#92【ゲスト:マギア】ハウスでクリスマスプレゼント交換会!【明日ハルカ/電脳ファンタジア】
「クリスマスだー! プレゼント交換会するぞー!」
「おー!」
今日は週明けの月曜日だけど、学校はもうない。なにしろ12月25日、冬休みだ。そしてクリスマスだ。
正確には一昨日からだけど、内部進学に伴う自由登校期間を含めると私とみゃーこはまる3ヶ月以上にわたる長期休暇となる。この期間、私たちはライバー活動の地盤固めとこれまで手を出せていなかったものをどんどんやっていく予定だ。
で、今日はというとハルカ姉さん主催の電ファンハウス企画。せっかくのクリスマスということで
みんなでクリスマスプレゼントを持ち寄って交換会をしようというわけだ。
「じゃあルール説明ね。手短にいくよ」
「なんでそんなに急ぐの?」
「この中にボケに走った人が何人混ざってるかわからないから」
〈闇鍋じゃん〉
〈もうだいたいのことわかったわ〉
〈これルール説明いる?〉
いるということにしておこう。
といっても、けっこうシンプルだ。全員の名前がひとつずつ入ったクジを作って、一人ずつ順番に引いていく。引いた人が持ってきたプレゼントをもらう、というもの。
ただし、自分の名前を引いたら引き直し。それと、あくまでプレゼント交換会だから、
「面白くなかった場合だけ合意したら事後交換を認めます」
「改めて撮れ高に取り憑かれてるねこの箱」
「面白くなかった場合ってどんなだよ」
「既にひととおり持ってる私がデュエ兄のデッキセットを引いたときとかじゃない?」
「ああ、確かに。布教できないとな」
「一応まだ中身明かされてないんだからデッキセットだって認めないでよ」
〈面白くなかった場合〉
〈事後交換まで面白さ準拠なの草〉
〈おおわかりやすい〉
〈うわ認めたぞこいつ〉
〈隠せよちょっとは!〉
〈一応とか言うなフロル〉
だってみんな、デュエ兄がこの手の企画でデッキ以外を持ってくると思う? やりすぎてもう参加者の半分以上が最低一つは持っているんだよ。
「じゃあ、さっそくやっていくよ!」
「引く順番はどうするの?」
「デビューが新しい順からでいいんじゃないかな」
「都ちゃんからだね」
「あ、いいの?」
人数がけっこう多いから、どんどん進行していく。新人順で誰からも否やが出なかったから、デビューからまだ二週間と経っていないみゃーこからだ。まあそもそもがクジだから、確率論的には順番は関係ないはずだ。
みゃーこが抽選箱に手を入れて……取り出すと。
「あ、デュエ兄だ!」
「よかったねデュエ兄、まだデッキ持ってない子だよ!」
「ああ。本当によかった」
「だから隠してってば」
当然ながら、デビュー幾ばくもないみゃーこにはまだデュエ兄から布教するタイミングもなかった。しっかりデッキ未所持ライバーに引かせられるとは、さすがはデュエ兄だ。彼はカードゲームアニメの主人公よろしくこの手の確率勝負に強い。
しかも確かみゃーこは……。
「というわけで、各種TCGいきなりスタートダッシュデッキセットだ! 比較的扱いやすい現環境デッキをそれぞれ揃えてあるぞ!」
「やったー! 実はだいぶ興味あったんだ!」
「おお、それはよかった!」
〈お?〉
〈大当たりじゃん〉
〈デュエ兄も嬉しそうで何より〉
〈布教でここまで喜ばれたらな〉
〈元々ここまで興味ある子だと逆に布教の意味は薄いけど〉
それは言わないお約束。
そう、みゃーこはTCG、特に『デュエリズム・コマンダー』に興味を持っていた。たぶん私の影響だとは思う。
もしかしたらこの布教がなくても自分で始めていたかもしれないけど、まあやっぱり喜ばれるほど嬉しいものだ。開始前からオチていたデュエ兄はこうでもならないと綺麗に収まっていなかったからなおさらだろう。
さて、続けて。
「次は他の四期生だけど……」
「マギにゃ、どうぞ」
「いいの?」
「ゲストだしな」
ハルカ姉さんの単一枠である今回の配信タイトルにもあるけど、基本的にはハウス組が参加している交換会にゲストが来ている。次はそんなマギにゃのターン。
妙に気合を入れて、ドロー。
「やあっ!! …………あ、わたしだ」
「おっと自分引きだ!」
「正直誰かはやると思ってたよね、電ファンだし」
電ファンって、基本的にできそうなボケは誰かしらがやる箱だからね。誰かしらがこのパターンを見せてくれると思っていたんだ。
気を取り直して、引いたマギにゃの紙を戻す前に引き直し。改めて引いたのは……。
「あ、ここあせんぱい!」
「っし!!!」
「およそ清楚系ライバーが出す声じゃないよ心愛ちゃん」
〈草〉
〈ガチ喜びで草〉
〈マギア逃げて〉
〈もはやただの後輩狂いで草〉
〈ここでしっかり後輩を引くあたり持ってるよな〉
〈何持ってきたんだ……〉
心愛先輩、そっちのキャラで売っていくことにしたんだね。大丈夫かな、ハルカ姉さんとキャラ被らないかな。
かなり声の作り方とかその他いろいろを忘れたようなキャラ崩壊状態だけど、マギにゃは喜んでいるから私は何も言うまい。とっても素直な子なんです。
ではそんな心愛先輩、何を持ち込んできたのかというと……。
「これだよ!」
「うわなんかデカいの出てきた!」
「なんだろ……え、ダミーヘッドマイク?」
「は!?」
〈え〉
〈ダミヘ!?〉
〈えっマジで!?〉
〈心愛さん?〉
心愛先輩でも抱えるほど、マギにゃの体格だと持て余しそうなほど大きな箱が現れた。妙に手作り感のあるラッピングを剥くと、中にはかなりしっかりした箱。
というか、パッケージを見れば一発だ。バイノーラル録音用のダミーヘッドマイクが出てきた。しっかりしたASMR向けの、私でも知っているけっこう高いやつ。
「心愛ちゃん、予算オーバー!」
「クリスマス、それも交換会にこんなの渡すやつがあるか!!」
「違うんです! これ、私が前まで使ってたお古で! 電ファンに入って新しいのに買い替えたからクローゼットに眠ってたやつなんです! だから実質タダ!」
「うーん……止めるに止められない理由が出てきた」
「確かに寝かせておくよりはいいなぁ」
〈心愛お前……〉
〈さすがにやりすぎでは?〉
〈デュエ兄でも推定数万だぞ〉
〈あーお古か〉
〈確かに秋から変わってるんだよな〉
〈そら新しいの買ったら使わないわな……〉
一瞬成金かと思ったけど、聞いてみれば確かにそうだ。心愛先輩は電ファン加入後にASMR強者のいなかった事務所からサポートされて最新鋭品に買い換えていたし、バイノーラルマイクは二個も使わない。見ると型番も確かに、心愛先輩が個人勢時代に使っていたものだ。
こうなると確かに死蔵はもったいないというのもわかるし、いっそクリスマスにかこつけて譲渡してしまえば使ってくれるかもしれない。それはわかる。
だけどさ。
「でもこれ新品だと数十万するよ」
「ひぇっ!?」
「そ、そうだけど……」
「へ、へんな持ち方できないっ……もってかえれない……」
〈怯えちゃった〉
〈実際そうなんだよな〉
〈心愛の使い方ならまだまだ長持ちしそうだし〉
心愛先輩から見れば実質タダでも、受け取る側からすれば数十万だ。中古とはいえ状態はかなりいいし。それだけで怖気付く理由になるし、ましてやマギにゃはこの場で唯一の非ハウス組だ。たぶん心愛先輩も想定していなかった、持ち帰りの運搬まである。
とはいえ、ここでだから要らないと突き返す前に、考えすぎるくらいのところまで考えるのがマギにゃという少女だ。根本的にいい子すぎるから、こういうことを言い出す。
「えっと、ハウス、入るから……それまでもっててくれませんか……?」
「いいけど……いいの?」
「もともと、いつかくる気だったから……」
〈このタイミングで!?〉
〈マギにゃ入居!?〉
〈コラボが増える!?〉
思いついてしまったらしい、自分がハウスに動けばマイクを運搬する必要はないと。いくら元々予定自体はあったとはいえ、こうして必要に迫られることで決断できてしまうのがマギにゃなのだ。
結果的に迫る形になったからか、したいであろうガッツポーズを我慢した心愛先輩を置いて……マギにゃは次いで私に振り返った。何かと思ったら、
「あとね、ふろるちゃん……さすがに、一人でもつのはこわいから、みんなで使わない?」
「……マギにゃがそうしたいなら、そうしよっか」
「やったっ。…………え、っと……なんでそんなになでてるの?」
「私がもらうものもマギにゃに分けてあげるからね」
「気持ちはわかるけど止まろうねフロルちゃん」
「ロリがロリを撫で倒しておるのう」
〈なんだこの天使〉
〈尊すぎるだろ〉
〈大丈夫? 浄化されてない?〉
〈おいフロル止まれ〉
〈後ろ抱きで愛でる態勢に入るな〉
〈ずるいぞフロル!!〉
さすがにこれは撫でるでしょ。マギにゃは天より舞い降りた御使いだよ。我らの光だよ。
引き剥がされそうになったから諦めたけど、まだ愛でたい。けどここで「今日は私の部屋でお泊まりしようね」とか言い出したらだいぶ心愛先輩やローラ先輩の同類だ。
「どういう意味かなフロルちゃん?」
「わたしはふろるちゃんとお泊まりしたいよ!」
「じゃあしよっか」
「おい同類」
〈草〉
〈フロルさん……〉
〈欲望に忠実なのはいいことですね〉
〈まあマギにゃの要望だし……〉
まあいっか、同類でも。マギにゃが喜んでくれるなら。不覚にも声に出ていたけど、それもまた塞翁が馬だ。