#87【クロノーシス・リローデッド】嬉々としてモンスターハウスを踏むフロル×2【電ファン切り抜き】
『……あっ』
『うわ、モンハウか……』
「ちょうどいいや、ちょっと見てて。これが魔吸いの真骨頂だよ」
〈うわぁモンハウ引いた〉
〈逃げアイテムは少ないのに……〉
〈これきっついのでは〉
〈え?〉
〈なんで歓迎してるんだ〉
不意のモンスターハウスとの遭遇があった。だけど、魔吸いがある状態でのこのあたりのモンスターハウスはむしろボーナスステージだ。むしろありがたいくらい。
まずは一歩下がる。一番近いモンスターが距離を詰めてきて、奥では三体ほどいるエルダーレイスのうち斜め角抜けで射線が通っている一体が魔法を使おうとする。普段ならこの時点でピンチなのだけど、今だけは違う。
そのままその場で通常攻撃、目の前の敵を倒した。今度は二体のエルダーレイスが魔法を試みてきた。私は次の敵が目の前に来るまで通常攻撃を空振り。……クロリロでは角抜けは魔法でしか起こらないから、通路の一マス目も魔吸いなら安全なのだ。
『…………うわ』
『爽快だね!』
「タイマンでいくらでも安全に倒せて、かつ遠距離攻撃の全てが封じられているなら……モンスターハウスって、餌場でしかないんだよね」
〈マジか……〉
〈ええやん!〉
〈そうなるのかすげえ〉
〈これ楽しそうだなぁ〉
〈ここまでできるとかそら神器だわ〉
あとはバフが充分な量になったらさらに一歩下がって射線を切り、突っ込んでくる敵を各個撃破するだけ。こんな絶望的な場面になってもダンジョンの敵に逃げるという発想は基本的にないから、むざむざ一体ずつ突っ込んできてくれる。
攻撃技の中には前後を同時に攻撃できるものもあるから、後ろから挟み撃ちされても問題なし。部屋の中の様子は通路の一マス目まで出ないと把握できないけど、ちゃんと敵の数は数えてある。残りがレイスだけになって出てこなくなったら部屋に入って、こちらから撃破。これでノーダメージ、満腹度消費だけでのモンスターハウス完封達成だ。
「しかもモンスターハウスには大抵たくさんのチョコが落ちているから、満腹度すらプラスってわけ」
『モンハウ踏んだのに得しかしてない……』
『常識が崩れるなコレ……』
「ただ、罠は普通より多いから気をつけて」
〈モンハウすらこれか〉
〈ぶっ壊れじゃん魔吸い〉
〈これは宙渡りのためにあったんだな……〉
〈わざわざ一点狙いして粘るだけの価値はあるね〉
〈罠警戒えらい〉
〈念入りすぎて草〉
〈あるなあ罠〉
〈しっかりやって得してる〉
モンスターハウスにはチョコ系のアイテムがよく落ちている。これは本来パッシブスキルを習得するための積み重ね系消費アイテムなんだけど、パンほどではなくとも満腹度を回復できる。だからパッシブスキル習得不可の宙渡りでもありがたくいただいていこう。
一方でモンスターハウスは罠も多い凶悪な仕様だけど……実は罠には「未発見状態でも上にアイテムが乗らない」という仕様が存在する。つまりチョコがあるマスは安全だし、うまく手持ちのいらないアイテムを投げれば壁際のマスは安全性を確認できる。
これを上手く使って調べていると、投げたアイテムが落ちずに跳ねたマスがあった。あれは罠だから、斜め移動を駆使して避けないといけない。
「こうやってアイテムだけで道ができるのが理想ですね。……あと、罠は縦横に隣接しないのでここは安全」
『ねえ星夜さん、この子モンハウでマインスイーパ始めたんだけど』
『やっぱりやることが違うなあ』
「ここまできておいて、できること怠って罠踏んで負けたら普通に悔やむからね。通常部屋はキリがないし無理だけど、モンハウなら割とできるし」
〈気概が出たな〉
〈フロルがゲーム強い理由〉
〈見習いたい姿勢〉
〈やっぱフロルといえばこれよ〉
〈こういう子じゃないとクリアできないんだろうな〉
今回はそんなんじゃないよ。ここで罠を踏んでも、チョコを拾わなかった分の満腹度不足で死んでも悔やみきれないから。自分のためだ。
ともかく、モンスターハウスも切り抜けた。こんな感じで気をつけていれば確率を低減しきっても踏んでしまう罠以外に危険はない。その状態が35階まで続いた。
それからしばらくして、61階。42階にあったそれまでの最高到達点も軽々越えて、これまでの何十回という挑戦の中では間違いなく順調そのものだ。
ただ、懸案事項がひとつ。
『あれ、魔吸い外すの?』
「ここから出てくるアビスウィザードは、クロノが近くにいなくても際限なく魔法を使い続けるの。それを吸い続けるには、ちょっとパンの量がね」
『なるほど。ここに来てデメリットも強まってきたんだ』
想定の範囲内とはいえ、ちょっとパンの残量が心許ない。落ちている食料が下振れてしまって、このまま下振れ続けると怪しいところまできた。
そんなタイミングで辿り着いた61階から73階までの区間には《アビスウィザード》という敵が出る。これは普段はさしたる脅威ではないんだけど、こと魔吸いの剣を使っているときは少し別の理由で困るのだ。
『でも大丈夫なの? 魔法を使い続けるって……』
『ああ、それは大丈夫だよ。アビスウィザードが使う魔法は確か、バフだとかではなく……』
「……そうそう、これだからね」
〈あーそっか〉
〈普段は別に弱いんだけどな〉
〈野放しになるけど〉
〈お?〉
〈なるほど〉
〈そういうね〉
このアビスウィザード、かなり頻繁に魔法を使ってくる。その度に打ち消していると、その度に満腹度が減って馬鹿にならない消費速度になるのだ。
それ自体がアビスウィザードの存在という情報にもなるから、余裕があれば実際に反応があるまで装備しておくところなんだけど……ここは少し大胆に行く。
ではそんなアビスウィザード、どんな魔法を使ってくるのかというと……これ。転移魔法だ。このモンスターは普通に移動することが一切なく、その代わりに転移魔法でクロノの目の前に転移してくる。
ポップしたそばからいきなり隣接してくる会敵率の高さを考慮されてか強さ自体はかなり抑えられているんだけど、厄介なのは転移と攻撃以外の行動をしない点。
「こいつね、そもそも歩かないから魔吸いに転移を防がれてもひたすら転移を試み続けるの。だから存在し続ける限り一歩歩くごとに満腹度を削られる」
『うわぁ』
「いっそのこと来られたほうがマシってことで、戦闘が始まるまで外しておこうってわけ」
『先制はされるけど……確定で魔法だから装備が遅れなければ防げて、そのままバフ込みでワンパンか』
そう、だから別に強くはない。対処を間違えなければ満腹度1と引き換えに経験値をくれるだけだから、むしろボーナス敵とすらいえる。
……問題は、裏目を引いたときだ。
「おっと」
『なに?』
『おお、危ない』
「魔吸い外しの問題点。他の敵が魔吸いを要求してきたときに一手遅れると最悪死ぬ」
『小癪だね……』
〈やば〉
〈ナイス反応〉
〈さすがフロルだ〉
〈※これ受けたら一撃で瀕死〉
〈村娘は小癪なんて言葉使わない〉
もっと前のフロアからそうだったけど、このあたりの敵の中には直線範囲の魔法を使ってくるものもいる。これまではそれら相手に隙を見せても魔吸いが防いでくれていたけど、今は外しているから事故の可能性が現れているのだ。
そのリスクを取ってでもこうしているのは、とはいえ気をつけていれば大丈夫だから。ごく一部の例外を除いて、部屋の外や通路の先のような暗くなっているところからは向こうも撃ってこないのだ。そして12フロア分の塵も積もれば山となる、累計すればパン一、二個分になる満腹度が明暗を分ける可能性が少なからずあるから。
できることは全部やらないと、ここまでが水の泡になりかねない。
…………結果的には、それがよかった。通路の視界は二マス先までだから迂闊に走れないんだけど、そのおかげで部屋の一マス手前で立ち止まれた。アビスウィザードが出る最後のフロア、73階でのことだ。
『チョコだ!』
『モンハウだ!』
「……よし、突っ込め!」
『『えっ!?』』
〈うわモンハウじゃん〉
〈戻るか?〉
〈は!?〉
〈行くの!?〉
〈ええ?〉
〈わざわざ階段のないモンハウに突っ込んだ……だと……?〉
そのまま突っ込んでいたら最悪死んでいた。なぜならそこにアビスウィザードが複数いたから。
直前のマスで立ち止まってから魔吸いを装備して、配置されたチョコによって見えているモンスターハウスに突入する。モンスターハウスは入るまでは敵がいない判定になるから、この瞬間までは転移もしてこない。
そして目の前に大量の敵が現れたところで、危機回避アイテムである《追放の書》を使う。同じ部屋にいる敵をフロア内のランダムな場所に強制転移させる使い切りアイテムだ。
その状態で二歩通路に下がって、魔吸いの剣を外すと……目の前とその奥に二体だけアビスウィザードが転移してきた。
「いろいろ仕様があってですね。魔吸い非装備でモンハウ初ターンに追放したら、全員即座に戻ってくるんです。それとアビスウィザードって、背後だけは取ってこないんですよ」
『……つまり、こうして手順さえ踏めば、アビスウィザードが必要分だけ飛んでくると』
「そういうこと。そもそも飛び先が埋まってたら転移を試みてもこないし」
〈そうなのか……〉
〈いや知らんけど〉
〈よく知ってたなそんなこと〉
〈そんなこと攻略サイトにも書いてないが???〉
私が自分で検証したからね。試す前も背後を取られた記憶はなかったし、何度繰り返しても背後にだけは出なかった。
つまり正面と背後しかない通路では絶対に正面に出る。だけどモンスターハウスに入ったターンには、前から横まで五マスが開けている。だから各個撃破にはこうして通路で呼び戻す必要があった。
『じゃあモンハウに突っ込んだのは』
「これだけのチョコがあれば満腹度が楽になるから。追放の書ひとつより満腹度の方が今は重いからね……あ、パンもある。合計110だ」
『フロア内に敵をバラ撒いたわけだけど、それはどうするんだい?』
「落とし穴の書を使うよ。75階から『硬い地盤』になって使えなくなるから、元々このあたりの予定だったし……それとこの73階、アビスウィザードとナイトメアバグが共存する地雷フロアだから早く抜けたいの」
『じゃあなんで開幕で使わなかったの?』
「73階はモンハウが出やすい階のひとつだから。チョコを回収するつもりでね」
〈ほうほう〉
〈けっこうちゃんと理由があった〉
〈めちゃくちゃ理詰めじゃん〉
〈最初からそういう気だったのか〉
〈大胆不敵に見えて意外と〉
〈いやだいぶ怖いもの知らずだわ〉
〈わざとモンハウ踏みに探してたのかよ!?〉
アビスウィザードが出なくなったら、残りの敵はスキップする。踏めば敵なら消滅、自分なら15ダメージと引き換えに強制的に次の階に進む罠を作る《落とし穴の書》で敵だらけのフロアからおさらば。
《ナイトメアバグ》は73階から80階まで出てくる、さっき述べた『視界外から遠距離魔術を放ってくる』例外のモンスターだ。それとアビスウィザードが共存する上にモンスターハウスが出現しやすい73階は、本来かなりの魔境なのだ。
だから実は、元々73階ではこういうことをするつもりだった。もうすぐ使えなくなる落とし穴も含めて狙い通りだ。パンも一緒に落ちていたのはラッキーだけど。
これで難所のひとつも抜けて、腹具合もかなり改善した。……ここからはラストスパートだ。気を抜かないように。




