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守る対象が、私だっただけ

作者: Wataru
掲載日:2026/01/14

 夜の回廊は静まり返っていた。

 灯りは最小限に抑えられ、石の床に落ちる月光だけが道を示している。


 私は、いつものように欄干に手を置いた。

 風が冷たい。遠くで城門が閉まる音がした。


 彼は、そこにいる。

 振り返らなくても分かる。


 足音を立てない護衛は、いつも同じ距離に立つ。

 近すぎず、遠すぎず。

 命令された位置から、一歩も外れない。


 最初は、怖かった。

 無表情で、何を考えているのか分からない人だったから。


 けれど、いつからか気づいてしまった。

 私が眠れずに夜を歩くときも、

 誰にも知られずに泣いた夜も、

 必ず彼はそこにいた。


 声をかけることはない。

 慰めることもしない。

 ただ、何かが近づけば、必ず先に動く。


 ――守られている。


 そう思った瞬間、

 胸の奥が、少しだけ苦しくなった。


「……ねえ」


 声を出すと、彼はわずかに視線を向けた。

 それだけで、返事はない。


 それでも、私は言葉を続けた。


「あなたは、何も言わずに、いつも私を見守っていてくれるわね」


 彼の表情は変わらない。

 でも、視線は外さなかった。


「あなたに気持ちがなくても」

 一度、言葉を区切る。

 これ以上踏み込めば、何かが変わると分かっていた。


 それでも。


「こうして、側にいてくれるのが……嬉しいの」


 夜風が、間を通り抜ける。

 長い沈黙のあと、彼は低く言った。


「勘違いするな」


 声は冷たい。

 でも、拒絶ではなかった。


「守る対象が、貴様だっただけだ」


 それだけ言って、彼は視線を戻す。

 まるで、それ以上の言葉は不要だと言うように。


 胸の奥で、何かがほどけた。


「……わかってる」


 私は、小さく息を吐いた。


「それでいい」


 それ以上、何も言わなかった。

 言えば、壊れる。

 聞けば、線を越えてしまう。


 彼は、私の護衛で。

 私は、守られる姫で。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 けれど、その関係が続いている限り、

 私は独りではない。


 夜が明ける頃、彼は変わらずそこに立っていた。

 昨日と同じ距離で、同じ姿勢で。


 何も変わらない日常。

 それが、なぜか救いだった。


 私は歩き出す。

 振り返らずに。


 彼がいることを、

 疑う必要はなかったから。

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