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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト4:縦の絡みも増えてきて撮れ高がとどまるところを知らない

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#90【頂上決戦】頭脳チェック! クイズファンタジア #13【都高みの見物】

「ごめんね陽くん。さすがにここに混ぜるのはかわいそうだったね」

「いや……俺が前回のテストでやらかしたのが悪いだろ、気にすんな」

「フロル! どういう意味じゃ!?」


 どうもこうも、あなたたちの学力が心配なだけだよ。揃いも揃って毎回欠かさず中学レベルで赤点を取ってくるんだから……。


 さて、今日は12月のクイファンの日だ。前回は四期生お披露目回だったけど、今回もまたコンセプトが存在する回だった。

 そのうちひとつ、デビューからわずか一週間のみゃーこのお披露目は問題ない。私と毎回試験順位で競っていた彼女が躓くはずもなく、しっかり満点を取ってきてくれたから私としても助かる。みゃーこの現在地は私の隣、ちょうど前回私がいたポジションだ。


 問題はやはりもうひとつだった。その発端は前回、四期生六人のうち二人も悲惨な成績を叩き出したことによる。

 もともとの想定では、四期生からクイファンのレギュラーにするのは0~1人という話だった。平時はレギュラー一人とゲスト一人のタッグ戦形式だから、レギュラーは五人もいたらごちゃついてしまう。ところがおバカタレント系クイズ番組であるクイファンのお眼鏡に適ってしまう点数を初回の前半テストで叩き出してしまった四期生は、二人出てきてしまった。

 だから今回は元々のレギュラー三人も交えて、勝ち抜けのレギュラー卒業戦を行うことになった。どうせ私みたいになるから通常回には出せないみゃーこは、これ幸いと個人戦になった今回に投入されたわけだ。


「だけど、どうしよっかな。これ当初の予定だと一人勝ち抜けだったから、台本通りにやるとここで終わりなんだよね」

「まだ八問しかやってないのに?」

「その八問が四連取二回で終わっちゃったからね」


 で、ここで問題が発生した。前回あまりにも精彩を欠いただけで、陽くんは実はクイファンのレギュラーになるほどの壊滅的なものではなかったのだ。

 案の定の満点に続いて案の定の四連取で私と全く同じムーブを決めて見せ場を終えたみゃーこが解答席を去った直後、陽くんは鮮やかに(問題文をほぼ聞いてからとはいえ)四連取してみせた。しかも今回は前半のテストもさほど悪くない、それどころか前回のアンリさんよりわずかに高い点数を取っていた。これではとてもじゃないけどクイファンのレギュラーにするわけにはいかない。

 当然ながらまだ尺が余っているし、他の四人はまだ何もしていない。次回以降のレギュラー四枠は決まってしまったけど、さすがに終われないしどうしようか……とカンペに目を向けたら、助け舟が来た。「レギュラー三枠にして続行」とのこと。


「でも別に、これまではレギュラー三枠で回ってたんだよね? 別に各期一人ずつになるわけでもないんだし、四枠にこだわることないんじゃない?」

「……まあ、確かに。じゃあこのまま、もう一人勝ち抜けるまで続けよっか」

「よしきた! これでこんな番組からおさらばだ!」

「今度こそ勝利への道が見えたぞえ! 来月こそ土曜の配信をひとつ増やすのじゃ!」


 ナイスパスみゃーこ。直前に私が悩んでいたから横から提案した方が自然だと考えてくれたのだろう。この子本当にデビュー一週間なのかな。

 乗っかる形で番組続行を宣言すると、威勢のいい負けフラグが立て続けに立てられた。ほんと、どうして自分からこういうことするのかなあこの人たち。








「それじゃあ今日のクイファンはここまで! また来月お会いしましょう、おつファンー!」


 …………負けフラグ二人はしっかり負けた。激戦の末に勝ち抜けたのはローラ先輩、配信が終わるまでコロンビアポーズを崩さなかった。

 まあ、ね。ローラ先輩は地頭は悪くないからね。勉強方向の学習意欲がなさすぎるだけで。今回は重い腰を上げてちょっとやってきたのか、普段より点数も上がっていた。少しだけ。


「やっぱりできますね、MC業」

「まあ、なんとか」

「年末も控えていますから、安心材料になります」

「あ、やっぱり私そっち側なんですね」

「頑張ってねフーちゃん」

「みゃーこもこっち側に来ない?」

「行けたら前向きに覚えとくね」

「来ないやつのキメラじゃん」


 マネさんはこの物言いだけど、これは番組構成も大まかな台本も固まって確立されているクイファンだからこそではあると思う。一週間後に迫る年越し番組にはそこまでのノウハウはないから、ハヤテ先輩と二人とはいえ今からかなり怖いよ。捌かないといけないボケの人数も桁違いだし。

 できれば進行側にみゃーこを巻き込みたかったけど、断られてしまった。まあ無理もない、この子は今日でまだデビュー八日目なのだ。


 そんな話をしつつスタジオを出て、隣のスタジオへ。その最中、別の同行者が口を開いた。


「……今の、私も見てよかったの? というか、そもそも今日でよかったの?」

「今日の予定はこれだけだったから、今からは空いてるよ。それに、電ファンではママ(担当絵師)は身内判定だから」

「とりあえず別の意味で大丈夫じゃないことはわかった」

「うん。気をつけてね。電ファンは場合によっては天丼を厭わないよ」


 実は今回、生放送をことり(ママ)が見学していた。電ファンはライバーのママをファミリーに数える傾向にあるのと、どうやら私が信用した相手はそのまま信用されるようで彼女は既にハウスへの自由な出入りを認められている。エントランスのカードキーを交付済で、要はノーアポで顔パス状態だ。

 私としてもそれこそ友達の家感覚で来てもらって構わないんだけど、まだちょっと気後れがある様子ではあった。物怖じしないタイプのことりにしてはなかなか珍しい。


「お、そっちも終わったんだ」

「ママも? お疲れ様!」

「うん。都もお疲れ。……で、そっちが」

「そうだよ、この子が私のママ」

「sperです。不如帰(ほととぎす)もずさん、ですね」

「いかにも。よろしく、sperさん」


 ではどうして今日は来たのかというと、予定が合ったからだ。その相手というのが、私とみゃーこの他にこの人。電脳ファンタジアPROGRESS三期生のプロイラストレーター、不如帰もず先輩である。

 いわゆるバ美肉系なんだけど、彼の場合は「バーチャル美少()セルフ受肉」だ。そして現実の姿でも割と小柄な美青年で、声も中性的だから違和感がない。いつも代理を立てる即売会を含めて本人の顔出しが一切ないこともあって、巷では女性疑惑が後を絶たない。


 私とは今は先輩後輩、以前はエティア先輩を介した担当絵師とサブマネージャーの関係だった。そこでやりとりもあったから、実際の付き合いは二期生よりも少し長い。ネジは飛んでいるけどいい人だ。ネジは飛んでいるけど。


「……うん、いい人なのはわかる。都がここまで懐くなら」

「信用されてるね、都」

「ううん、今のは小心者って言われたの」

「言ってないよ。ちゃんと付き合う相手を選ぶタイプだってだけ」


 みゃーことは準備中に二度ほど会っただけだけど、この通りけっこうちゃんと懐いている。箱内に三人親子とあってコラボも多いだろうから最初は少し気掛かりだったんだけど、問題ないとすぐにわかった。

 イラストレーターとしては、画風は近いけどスタンスはママと真逆に近い。どちらも繊細なタッチで柔らかい絵を描くタイプながら、ママ(sper)はがちがちの理論派なのに対してもず先輩は感覚派だ。


「それにしても、もず先輩って普段実物でのデッサンとかしないでしょ? こういうのには興味持たないと思ってたよ」

「いやいや、こういうのは普段のやり方と違うからこそ意味があるんだよ。むしろ前から連絡持ってもらうのを頼むか本気で悩んでたくらい」

「わかります。自分にないものは見て学んでみたいですし」

「だよね。そこの意見が合って何よりだよ。そういうわけだから、今日はよろしく」

「こちらこそ。私も資料を見ずのスケッチを身につけたいと思っていたんです」


 ただその一方で、相性はいいだろうなと思っていた。二人とも天才肌で柔軟、冒険心があるタイプで性格はちょっと似ている。そこに節度や淑やかさがあるかどうかという、致命的な違いもあるんだけど。




「カーテシーもうちょっと下で……そうそこ、そのまま」

「はーい」

「なるほど、感受的なほうの美的センスがかなりいいんだ。デッサンに自信があるわけだね」

「……もずさん、当たりつけるのがかなり早くて正確ですね。これが脳内の時点である程度できているのなら……羨ましい」

「そこは練習だよ。要は自分がいいと思える要素を覚えて、頭の中で切り貼りすればいいんだし」


 というわけで、イラストレーターが二人集まればやることはこれ。以前から私と約束していたハウスのスタジオでのデッサンに、もず先輩が参加したいと言い出してきていたのだ。今日、クイファンの配信後になったのはそこがスケジュール的に噛み合うから。今はメイド服を着てカーテシーをしたポーズを、二人がそれぞれスケッチしている。


「たとえばこれなら、ここからこうツルが伸びるだとか」

「そこが苦手で……うねらせ方に毎回かなり迷うんですよね」

「なるほど。そうだな……それぞれの形にうまく感情を当てはめられるといいと思うんだけど……」

「やっぱりすごいなぁ……全然違うタイプなのに話が噛み合って進んでる」

「躊躇なくコスプレできて決めポーズのまま止まれるフーちゃんも地味にすごいと思うよ……?」


 そういえば確かにママはツルのようなスケッチが困難なもの、想像で描くしかないものは苦手と言っていた。それに対してもず先輩はそういうのは得意分野だから、そのやり方を助言できるらしい。

 もともとこの二人にはこういう相性のよさがある気がしていたから、これは予想通りだ。もず先輩が声をかけてきたとき、こうなるんじゃないかと真っ先に期待したくらい。


 貴族令嬢のようなドレスを着て固まってしまっているみゃーこだけど、演劇のように完璧にストップモーションをしないといけないわけではないからね。ある程度ルーズで大丈夫な以上、慣れれば割とできる。

 ……それにしても、アルラウネのツルの形か。確かに正解の掴みづらい、あるかもわからない問題だけど……。


「これまではどうしてたの?」

「フロルにも相談に乗ってもらいながらどうにか。というか、フロルのアイデアだったことが多いですね」

「じゃあフロルはどう決めてた?」

「うーん、けっこう感覚でその場で考えちゃってたけど、何か根底があるとしたら……あ」

「え、なに? なんで今私を見るの?」

「猫のしっぽとかの影響はあるかも」

「ああ、確かに! 細長くてしなやかに動くものでの感情表現、ピッタリだね!」

「あとは……アニメのアホ毛?」

「あー、あの疲れたりしたらへにゃってなるやつ」


 みゃーこを見て、これが傍から回されているカメラの向こうで3D動画化したときのことを考えていたら……気付いた。たぶんこれ、一部は猫のしっぽの動きに似ている。緊張感があればぴんと伸びたり、機嫌がよかったら波打って揺れたり。

 それだったり、なんだかんだで感情による細長いものの形にはある程度共通認識的なものがありそうだ。もちろん、意識的に動かすときは全く違うだろうけど。


「よし、OK」

「速いな……」

「速度には自信がありますから。じゃあ次、二人の構図やってみよう」

「はーい」


 一方でママもしっかり強みを見せたところで、二人の構図に切り替わる。着替える前に主従のようなカットを一枚描いておくらしい。

 詩と遊びに行ったときも思ったけど、やっぱり複数人の構図を作りやすくなったのは明確にママにとっても恩恵になっていそうだ。それこそ今ここでなら、十人くらい並べることすら可能だからね。

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