入りましょう。


アレ そうだったそうだった(笑) その前に、せっかくだしお互い一服しながらしませんか? 煙草の話するんだし。


筆者 あ、もちろん!




 そう言うとアレグリアさんは、テキパキと準備をしてくれた。灰皿はこだわりの黒灰山ドワーフの職人製。大ぶりな水晶でできていて、細かな装飾と皿の中央のイノシシの彫刻がなんとも味がある。

筆者が吸うのはもちろん「ルルーのカモメの夕べ」。アレグリアさんの吸われている煙草は「日向屋敷」とのことだ。




筆者 アレグリアさんが吸われている「日向屋敷」といえば、サンサール地方のホビットの煙草ですよね?


アレ 流石よくご存じで(笑)


筆者 いえ、意外だなと思いまして。偏見で申し訳ないのですが、エルフの方は「ルールイエ」とか、もっと植物性の強いものを好まれると思っていました。


アレ 吸ってましたよ、「ルールイエ」。と言っても、もう百年位前ですけどね。帝都に来る前です。あの頃はね、中々出回らなかったんですよ、他所の煙草が。だから正直、煙草って実は好きじゃなかったんです。


筆者 そうなんですか?


アレ そうそう(笑)でも、憧れの人が吸ってたから。それに、上の世代への反発もあったかな。僕らより上の世代のエルフって、基本的に煙草嫌いなんですよ。マナが汚れる、って。実際その通りなんだけど、なんていうかな、それでも吸わずにいられないというか。独特の閉塞感があったんですよ。大戦の影響もあったけど、それよりもずっと前から、周りを身内で固めて他者を排除する、っていう強い排他的な意識がレンバスのエルフにはあった。エルフ至上主義、っていうんですかね、全種族の中でエルフが一番優れている、っていう古臭い考えですよ(笑) 案の定それでどんどん孤立していって。風向きを変えたのは、やっぱりエーデルト(編注:魔道大戦にてユングルト同盟側で義勇兵を率いて戦ったエルフ。ユルム会戦にて敵将ゴ・マグとの一騎打ちにて相打ち。戦後、同盟会議において満票で同盟英雄に列席された)さんかなぁ。


筆者 あの方はいまだに語り継がれていますね。トールマンの中でも凄い人気ですよ。


アレ あの人とは実は家が近くてね。


筆者 そうなんですか!


アレ 年はむこうが多分百くらい上かなぁ。でも、一緒に遊んでくれたり、あの人エルフにしては珍しく旅も好きだったから(編注:大戦前のエルフは旅嫌いというのが定説だった)その話を聞かせて貰ったり。優しい人でしたよ。そんなエーさんがね、吸ってたんですよ、煙草。まずそうに(笑)


筆者 (笑)


アレ でも、その姿がなんか格好良かったんだよなぁ。なんか、ただ無駄に長生きしているだけの爺さん婆さんと違って、今、そう、今だな、今を生きてる感じがして。


筆者 今、というのは?


アレ 説明が難しいな(笑) エルフって、ご存じの通りすごい長生きするんですよ。年寄りとか千年二千年は生きてんじゃないかな。でもね、その千年のうち、何年生きているといえるか、っていうのが結構僕らの中じゃシリアスな問題なんです。結構いるんですよ、ダラダラ生きてるくせに、態度だけが大きくなるエルフ。僕らそんな先輩方の背中見てきたから、ずっとモヤモヤしてたんです。僕らはどうしてこんな長生きするんだろう、その中身は空っぽなのに、って。今思うと若いな(笑) そんな中で、エルフのしがらみとか気にせず、気ままに旅しながら時折帰ってきてお土産くれるエーさんは、こう言うと照れくさいけど、すごく輝いて見えた。天気のいい夜とかね、木々の隙間から星がのぞく中、僕らみたいなガキんちょと輪になって、煙草吸いながら旅の話とか下らない話とかしてくれるんですよ。僕はそんなエーさんがね、本当に好きだったんだ。だから、かな。今も煙草吸い続けてるの。


筆者 憧れの人が吸ってるのを見て、自分も吸い始めるっていうのはトールマンでもありますね。


アレ でしょ? そういうのって種族は関係ないんじゃないかなぁ。


筆者 噂に聞くエルフの煙草ブームはやはりエーデルトさんからですか?


アレ どうだろう。僕ら世代は基本そうだと思うけど、下の世代、百ぐらい下の子はどうかなぁ。大戦も終わって、エーさんのことも知らない世代でしょ。きっかけみたいなのは分からないなぁ。


筆者 エルフでも世代間のギャップはありますか。


アレ そりゃあるでしょ(笑) 千年ぐらい生きてる爺さん婆さんとかいまだに、黒竜と白竜の戦いについて語り続けてるんだから。そこで俺の矢が鱗を貫いたんだ! とかね(笑) ちょっとついてけないですよ。


筆者 すごいスケールの話だ(笑)


アレ それにね、なんか上の世代って、長生きして当然、みたいな空気があるんですよね。長生きが美徳というか。


筆者 なんだかトールマンみたいなこというんですね。


アレ そうかも(笑) エルフはそれに合わせて、絶対に死にやしない、っていう今思うと馬鹿みたいな信仰があったんです。死ぬとしても、数千年生きてから、みたいな。それがひっくり返ったのが、やっぱり大戦ですね。エーさんも死んじゃったけど、一緒に付いていった若いエルフ達も大勢死んだ。もうレンバスは大騒ぎですよ。俺達エルフって死ぬんだ! って。千年も生きてないのに! って。


筆者 エルフの常識がひっくり返った、っと。


アレ まさにそうですね。長老からなにから、もう見てられないくらいだった。僕も大戦が終わってからレンバスに帰ったんですけど、あまりにも年寄り連中が無様なもんだから、帝都に行こう、って思い立って故郷を捨てた、って感じですね。


筆者 アレグリアさんもエーデルトさんと従軍されたんですか?


アレ しましたね。ユルムの会戦でエーさんが死ぬのも見ました。


筆者 そうでしたか……。


アレ 僕もその時、結構な深手を負いましてね。ちょうど右脇のあたりなんですけど、ゴブリンに槍でグサッと(笑)


筆者 笑い事じゃないでしょう(笑)


アレ いやぁ、でも面白いものでね。僕もここまでか、と思ったんですけど、たまたま近くにいたホビット達に助けられて。ビックリしましたよ、正直エルフって嫌われてるって思ってたから。でもホビットの連中は気持ちのいいもんでね。種族は違っても痛いものは痛いだろう、だからあんたを見捨てられないって。


筆者 ホビットってもっと牧歌的な、というかのんびりした人達だと思ってたんですけど、そんな熱いところもあるんですね。


アレ 本当そうですよね(笑) やっぱり偏見って駄目ですよ、実際会って、喋ってみなくちゃ。それでしばらくホビットの野営にお世話になったんだけど、恥ずかしい話、目の前でエーさんが死ぬところ見ちゃってたから、抜け殻みたいになってたんですよ。


筆者 それはそうでしょうね。親しい人が目の前で亡くなってしまったら。


アレ 自分は、というかエルフってもっと強い生き物だと思ってたんですよ。自分で言うのもなんだけど(笑) でも、違ったんだよなぁ。ホビットも気を使ってくれてね、しばらく居ていい、って言ってくれたから、本当にひたすらテントのシミ数えてました(笑)


筆者 ……。


アレ でね、そんな無為な日々過ごしてたら、って言ってもそんなでもなかったかな? まぁ、ホビットの団が移動する、ってことになったんですよ。その時に、僕のことどうしようか、って話になって。


筆者 いつまでもそこにいるわけにも、いきませんよね。


アレ そうそう。で、ホビットの代表と話すことになったんです。今思うと、凄いソワソワしてたな、あいつ(笑) あ、そいつの名前はリエルっていうんです。今でも付き合いありますよ。もうヨボヨボだけど(笑)


筆者 あ、そうか。ホビットもトールマンよりは長生きですもんね。


アレ エルフから見ると誤差ですけどね(笑) とにかくリエルが言うんですよ。俺達はもう行かなくちゃいけない。だから、よかったらお前も来ないか、って。唖然、ですよね。こっちはどうせ放り出されると思ってたんだから。だから思わず聞いちゃったんです。僕はエルフだよ? って(笑)


筆者 当時は今ほど種族間のやり取りは活発じゃなかったと聞いています。


アレ 実際そうでした。皆エルフほど排他的じゃなかったけど、それでも大きな壁があった。でも、あいつは違ったんです。あいつは、自分と違う相手だからこそ知りたいんだ、なんて言っちゃって。自分より百近くも年下の相手にそんなこと言われちゃ、ね(笑)


筆者 (笑)


アレ その時ですよ。あいつも照れてたのか緊張してたのか、ごまかすように煙草吸い始めたんですね。そわそわキョロキョロしながら(笑) だから、言ったんです。煙草一本くれないか、って。あいつはちょっと迷ってから、僕に一本くれた。それが、「日向屋敷」だったんです。


筆者 おー。


アレ うまかったなぁ、あの一口。「ルールイエ」と違って、お日様と土の味がした。こういう言い方は誤解を生むかもしれないけど、あの一口で、僕は本当の意味でエーさんとお別れしたんです。エーさんと一緒に吸った「ルールイエ」じゃなくて、「日向屋敷」をうまいと思った瞬間に。エルフは忘れっぽいけど、あの味だけは死ぬまで忘れないと思う。って言っても今も吸ってるからかもしれないけどね(笑)


筆者 素敵な話ですね。


アレ どうかな、ちょっと子供っぽくないですか? そんなベタな話(笑)


筆者 そんなことないですよ。


アレ そりゃよかった。それで、まぁ後は結局リエル達についていくことにして、後から髭もじゃのドワーフが合流したり、そいつと喧嘩したり、エンデル会戦(編注:魔道大戦末期の大規模な会戦。この戦いにより、大戦の趨勢はユングルト同盟側に傾いたといわれる)で、敵の将軍の首をリエルと僕とドワーフの三人がかりでとったり。まぁ色々ありました(笑)


筆者 最後にサラッと凄いことを(笑)


アレ ドワーフの名前言わないのはフェアじゃないな。そいつの名前はガンデルです、ガンデル(笑) 黒灰山で工房やってるんで読んだ人は行ってあげて下さい。あいつはまだピンピンしてるから(笑)


筆者 サラッと宣伝を(笑)


アレ まぁこんなところですかね、僕の煙草にまつわるいきさつは。


筆者 いやしかし、波乱万丈ですね。


アレ まぁ、これだけ生きてたらこれくらいのドラマがないとボケちゃいますよ。だから年寄りのエルフの話は真に受けないほうがいい。あの人達はほとんど森から出ることなく年だけ取ってるから、ちょっとボケが入ってたりする(笑)


筆者 上の世代への不満が凄い(笑)


アレ 半分くらいは冗談ですよ。半分くらいは本気だけど。


筆者 (笑) 


アレ まぁ、あれですよ。喫煙するしないは自由だし、まぁしないほうがいいのかもしれないけど、長生きとか健康とかって言葉に幻想抱きすぎてもしょうがないですよ。二百年以上生きてる僕が保証します。過度に長寿に幻想を抱かないことです。トールマンの皆さん基準で言えば百年かな? やりたいこと全部我慢してただただ百年生きてもつまんないですよ。多少寿命削ることになっても、やりたいことがあるならやってみていいと思います。


筆者 アレグリアさんが言うと重みがありますね。


アレ まぁ、年の功ということで(笑)


筆者 それでは最後にお聞かせください。ずばり、アレグリアさんにとって煙草とはどんなものですか?


アレ あー、どう言ってもくさく感じると思うんですけど、思い出かな。今もこうやって一服してると、色々と思い出すし、それを噛みしめてる自分がいる。「ルールイエ」を吸わなくなったのも、多分泣いちゃうからだと思うんですよね。エーさんのこと思い出して。二百超えてなに言ってんだ、って感じだけど(笑) 思えば僕の人生の色鮮やかな時期にはいつも煙草があった。レンバスでエーさんとくだらない話をしていた時、エーさんと一緒に戦ってた時、エーさんが死んで抜け殻になった僕がリエルに一緒に行こうって誘われた時、ガンデルとつかみ合いの喧嘩した時、そして、戦いの終わり。そして、今ですね。常連さんが出来るくらいには店が順調で、それでも時々寂しくなって、煙草に火をつける。はたから見たらこれだけのことがね、なんとなく大切なことなんです。エルフの寿命は長い。トールマンの友達なんてほとんど先に逝っちゃう。リエルだってもうヨボヨボの爺さんだ。ガンデルは変わらず頑固でピンピンしてるけど、ドワーフもエルフほどは生きない。そういう時にね、煙草があればいいな、と思うんですよ。一本吸う時、その時だけは、先に逝った皆のことを思い出せるから。


筆者 必ず、必ずこのお話は記事にしてみせます。


アレ そうして下さい(笑) 編集長を口説き落としてくださいよ。


筆者 任せて下さいよ。今回は貴重なお話、ありがとう御座いました。

アレ いえいえー。




 どこか堅いイメージのあるステレオタイプのエルフ像とは違い、アレグリアさんはとても朗らかな方だった。しかし時々、とても寂しそうな顔をされるのが印象的だった。おそらく筆者のような短命種であるトールマンからは考えられないほどの別れを経験してきたのだろう。むろん、アレグリアさんが大戦世代であることも無関係ではない。当時と比べ、今はひとつひとつの命がとても重いように錯覚させられる。だが実際はどうなのだろう。あの頃と現在、果たして命の重さは変わったのだろうか。大戦を知らない世代の筆者ではあるが、大戦を忘れ去ってはならないと、改めて考えさせられた。

 煙草は思い出、とアレグリアさんが語ると、私は背筋が伸びるような思いだった。古今東西、様々な詩人や作家達が煙草の煙で物語を紡いできたが、やはり自身の経験や血肉から出る言葉というものは人の心を揺らす。筆者も一記者として、一つ一つの記事に真摯に向き合っていきたいものである。そしてその傍らに煙草と灰皿があれば、言うことなしだろう。

 次回はホルン地方のホビットの煙草農家を取材する予定である。皆さんが日ごろ、何気なく吸っている煙草のルーツや製造過程をお伝えできれば幸いだ。

 煙と共にあれ!

語り手:アレグリア(氏は非公開)

聞き手:ベルム・ヘーリケン


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