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第19話:引き裂かれた希望

数日後、穏やかな時間を過ごしていたさくらとポテトの元に、

突然、玄関のチャイムが激しく鳴り響いた。


おばあちゃんがドアを開けると、

そこには、鬼のような形相のお母さんが立っていた。


「やっぱり、ここにいた」


「さくら!あんた、こんなところで何してるの!

 勝手に家を飛び出して、どれだけ心配したと思ってるの!」


お母さんの声は家中に響き渡り、

さくらは、びくりと肩を震わせた。


「お母さん、あのね…」


さくらが、おずおずと口を開こうとすると、

お母さんは、さらに声を荒らげた。


「言い訳なんて聞きたくないわ!

 あんたはいつもそう!人に迷惑ばかりかけて!」


「お母さんが、どれだけあんたのためにやってると思ってるの!?

 感謝の気持ちもないのね!」


ポテトは、水槽の中でじっとお母さんを見つめていたが、

一言も喋らなかった。


いつもなら、さくらを心配して声をかけるポテトが

黙っていることに、さくらは不安を感じた。


「まあまあ、落ち着いて。さくらちゃんも、

 悪気があったわけじゃないんだから」


おばあちゃんが割って入ろうとしたが、

お母さんは、聞く耳を持たない。


「おばあちゃんは、関係ないでしょ!

 なんで連絡してくれなかったの?」


「帰るわよ、さくら!」


お母さんは、さくらの腕を掴み、

有無を言わさず外へ引っ張っていった。


「待って!ポテトが…ポテトがまだ、家の中に!」


さくらは叫び、部屋の隅にある

ガラスの金魚鉢に手を伸ばそうとする 。


しかし、その手は空を切る。

お母さんの力には、到底、かなわない。


「ポテト、ポテトを連れていかないと・・・・」


さくらの悲痛な声も、お母さんの耳には届かない 。


抵抗する間もなく、さくらは、大好きなおばあちゃん、

そして、心の支えであるポテトから引き離され、

再び、あの家へと連れ戻されてしまった 。


お母さんに腕を掴まれ、無理やり外へ連れ出される

さくらの視界は、ぐにゃりと歪み始めた。


母の手が、まるでゴムのように

ぐにょーんと長く伸びる。

その手に引っ張られ、私は連れていかれる。


怖い。

おばあちゃんのところにいたい。

さくらの呼吸は荒くなり、遠くにある、お母さんの顔をみる。


あ、これは、もう無理、とおもった瞬間…。

さくらは、考えるのをやめた。

だぽかんと口を開けて、その奇妙な光景を眺めていた。


恐怖も反省もなく、まるで他人事のように、

その不思議な世界に溶け込んで、すべてを受け入れた。


気がつけば、家に帰っていた。


「なんでそんな顔してるの!?人の話を聞いてるの!?」


リビングで、お母さんの説教は続いた。

さくらは、ただ床の一点を見つめる。


どれくらいの時間が、経っただろうか。

お母さんの声がようやく小さくなり、

疲れたように、ため息をつくのが聞こえた。


さくらは、ゆっくりと立ち上がり、

自分の部屋へ向かった。


部屋に着くと、空になった水槽を見る。

パジャマに着替え、ベッドに潜り込んだ。


電気を消した途端、怒られていた時の記憶が

暗闇から押し寄せる。


あれほど何も、感じなかったはずなのに、

急に涙が溢れて、止まらなくなった。


絶望の中、さくらの脳裏に、

数日間いっしょに暮らした

おばあちゃんの優しい声が蘇った。


いつも穏やかに、自分の話をじっと聞いてくれる、

大好きな、おばあちゃんの声だ。


(おばあちゃんに電話しよう。そうしたら…)


最後の希望にすがるように、

よろめきながら、階段を降りた。


そして、リビングの隅にある子機を

さくらは、震える手でそっと取った。


母親に気づかれないよう、

息を殺し、記憶している番号を押す。


コール音が、やけに大きく心臓に響いた。


「はい、もしもし」


返事がないことを不思議に思ったのか、

おばあちゃんが、少し間を置いて尋ねる。


「…もしもし、どちら様ですか?」


おばあちゃんの声だ。

その温かい響きに、安堵と悲しみの涙が同時にこみ上げてくる。


その時だった。さくらのすぐ横に、鬼の形相の母親が立っていた。

ひったくるように受話器が奪われ、回線が切られる。


「どこにかけたの?言いなさい」


地を這うような低い声で、母親が問う。


「言いなさいっ!!」


「…おばあちゃん家」


「この裏切り者!私から逃げて、

 おばあちゃんの所へ行こうとしたんでしょ!」


母親は、電話機を壁に叩きつけ、

さくらの胸を突き飛ばした。


「卑怯者!逃げるんじゃないわよ!

 おばあちゃんへの電話は、金輪際、禁止よ!」


「わかった!?」


最後の逃げ道が、完全に断たれた。


もう、おばあちゃんにさえ、

助けを求めることはできない。


さくらの心の中で、何かがぷつりと切れる音がした。

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