#95 【都参戦】巻き戻せ! 再観測すごろく選手権!!
「あ、今回はもう最初からいるんだ」
「新メンバーの登場ですどうぞ! みたいなの、つい一ヶ月前にやったからね」
「正直私が外から画角に出てくるシーンもういらないでしょ?」
「他の番組でやったもんねー」
「せっかくの新メンバーをそういう売り出し方する気が全くないのはわかったよ」
前回の『イミアリエスプリ体当たり!』の収録から五週間が経った。つまりちょうど前回撮った五本のストックが切れるということで、また収録するタイミングがやってきたということになる。
今回からはみゃーこも参戦だ。三人体制はわずか五回で終了となったけど、二人体制もその倍もなかったから今更だろう。さすがにこれ以上は増えないということにはなっている……というか、予定に全くなかった加入に持ち込んでのけたみゃーこが凄まじかったというか。
「しっかしまあ、ベタベタしちゃって」
「他人事?」
「いま四人ひとかたまりだから説得力ないよフーちゃん」
「それどころかフロルちゃんがどまんなかまであるよねぇ」
「仕方ない、身を隠すためにもあっちのカップルを物理的にもっとくっつけるか……」
「まかせて」
「あっちょ」
まだ半月だけど、やっぱり「フーみゃ」の訴求力は大きいようでけっこう人気が出ている様子。ただ面白いのは、同じタイミングで「エティルフェ」も急上昇していることだった。詩が来たときに引っ掻き回した影響もあると思うけど、それを含めて綺麗な四角関係が完成したように見られているのかも。
まあ、この二つを含む六パターン全てに需要があるみたいだから、どんどん供給していくつもりだ。今はちょっと「フロルフェ」が不足気味な気がするし。
「で、妥協なきサービスカットを披露したところで、今日は何するの?」
「言わない方がよさそうなことも全部言うよね都ちゃん」
「加入記念とかではないけど、やっぱり最初だしみゃーこっぽいことやるよ。ってわけで!」
「巻き戻せ! 再観測すごろく選手権ー!!」
みゃーこが本当に進行が上手いから、前回よりも円滑にすら感じる。この子新人だよね? 私みたいな似非新人ですらないよね?
なんだかんだ全員がボケもツッコミもできる(当社比)から、イミアリ四人での会話はぐるぐる入れ替わる。だから誰からでも進行を回せるんだけど、それはそれとして台本に『誰か:巻き戻せ! 再観測すごろく選手権ー!!』とか書くのにはちょっと言いたいことがあるよ。私たちのアドリブを信用しすぎでしょ、ここで一番台詞が空いている人に自然に回る私たちも私たちだけど。
「というわけで今回使うのはこれ。何の変哲もないすごろくゲームだよ。……だけど特有の要素として、今回は古いタイトルのバーチャルコンソール版、それもソロプレイをやります」
「四人それぞれが一人モードですごろくやるの……? どういう状況……?」
「何してるんだろうねこの番組……」
「やるのはシンプルなゴール式のすごろくなんだけど……特別ルール! バーチャルコンソールにはゲーム自体の巻き戻し機能があるんだけど……一ゲームごとに三回だけこの機能を使って、任意のタイミングのサイコロを狙った数字になるまで振り直せます」
「なるほど。出目を再観測できるんだ」
「だけど三回だけだから、使いどころはとくと考えないと、ってことだね!」
「このユニットは説明パートが楽でいいよね。そういうことです」
クイファンと比べたら天国……いや、やめておこう。そもそも面子が天国なだけな気もするし。
今回使うタイトルはパーティゲーム要素を重視してか、グダる可能性があるところが何ヶ所もある。それらのうちどれに三度だけの再観測を使うか、対戦相手の行動も見つつよく考えてプレイしないといけない。
なにしろスタッフ陣のうち何人かがやたら自信ありげなんだよね。テストプレイがかなりいい感じだったんじゃないかな。もちろん、傍から見ていての面白さという面で。
さっそくやっていこう。今回は一人ずつやって、残り三人はガヤに回る形式をとる。
「わあ、すごいシンプル」
「バーチャルコンソールの中でも古いほうだからね。最近のゲームとは容量も違うし、そもそも入門的なローンチタイトルだから余計に」
「というかそもそも四人やるからこれじゃないと尺が……」
トップバッターはエティア先輩。マップは分岐こそあってもループや迷路のようなものはなく、複雑な要素も多くはないシンプルなゲームだ。ただしもちろん、厄介なエリアや止まってはいけないマスは存在する。
順位はゴールにかかったターン数で決める。同一ターン数になった場合は同率とのこと。
「順番決めサイコロって振り直していいの?」
「いいけどあんまり意味ないよ。優勝しなきゃいけないわけじゃないし」
一応、追いつきマスに止まったときのことを考えると、順番は後ろのほうが有利だけど……まあ、三回しかない再観測を使うほどではないだろう。エティア先輩は4を出して二番手でのスタートだった。
序盤は特に言うことはない。イベントがない限りは出目は大きいほうがいいけど、そんなことはどうでもいいと誰もがわかっている。なにしろ最初にみんなでマップを見たから。
「うわ……再観測は三回まで、ってところが絶妙だね」
「四回ほしいなあ……」
「自力再観測で」
「故意反則したらイミアリ除籍ね」
「そこまでひどい脅し方しなくてもやらないよ!」
加入初回に言うことではなさすぎるけど、これが一番効くからね。動画的なブレイクポイントって大事でしょ?
さておき、特に再観測したい箇所は四箇所あった。そのうち最後、サイコロを三つ振って14以上を出すまでゴールできないゴールゲームは絶対に使いたいから、残り三つのうちひとつを我慢しなければならない。すごろくの運ゲーが軽減される分、そこに選択があるというわけだ。
「まずは第一関門、ワープマス」
「あ、今のなし」
「お、使った!」
中盤に差し掛かるところに最初の再観測ポイント、ワープマスがある。これはピンポイントで踏むとそこそこの距離のワープができるものだ。この時点で二番手、前にいるCPUはワープをスルーしている。エティア先輩はさっそく使ってきた。
一度使いさえすれば好きなだけ振り直していいから、これでぴったり止まれるのは確定だ。しっかりワープして、これで第二関門の手前まで一足飛び。
「問題はここだよね」
「第二関門、突き落としイベント」
「あっ……」
「後が怖いけど、今のなしで!」
その第二の再観測ポイント。通過時に強制でサイコロを振らされて、4以下が出ると遠回りな別ルートに落とされてしまう。いわばワープの逆で、この手のイベントにしてはクリア出目の要求値がやたら高いからよく「突き落としが正規ルート」といわれている。
六分の二で失敗だから無理もないんだけど、エティア先輩はここで失敗。すかさず二度目の再観測を切った。ただ、これをやってしまうと……。
「あっ」
「どうして……」
「うわ、ちゃんと運が悪い……」
「裏目も魔物もあるんだよ」
「もう何もかもが怖い!」
こんな場面なのに頭の回転が早いネタ会話をかます先輩二人はよそに何が起こったのかを説明すると、第三の再観測ポイントでばっちり踏み抜いたのだ。
そこにあるのは「入れ替えマス」。踏んだ人が任意の他プレイヤーを選んで、強制的に位置を交換するマスだ。低確率の逆転要素なんだけど……そう、一位が踏むとマイナスになる。
不幸中の幸いで二位がけっこう前にいたから、順位はどうでもいいルールもあって比較的軽症で済んだけど、それでも突き落とし回避の直後の位置まで戻された。そのまま二位でフィニッシュ、これがいったん基準となる。
と、こんな感じ。低確率で速いところが二箇所のあと、逆にリスクが高い場所が待ち構えている。こんな遊び方が想定されているわけがないけど、うまく噛み合って嫌らしい並びになっている。
しかもこれ、では自力で入れ替えマスを回避すれば安心かというと別にそうではなくて。
「えっ」
「そう、このパターンもあるんだよね」
「ちょっとまってもう再観測のこってなあーっ!?」
一位で通過した場合、後続が入れ替えマスを踏んだらCPUは当然一位を選択する。それで入れ替わりになると、自分が踏んだ場合と同等、またはそれ以上の損失になってしまうのだ。
自分でもう一度入れ替えマスを踏み直して戻すこともできないし、踏む後続が二位とは限らない。ルフェ先輩はゴール前に三位に踏まれてしまって、マス数的にはエティア先輩より多く戻されていた。そのまま巻き返せず暫定二位でゴール。
「これ、入れ替えマスが一番ヤバいよね……?」
「そうだよ。だからたぶん正解はこっち」
「そっかぁ……突き落としはやっぱり正規ルートだったんに……」
私の番。私は突き落としで再観測を使わなかった。いっそここは大人しく遠回りして、後々のリスク軽減をした方がいいと思ったのだ。
単純に再観測の回数を残せるし……もうひとつの恩恵として。
「あ、そっか! 入れ替えマスって一位じゃなければ大丈夫なんだ!」
「二人みたいにたっぷり戻されて差をつけられるより、一位をCPUに譲ってすぐ後ろのほうが安全だよね」
「こいつゲームうまい!」
「何をいまさら」
遠回りしている間に突き落としを自力回避したCPUが運よくいたから、そちらに先頭を任せておいた。途中で一位と三位が入れ替わったけど、二位の私には関係なしだ。
ゲーム自体はゴールチャレンジを再観測でズルして一位フィニッシュ。ターン数も二人よりだいぶ短くて、暫定一位だ。……このゴールチャレンジのズルがあるのに優勝を取れない人が二人出るんだから、奥深いゲームなのかもしれない。私のやり方でも運が悪ければありうるし。
……ただ、このルールは単発ネタとしては面白いけど、戦略ゲーとしては欠陥がある。それが、
「あ、今のなしなし」
「そりゃね……二個も余ってるもんね……」
「ずるいぞ都ちゃん! ワープも突き落としも素クリアするなんて!」
「運ゲーじゃん!!」
前にある二つの関門が再観測ストックを減らすようにしか機能していないから、そこを自力で踏めればかなり勝ち確に近づくこと。みゃーこは両方とも自力通過したことで素で大差をつけて、二つも余った再観測で入れ替えを封殺した。
……まあ、三人揃って突き落としの三分の一を外した私たちの負けだね。