#98【C115会場特別企画】夢エティアチャレンジの様子をお届け!【協賛:電脳ファンタジア】
さすがにサークルチケットも渡していないのに厚意でヘルプに入ってくれただけの人に撤収まで手伝わせるわけには、と言われてsperと別れたんだけど……電ファンブースに入ろうとしたら、入ったところの控え室でスタッフに呼び止められた。
いったい何事かと思ったんだけど、Tsuittaのトレンドを見るよう言われて……。
「……『DCO』発表会?」
並んでいたのはそんな文字。その要因になったのは、同じ企業ブースのひとつである九津堂ブースだった。
『DCO』、正式名称を『Dual Chronicle Online』というそれは、九津堂から予告されている世界初のVRMMOタイトルだ。正式リリースは約半年後の来夏予定とされている。現時点ではベータテストの募集もまだで、とんでもなくクオリティの高いティザーPVがいくつか出ているだけの状態だ。
どうやらこのタイミングでそれの情報解禁があったらしい。それで九津堂がトレンド上位入りしていると。……それはわかったけど。
「でも確か、オープンベータには応募もしない方針ですよね? もうしばらく私たちには関係ないはずじゃ」
「いえ、そちらではなく。同じ九津堂ですが、もう少し下です」
VRゲームが私たちVtuberとすこぶる相性がいいのはわかりきった話で、なんでも様子見を兼ねて15000本限定になっている正式版の初回ロットから事務所に招待枠があるとも聞いているけど……それもずいぶん先の話だ。私と関係のある話とは思えない。
と思ったら、違ったらしい。九津堂ではある、という時点で嫌な予感がしつつ、スクロール。
「……『夢エティアチャレンジ』……?」
「どうやら例の件を面白がったようで、月雪さんと全く同じ状況からのチャレンジをコンテンツ化したようです」
「……ライバーの名前って商標ですよね」
「上は嬉々として打診を承諾したと」
「一言言ってほしかったんですけど!」
前から薄々感じてはいたけど、九津堂というゲーム会社はノリが電ファンと似ている。まっとうな方向にも変な方向にも変にフットワークが軽いのだ。
だけどさすがに予想外だった。まさか特に関わりがないはずのVtuberがやっただけのことを、イベント中の余興とはいえこんな形で乗っかってコンテンツ化するなんて。
「向こうって使えるスペースありますかね」
「ウチとほぼ同じ設備があるみたいですよ」
「見透かされてて悔しい……けど、さすがに黙ってられない!」
許せない、そんな面白そうなことを本人に知らせずにやるなんて。許せないよ九津堂。
というわけで、今度は九津堂のほうに行くこととなった。なんか忙しいね今日。
あとさすがに動きすぎだからか、あんまりな誘い方ゆえか、九津堂ブースにいる間は電ファンが私に与えた仕事ということになるらしい。別によかったのに。
「……来ないねえ、本人」
「これだけ露骨に誘ってるのにね」
「というか、この件ってそもそも本人に伝わってるものなんじゃないの?」
「少なくともおくびにも出してないね。知らないのかも」
うん、知らなかった。知らなかったんだよ橙乃。そして春菜。……あれ、なんで秋華は一緒じゃないんだろう。
二人がここにいる理由は薄々わかっている。春菜と秋華のお父さんは九津堂のゲームクリエイターなのだ。当人たちも大ファンだから、それの様子を見に来るのは自然なことだった。橙乃は単に一緒に来ているのだろう。
そんな二人と少し離れた位置をすり抜けて、橙乃とだけ目が合う。ああ、面白がられている。私もそっちの立場でいたいよ。
待ってましたとばかりについてきてサポートしてくれるらしいスタッフ二名とともに、会場の横を通る。特設会場で四人同時にVHHをやっていて、挑戦者らしきまあまあの列とけっこうな数の観衆がいた。しかもこれ、九津堂公式チャンネルで配信もやっているらしい。
どうやらこのくらいの時間に来ることをもともと想定していたようで、スタッフが話をしたらあっさりブース内に通された。応対してくれたのはもともとVtuberへの対応も任されている広報部の担当者だそうで、そんな人がわざわざ会場にいるのが答えだった。もう少しsperのところの完売が遅かったら、うちのスタッフから連絡がきていたのかもしれない。
「……あの、なんですかこれ!」
『おおっと、ここで本人登場だ! やはり電ファンのスタッフに知らされていなかったのか!』
「知らされてませんでしたよ! 普通に気付かないまましばらくほっつき歩いてたんですけど!」
四分割のモニターに同時進行で画面が表示されていて、私のモデルはその横の端に表示された。2Dモデルがデータ転送するまでもなくこっちにある時点でやっぱり事前に話が通っているし、ズブズブだったらしい。
用意されていた小部屋には電ファンが使っているものと同じ、九鬼傘下のIT企業である『デモンディーヴァ』製の新型モーションキャプチャカメラ。言い逃れはできまい。
「ほんとにほとんど知らないまま来たんですけど、これアレですよね。寝落ち地点から5-4ゴールまで行くやつ」
『その通りです。もちろん最初からダンピールが出てきますよ!』
「……つかぬことを聞きますが、クリア率は」
『今のところ0%ですね』
「はい」
だろうね。やっておいて言うけど、これはほぼ詰み盤面に近いから。これより難しい場面となると、100%にはそもそもあるかどうか。それを一発勝負となると、こんな突発イベントではクリア者なしで妥当だろう。
……200%? これ以上の難易度のステージはさすがに数箇所しかないよ。
『というわけで、ここからはご本人こと月雪フロルさんに解説をお願いしようと思います』
「はい、みなさんコンロンカー。向こうのブースから来ました、電脳ファンタジアの月雪フロルです。このチャレンジはスタッフだったときに諸事情でやって、そのままハメられてデビューさせられました」
観衆はかなり沸いた。まあ本人登場ってやつだものね。こんなイベントをしているのだから当然かもしれないけど、私のことはよく知られているらしい。
私はそれどころではない。九津堂公式にがっつり認知されている事実をまだ飲み込みきれていないから。
『さっそくですが月雪さん、このチャレンジの難所はどこでしょうか?』
「ここまでをご覧の皆さんならなんとなくおわかりかとは思いますが、足場が狭いところ全部です。ダンピールの移動方法は操作キャラと同じなので、狭い足場だとひたすら渋滞します」
あのときは上手くあしらったけど、本来ダンピールは異常に対処が難しいペナルティエネミーだ。高い攻撃力と自機のうち動きの素早いエヴァよりもさらに高い機動力、一方で高火力な自機の片割れたるプリムの魔弾でもワンパンできない耐久力。それが後方から無限湧きするから相手にすることに意味はない。
当然攻撃には他の敵味方と同じくノックバックがあるから、狭い足場で受けたらそのまま落ちる。だけど向こうの方が速いから普通には避け切れないのだ。
『では攻略法は』
「少なくともエヴァなら、上手くアクションで避けて逃げ一択です。変な欲目を出したら死にます、なぜならエヴァより強いから!」
『ということで、実際ここまでの挑戦者もほとんどがそれを実践しております。それでもクリア者が出ていないことが、このチャレンジの難易度と月雪さんの底知れなさを示していると言っていいでしょう……あーっと四番落とされたー! 本日最も死亡数の多い足場です! 果たしてここは人間に突破できるのか!?』
対処法はひとつ。頑張って避けること。頑張り方はもちろんまともなアクションではない。幸いにしてVHHは豊富なアクション数が売りだから、うまく駆使するしかない。具体的には、下り坂地形を使って強力な移動アクションの硬直を消したりとか。
ちょうど話しているところで落ちてしまった四番席の落下地点がそこで、たぶん硬直消しを決めないと手前に落とされると思う。なにしろここは足場が狭すぎる。
だけどここ、下り坂部分が一マスしかない。だから硬直を消して、またすぐに過不足ない大きさでジャンプしないと今度は奥に落ちる。仮に一番の難所を決めるなら、やっぱりここになるかもしれない。
……今の実況、確かに私はアルラウネなんだけど、この「人間」にはもっと別の意味まで込められている気がする。まあ墓穴を掘りそうだから突っ込まないでおこう。
『あーっと一番落ちた! 息をつきたくともダンピールは待ってくれない!』
「ここは駆け抜けるしかないです。着地後の硬直って、振り向いたときより前を向いたままのときのほうがちょっと短いんですよ。RTAの受け売りですけど」
『なるほど、振り向いての硬直だとダンピールに追いつかれてしまうと。このチャレンジ、RTAでしか使わない仕様すら関わってくるようです』
「私としてはそんなのを公式イベントにして突発で出してくる九津堂のフットワークを疑いますけどね。電ファン並か?」
ところが、そんなこの地獄チャレンジ。この日はなんと二人のクリア者が出た。
『おっと二番鮮やかだ! この魔の一マス坂を越えたらもう、大きな難所は残っていない!』
「とはいえ、油断は禁物です。最後までちゃんと足場は狭いですし、ダンピールは気を抜いたら当たりますからね」
『しかし着実に避けてきた! あとは着地するだけだ、しっかり踏めよ!』
「えっ実況さんそれまで把握して」
『ゴォォォールっ!!』
確かにクロリロも九津堂だけど、宙渡り合成縛りチャレンジの配信まで把握されていると思っていなかった。今のはクリアの瞬間に星夜先輩が真似したさる名実況だ。
しかしそれに混乱している場合ではなかった。クリア者には挨拶をお願いすることになっていたようで、
『いや、鮮やかでした。危なげのなさは月雪さんのそれに匹敵するかもしれませんね』
「はい。操作精度は私も見習わないといけないかも」
『では、ハンドルネームと一言などあれば』
『はい。入間です! 記念すべき一発目はもらった!』
「……え、ちょっと待ってください初スパコメの!?」
『覚えられてた!? さすがに秒で気付かれるとまでは……』
さすがに驚いた。名前はともかく、言葉にも覚えがあった上に一致していたから。たぶん本人は後から誰かが気付いて切り抜くだろう、くらいのつもりだったんだろうけど、私自身が覚えていた。
いくら私でもこれまでにもらったスパコメを全部覚えているわけではないけど、そこに何か面白い要素があったら記憶に残るというもの。感謝して名前を覚えているアピールも兼ねて、そして何より記念すべき一発目として入間さんのことは今も覚えていた。
「本物なんだ……なんか世界って狭いですね」
『と、これは?』
「私の収益化配信で初スパコメを投げてきたその人でした。名前も一致してますし、今の一言はそれと一言一句同じで」
それにしても、いい言動をするね彼。配信者とか向いていそうだ。
そしてもう一人はというと……。
『なんと二人目のクリア者は女の子だ! お見事でした、ハンドルネームと一言をどうぞ』
『はぁい、“みなみのおさななじみ4”です。先日は双子の姉がお世話になりましたあ』
「なんなんですか今日!? 撮れ高が足音を立てて襲ってくるんですけど!?」
『えー、『みなみのおさななじみ』というのも月雪さんの配信ネタでして、歌手の天音水波さんのゲームが上手い幼馴染のことです。少なくとも四人いるとのことでしたが、これは……』
「たぶん本物です。3と4が双子ってこないだ本人が言ってました」
いや知ってたけど! だけどフロルとしてはこうリアクションするしかないし、当たり前のように並んでいた秋華は普通にクリアしてのけるし!
ようやくこのタイトルが出てきました。魔剣精霊第1話まであと少し。
おさななじみ4が双子を明かしてるの、明らかに先を見越してますね。




