#88【おめでとうフロル】激レアアイテム携えて激ヤバチャレンジを完遂【電ファン切り抜き】
『即降り系アイテムは今いくつあるんだい?』
「合わせて4個」
『じゃあ、実質あと5階?』
「ううん、ここの99階は有り得ないほど罠が多いだけで通常敵は出ないから実質4階」
『ああ、透視の果実をずっとキープしているのはそれか』
「あれ、実は透視の果実が主目的だったんだよね」
〈90突破!〉
〈いよいよだな!〉
〈あと少し……〉
〈しれっと鞄の中そらで覚えてる?〉
〈まだ手に汗握る〉
〈MP足りるか?〉
〈店主二人も応援してるぞ!〉
90階の階段前でカビたパンを食べる。いよいよ最後の戦いだ。
即降り系アイテムとは、魔吸い泥棒の時にも使った階段前へのワープを行う《導かれし果実》とそもそも足元に階段を作り出してしまう《階段の書》のことだ。今は導かれし果実を二個、階段の書を二個持っているから、最終的には合計所持数分だけ事実上スキップすることができる。
宙渡りは95階から97階にかけて絶対に戦いたくない敵が出るから、95階到達時点でこれを三つ持っていることが望ましい。今回はしっかり達成できていたし、だからこそ途中でもう一度泥棒していた。
そこで手に入れていたのが《透視の果実》。これは食べたフロアの間、敵の所持品と罠が見えるという効果で、罠地獄の99階までに一つ欲しい。つまり今回、ちゃんと必要なものを全て手にしている。
あと4フロア通過すれば実質クリアだ。ただ問題がひとつだけ。
『ん?』
『これは……』
「それ今なら助かる!」
『大部屋モンハウなのに!?』
『でも、そうか。一発で全部足止めできるのか』
〈開幕モンハウだ!?〉
〈大部屋じゃねーか!!〉
〈ここにきてこんな〉
〈いや、大部屋なのはむしろいいのか〉
〈マジで有り得ない量出るんだな大部屋モンハウって……〉
そんな中の91階、まさかの開幕大部屋モンスターハウス。フロア全体がひとつの部屋という高難度ダンジョン特有のレア地形に、モンスターハウスの発生判定も重なってしまうとこうなる。だからとても広い部屋になるんだけど、モンスターハウスの仕様が「部屋の何もないマスの二分の一に敵をポップさせる」だから本当におびただしい量になる。
普通に戦えばまず死ぬんだけど、今の私にとっては好都合ですらあった。使ったのは《硬直の書》、モンスターハウス対策アイテムのひとつだ。効果は「同じ部屋の敵全てに、こちらから攻撃するまで行動ができなくなる硬直状態を付与」。クロノがいる部屋の中では新たに自然ポップはしないからこれで安全になって、階段の位置もわかる状態。
今の問題はただひとつ。《魔力の果実》が後半かなり下振れてしまって、もうMPがないのだ。まともに連戦をするとMPを使用する“剣技”なしでは雑魚相手にダメージレースが追いつかないバランスだから、MPがないと普通に戦うこと自体が危険になる。
だから残り四階、可能な限り戦闘を避けていく必要がある。遠距離の魔法攻撃に怯える必要がないのは救いだけど、まだ勝利宣言には早いのだ。
「ただモンハウって罠の出現率も高くて」
『だよね。どうするの?』
「ある程度は気合い避けしないといけないんだけど……先に使おうかな。こういう手があるよ」
使うのは《物寄せの書》。フロア内にあるアイテムを全て自分のすぐ近くまで移動させるもので、階段前で使うことで泥棒もできる。さっきもこれで透視の果実を泥棒していた。
ここで大事になるのが、アイテムは罠の上には落ちない仕様だ、つまり……今アイテムが乗っていない、すぐ一マス正面は罠がある。
『あっぶな……』
「使った価値はあったね。ここに二個目の透視でもあれば楽なんだけど……ないか」
『即降り系と魔力の果実もないな……まあ敵避け系だけ持っていくかな?』
〈うわあぶね〉
〈即使ってなかったら踏んでたじゃん〉
〈今日神がかってるな〉
〈そことそこにもあるのか〉
〈大部屋モンハウはアイテムも多いから助かるな〉
〈チョコ爆食いタイム!〉
〈さすがのクロノも太りそう〉
引き寄せたアイテムの質は50点といったところだけど、まあよし。これで見えた罠はしっかり避けて、使えそうなものは拾ってチョコはその場で食べておいて、できる限りの行動はしておく。
残りのエリアも致命的な罠は踏まずに済んで、軽めの罠だけ踏んで階段へ。……ちなみに物寄せを先に使ったのは、部屋内のアイテムを敵に変身させてしまう罠を踏む可能性を考慮してのことだった。現に途中で踏んだけど被害はなかった。
93階で階段真上の敵とのやむを得ない戦闘があって、いよいよMPが空になった94階。事実上の最後のフロアだ。
なんだけど……会敵する度にその場凌ぎ系のアイテムを使っていたからもうあと一つしか残っていない。
『……大丈夫なの?』
「うん。ギリギリだったけどね」
〈こんなギリギリになるのか〉
〈きっつ……〉
〈えっもうないけど〉
〈一個で足りるんか?〉
でも大丈夫。一フロアをまるまる凌ぎ系アイテムひとつで済むようにできる魔法のアイテムがあるから。
「持っててよかった、壁崩しの書!」
『……見たことのないアイテムが出てきたな』
『壁崩しって、もしかして』
「星夜先輩が知らないのも無理はないよ、これクリア後の高難度ダンジョン限定だから。……大部屋で凌ぎ系の書を使ったら全体に効果が出るのは、さっき見せたでしょ?」
〈拾ってたよね〉
〈なんそれ〉
〈出た激レア面白アイテム〉
〈壁崩し?〉
〈もしかしてできるのか?〉
〈ド派手じゃん!〉
そう。この《壁崩しの書》は、フロア内の全ての壁を壊して大部屋を作り出してしまうアイテムだ。エンドコンテンツ限定のレアアイテムに相応しく豪快な効果で、メリットもデメリットも特異的だ。
使い方によってはとても有用になるアイテムだから、識別後もずっと保持していた。なければここで使うつもりだったから、実は言っていなかっただけで私の中では93階の階段を見つけた時点でほぼ勝ち確のつもりだった。
『……これはまた、なんて爽快な』
『あっモンハウ!?』
「フロア内にモンハウがあったら入った判定になるけど……君たちまとめてこれ一枚で十分かな」
『これでひとつで全ての敵に届くようになると』
〈超! エキサイティン!〉
〈専用演出まであるのか〉
〈いいねこれ〉
〈おっとモンハウ〉
〈ほざけェエーーーー!!〉
〈ほんとに一枚で十分なことあるんだ〉
〈語尾にクローバーをつけろアルラウネだろ〉
どう発音するのさクローバーなんて。
使うと専用の壁が壊れていく演出とともに地響きがして画面が揺れ、やがてマップも大きな部屋ひとつだけになる。同じ部屋の中という扱いだから、敵もアイテムも階段も全て表示されるようになる。
その中に、異様に固まっている敵の表示があると思ったその時、「モンスターハウスだ!」のメッセージ。BGMも切り替わって、モンスターハウスに入った扱いになるけど……ここは一つの部屋扱い。すぐに硬直の書を使えば沈黙だ。
さっきも言った通りクロリロではクロノのいる部屋ではモンスターが湧かないから、ここでは新しく硬直していない敵が出ることはない。モンスターハウスに入ったとはいっても、地形的なモンスターハウスが広がって再配置されるわけではないからあの表示が固まっている方に行かなければ問題ない。
他にもいくつかこれ専用の仕様があるんだけど……必要なのはひとつ、触れるのはさらにもうひとつだけ。
「今、罠の再配置はないと言いましたね。この壁崩しの書はあくまで地形を破壊しただけなので、元々部屋ではなかった場所には罠はないんですよ」
『あ、そっか。となると外周は安全なんだ』
『そう。外をぐるっと回って階段のあるところまで行けば、罠を踏む確率はぐっと下がるの』
〈あ、そっか〉
〈確かに〉
〈さすがに壁の中に罠が仕込まれたりはしてないのか〉
〈元々の部屋より外まで広がってるんだな〉
ダンジョンの作りもある程度は規則的になっているから、それを読んで部屋がなさそうなあたりを歩く手もある。外周にスペースがあるのは、爆弾などの他の手段による地形破壊ができる猶予が常に取られているからだ。
逆に言えば元々あった罠は消えないから、こういう小技は結構大事だ。取れる安全はしっかり取ろう。
それから……。
「あった。これはラッキー……というかレアなので、みんな目に焼き付けておいて」
『これなに?』
「ナンだよ」
『なんて?』
「だから、ナンだよ。性能はパンと全く同じだけど、壁の中にだけ配置されていることがあるの」
〈ん?〉
〈なんかあった〉
〈ナンがあった〉
〈なんだこれ?〉
〈ナンだこれ!!〉
〈なんでナンが壁の中にあるんだよ〉
〈どういう遊び心ナンだろうな……〉
あるといいなと思っていたんだけど、ばっちり明らかに壁の中だったところにアイテム表示があるのを私は見逃さなかった。拾いに行ったら、そこにあったのはなんとナンだ。私も実物を見るのは初めてだけど、なんでもナンはクロリロ一の激レアアイテムらしい。
その入手方法はただひとつ、壁の中にあったものを壁崩しの書で取り出すことだけ。他の地形破壊手段は壁の中のナンを諸共消してしまうから、なんだかんだでそれしかないそうだ。
しかし先述の通り壁崩しの書はそれ自体がかなりのレアアイテムで、ナンもあるかどうかは運次第。なんとも難儀なアイテムである。そのくせなんとか手に入れても性能はただのパンと全く同じだから、見た目だけの勲章に近い。
それでもあったら撮れ高になるし、配信中に目の当たりにできたのは私としても嬉しい。性能に文句をつけるのも、もちろん雑に食べてしまうのもナンセンスだろう。
そんなナンをお土産に拾って階段まで到達して、あとはウィニングラン。どちらの即降りアイテムも階段の真上か隣に立つことができるし、降り立った場所と階段の隣には罠も置かれない。たとえ開幕または階段モンスターハウスを引いたとしても、一ターンで逃げられるか降りられるからもう死ぬことはなかった。
最後の99階は即座に透視の果実を食べて、本当に恐ろしいほど罠まみれの部屋をしっかり避けて抜ける。通路に面したマスに罠は置かれないし、罠の前後左右に罠はない仕様もあるから、見えさえすれば塞がれて辿り着けないなんてこともない。
そして。
『しっかりと踏め! しっかりと踏めよ! ちゃんと踏めよ!』
「星夜先輩、それ28年前……」
『さすがに俺も生まれる前だよ。リアルタイムで見ていたわけがないじゃないか』
『よかった、マイナス3歳で野球中継を見てる星夜さんなんていうS○Pが存在してなくて』
〈締まりがなさすぎるだろ〉
〈そのネタを出すには完璧すぎるタイミングなんだよな〉
〈普通に突っ込めてしまうフロルに余裕がありすぎるのが悪い〉
〈スーパーチャレンジ成功の瞬間だぞフロル〉
〈もっと喜べよ! 縛りなしでもクリアできない民草もいっぱいいるんだぞ!!〉
〈ホームイーン!!!〉
〈クリアおめでとう!!!!〉
結局なんでもないネタ会話の応酬をしてしまいながら、ついに私は挑戦成功に漕ぎ着けた。挑戦宣言から一ヶ月半、クロリロの配信回数11回目での達成だった。
私をもってしてかなりの達成感だ。年内はもう高難度ゲームはいいかな。しばらくはこれに浸って、年明け以降に残り二つに取り掛かろうか。




