Thieves-シーヴズ-
pixiv様主催の『執筆応援プロジェクト~ふたりでひとつ~』に参加する為に書き下ろした作品です。
より多くの方達に読んで頂きたいと思いこちらにも投稿する事にしました。
それではごゆっくりご覧下さい。
此処は某国の某街に所在する大富豪、コニャック・シーグラムの屋敷。
彼は自身が代表を務める土地の売買を中心とした不動産事業と金貸しを軸とした金融事業を目的とする会社『コニャック・コーポレーション』を一代で巨大企業へと成功させビジネス誌等において敏腕社長と称されている。
が、それは飽くまでも『表の顔』であり『裏の顔』はそうではない。
土地の売買と言ってもやっている事は地上げその物で所有者から因縁を付けては権利を奪っており、金貸しに至っては高い金利で金を搾取しているのだった。
それらは全て街の人々から不当に得た物でありその金で私腹を肥やしている彼の趣味は世界中から買い漁った財宝やアンティークといった品々のコレクション。
その品々を眺めながら過ごす時間を愛して止まないコニャックは休日である今日、朝食を済ませると軽い足取りで屋敷内に在るコレクションを保管している部屋へと向かう。
「さあて、コレクションでも眺めるとするか・・・。」
第三者が見れば思わず鳥肌が立ってしまいそうな笑みを浮かべると徐に保管庫のドアを開けるコニャック。
しかし、その笑顔も束の間。
次の瞬間、彼の表情は動揺と混乱が入り交じった何とも複雑な物へと変わるのだった。
「わ、儂のコレクションが無い・・・!?」
宛ら美術館の展示品の様に厳重に保管していた筈の大切なコレクションの数々が無くなっていたのだ。
念の為、天井に設置されている防犯カメラを確認すると配線が切られておりその機能を全く果たす事が出来なくなっていた事に気付く。
「く、誰が一体こんな事を・・・。」
金と労力を結集して手に入れたコレクションを何者かに盗まれたと判断するや否や青ざめていた顔が徐々に赤みを帯びた物へと変化していくと怒りのあまりドアを蹴飛ばしその勢いのまま部屋を出るコニャック。
すると廊下からこの屋敷に仕える執事が主人であるコニャックの姿を発見すると暫くの間、走り回っていたせいか息を切らしながらも血相を変え慌てた様子で此方へと向かって来る。
「コニャック様、大変です!」
「何だ、この非常時に!今それどころでは・・・。」
コレクションを盗まれた上に防犯カメラまで機能していないという事実に加え部外者の侵入を許し誰一人として屋敷内での異変に気が付かなかったという体たらくに腸が煮えくり返っている様子のコニャック。
目の前にやって来た執事を怒鳴りつけるとついでに八つ当たりの一つでもと考えていた矢先、追い打ちをかける様に彼にとって思いもよらない真実が突き付けられた。
「金庫から現金が盗まれました!」
「何!?」
驚きのあまり目が点になったコニャックは次第に身体を小刻みに震わせるとそんな主人を哀れに思ったのか執事は「気を確かにお持ち下さい。」と声をかける。
一先ず真相を確かめるべく執事に導かれながら金庫室へと向かうコニャックだったが目に映るその光景は今まで有った筈の現金が全て無くなり蛻の殻と化した空間であった。
「ああ、儂の・・・、儂の財産が・・・。」
重く頑丈な扉が開いたままになっている金庫室の前でショックのあまり身体中の力が抜けると、その場に四つん這いになり酷く落胆するのであった。
話は遡ること数時間前。
早朝というよりはまだ真夜中といった方が相応しい時刻の事。
屋敷の外では10歳程の少女と20歳程の青年の見た目をした2人組がオフロードカーの後部座席とトランクにコニャック邸より盗み出した財宝やアンティーク、更にはボロ布に有りっ丈詰め込んだ現金を積んでいた。
「よし、ずらかるよダルモア!」
ロゼ・キュイール。
職業、泥棒。
その外見とは裏腹に実年齢は20代終盤。
彼女は以前、とある大富豪の家に忍び込んだ際に盗んだ意思が宿っているという宝石『エンプレスの泪』の呪いによって現在の姿になってしまう。
「分かってますって、姐さん!」
ダルモア・ブランシュール。
職業、泥棒。
嘗て孤児として食うや食わずの生活をしていた際、とある出来事をきっかけにそれ以降彼女を慕い行動を共にする様になった。
『エンプレスの泪』で少女の姿となったロゼを一刻も早く元の姿に戻したいと考えている。
「じゃあ姐さん、ずらかりますよ!」
「しゃあ、ダルモア。思いっ切り飛ばせよお!」
その掛け合いの後、ダルモアは積載オーバー寸前のオフロードカーのエンジンを入れ、アクセルを思い切り踏み込み猛スピードで駆け抜ける。
「ははは。良いぞ良いぞ、ダルモア!もっと飛ばせぇ!」
「姐さん、振り落とされないで下さいよ!」
車内に居る2人はまるでスリルを楽しんでいる事を窺わせつつそのまま正気ではいられなくなってしまいそうになる程の速さを維持させながら流星の如くその場を後にしたのだった。
太陽が完全に顔を出し、コニャックが自身のコレクションと現金が盗まれた事に気付いた頃。
彼の屋敷から遠く離れた場所までやって来ると愛車のオフロードカーを通行の邪魔にならない様なスペースへと駐車し、歩いていける距離に在った食料品にてダルモアが購入して来た少し遅めの朝食であるサンドウィッチを食べながら瓶入りジュースで乾杯する事にした2人。
「姐さん、サンドウィッチ買って来ましたよ。」
「おぉ、ありがとう。」
「飲み物はコーラとサイダーどっちにします?」
「ん?じゃぁ、あたしコーラ。」
サンドウィッチとコーラを渡したところでダルモアは手元に瓶入りジュースの栓を抜く為の栓抜きが無い事に気付くとサイダーを左手に持ったままの状態で車のダッシュボードから栓抜きを取り出すとそれをロゼに差し出す。
「はい姐さん、栓抜き。」
「ダルモア。悪いがあたしにはもうそんなごく普通の栓抜きは必要ないんだよ。」
得意気な表情を浮かべながらそう言うとロゼはポケットから金色に輝く純金製の栓抜きをダルモアに見せびらかす様にして取り出す。
「姐さん、何すかそれ!?」
「ふふん。聞いて驚くなよダルモア。これはコニャックの屋敷で盗んで来た栓抜きだよ!」
「そんなもんまで盗んで来たんですか、姐さん?」
「『そんなもん』とは何だ!お前には分からないか?このフォルム、このシルエット。嗚呼、何て素晴らしい、使うのが勿体無い・・・。」
「そう言うんならこの『ごく普通の栓抜き』を使えば良いじゃないですか?」
ダルモアは呆れた様子でそう言うとロゼの持っていたコーラを一旦取り上げ、栓を抜くと再び彼女へ手渡した。
そして、自分のサイダーの栓を抜いたところで互いの瓶入りジュースを『コツン』と当て乾杯をする。
するとサンドウィッチを頬張りつつも改まった様にロゼがダルモアにこんな質問をぶつけた。
「ところでダルモア。あんた『万引き』なんて真似してないだろうね・・・?」
「ね、姐さん、何年前の話をしてるんすか?俺はもうそんな事しないっすよ!」
「ははは。そうかそうか、えらいえらい!」
思いがけない質問に対し意図せず口に含んでいたサイダーを吹き出しそうになったダルモアはうろたえた様子で否定するとロゼはその光景との相乗効果も有り大笑いしながら彼を誉めるのであった。
「まぁ、あん時は店の親父にボコられてた俺を姉さんが札束を差し出して『これで勘弁してやってくれ』って言ったから事無きを得ましたけど・・・。」
数年前の事。
住む家さえも無く孤児であったダルモアは空腹のあまり食料品店にて万引きを働いてしまう。
勿論、所持金等有る訳も無く食料品店の店主に暴行を受けていたところ現在の姿になる前のロゼにより助けられた過去が有る。
ロゼと行動を共にしてからも暫くはその手癖の悪さは健在だったが今ではすっかり治まった様だ。
それを受けロゼは安堵すると今度は真顔に戻りポツリと呟く様にして語り始める。
「ま、何時の時代もみんな必死なんだよ。コニャックみたいな質の悪い富裕層の為に自分達が貧困を強いられなきゃいけないから・・・。」
「そうっすね・・・。」
ダルモアが相槌を打ったタイミングでロゼは街の方角に視線を向けながら徐に語り始める。
「この街もそうで飢えた子供や職の無い大人が大勢居たな・・・。宛らあたしやお前が住んでた街と同じだ・・・。そんな状況下の中、必死に生きようとしている連中からは物を取る様な真似はしちゃいけないとあたしは思うんだよ。ま、あたし等みたいな『盗っ人』如きが言う台詞じゃないんだけどな。」
ロゼの顔をふと見たダルモアは少し哀しくも淋しげな印象を受けた。
彼女もまた貧しい街の出身であり虎児として育った過去を持っているので何か思う事が有るのだろう。
しかし、ロゼの口から自身の過去を語る事はあまり無く、本人が言わない限り自分に知る権利は無いと割り切っているダルモアは手持無沙汰の様な感覚になると相槌を打つ代わりにサイダーを1口飲む事にした。
刹那の沈黙の後、湿っぽい空気を察したのかロゼはサンドウィッチを詰め込むとコーラで流し込む様にして胃の中に入れるとダルモアに告げる。
「さて、ダルモア。最後の仕上げと行くか!」
「そうしますか・・・。」
ダルモアは程無くしてロゼが何時もの調子に戻った事を悟ると同じ様にしてサンドウィッチを詰め込みサイダーで流し込んだ。
そしてオフロードカーへと乗り込む2人は街外れの一角までやって来るとコニャックの屋敷から盗んだコレクションと自分達が必要な分だけ抜いた現金(それと純金製の栓抜き)を彼によって貧困を強いられていた街の人々に向け『匿名の寄付』と称し、『これらを元手にして食料や衣類を購入するように』と記した置手紙と共にその場に置くと再び轟音で鳴るエンジンを吹かしながら次の目的地へと出発するのだった。
また余談ではあるが盗難に遭ったという通報を受け駆け付けた警察により違法な地上げと無理な貸し付けが発覚したコニャックは後日、自身の会社役員数名と逮捕されたのであった。
出発してから暫く経った車中でロゼは助手席に座り右手に持った純金製の栓抜きを眺めながら運転席でハンドルを握るダルモアにこんな質問をした。
「なぁ、ダルモア。もしあたしがガキのままの姿で元に戻らなかったら、あんたどうする?」
「ん?そうっすねぇ・・・。」
そう前置きしたダルモアは少し間を空けると飄々としながらもこう答える。
「そん時は、姐さんと同じ様に『エンプレスの泪』の呪いで俺もガキの姿になりますよ。」
ダルモアのその答えにロゼは少し驚くもそれを悟られぬ様敢えて何時も通りの自分を演じながらもはにかんだ様子で言う。
「馬鹿野郎。お前までガキになったら誰がこの車を運転すんだよ!」
「ははは。言うと思った・・・。」
そんな様子に苦笑を浮かべつつもダルモアはロゼが何時も通りの自分を演じているという事に気付かないフリをするのであった。
すると今度は些か嬉しそうな表情を浮かべながらもロゼが続ける。
「だけど、お前らしい答えだな・・・。」
「へへへ。そりゃどうも・・・。」
予想し得なかったロゼの反応にダルモアは少し目を丸くするも暫くして照れくさそうに笑いながら返答した。
そして会話の最後を2人はこんなやり取りで締め括った。
「一生着いて行きますよ、姐さん。」
「ふん。勝手にしなよ・・・。」
ロゼとダルモアの冒険の旅は続く。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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