#82【突発】なんか妹を配信に出す許可出ちゃった【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
〈待機……え?〉
〈マジ!?〉
〈うっそだろお前〉
〈いろいろ問題があるのでは……〉
〈妹って芸能人じゃ〉
そりゃそうだよね。普通は本当にびっくりすると思う。
芸能人というのは基本的にしっかり顔出ししているわけで、それがVtuberの家族として公表されることには本来かなりリスクがある。例外的にそこがクリアされていなければ、いくら電ファンでもこんな話を通していない。
……ないとは思うけど、もしもここまで見越してハルカ姉さん経由で詩の顔出しなしプロデュースが決められていたのだとしたら、もう誰も信じられなくなりそうだ。
「はいみんな、コンロンカー。電脳ファンタジア四期生、月雪フロルです。今日は共用リビングからだから、ガヤが大量にいます」
「ガヤAです」
「ガヤBです」
「ガヤCです」
「ガヤDです」
「ガヤ」
「多い多い、もしかして全員やるつもり!? あと主犯のエティア先輩と許可出したハルカ姉さんと今日一日一緒だったみゃーこはガヤに身を隠さないで」
〈コンロンカー〉
〈コンロンカ大丈夫なん?〉
〈これで大丈夫なのだとしたらもしかして〉
〈背景がいつもと違う〉
〈あの子なのか……?〉
〈ガヤw〉
〈マジで多いじゃん〉
〈エティア、お前だったのか〉
まあ、さっさと本題に入ろう。あまり杞憂させてもよくないし。
「一応言っておくと、大丈夫っぽいです。さすがにまずければ電ファンが許可出しませんし。……というわけでさっそく出てきてもらいましょう、どうぞ!」
「はいっ! みなさん、はじめまして。フューチャーサウンドプロダクション所属、声優の白雪詩です!」
「……まあ、そういうことです」
〈まあさすがにそうか〉
〈誰なんだ!?〉
〈電ファンの許可とかいう命綱〉
〈誰も主犯エティアのこと信用してなくて草〉
〈白雪詩!?〉
〈姫!?!?〉
〈そうきたか!!〉
〈詩と姉妹だったんか〉
〈そっか姫か……〉
〈なんか腑に落ちたわ〉
〈詩ちゃんならギリセーフか〉
〈許可が出た理由がわかった〉
〈確かにいたわ、一切顔出ししてない事務所所属の芸能人〉
コメント欄はまず急加速で!と?が乱舞して、意外なほどすぐに理解が及んで、そして許可が出た理由まで認識された。なんとも素早い、説明するまでもない流れだった。
そのくらい詩の「顔出しをしていない」という点は特徴的だったのだ。加えて民草の間では、詩は意識されていた存在だったのもある。
〈配信にも来てたしな……〉
〈あのときフロルが絶句してたのってそういう〉
〈あの直後に妹問題解決してたのってそれだったのか〉
「はい。あの直後に連絡取って……八つ当たりを激励として受け取られて、健気すぎる妹に無事敗北しました」
「あ、あたしがシスコンなだけだから! むしろ気持ち悪がられないように連絡我慢して独り立ちアピってたというか……!」
〈草〉
〈フロルお姉ちゃん……w〉
〈完敗じゃん〉
〈ものの見事に負けてて草〉
〈シスコン?〉
〈そんな話はどこにも〉
〈表に出すのも我慢してたのか……〉
〈こりゃ健気や〉
〈これは爆散しますわ〉
5秒で掌を返すコメント欄。でもわかるでしょ、つまらない意地を張っていたつもりで勇気を出して謝りに行ったら、この光のシスコンに包み込まれたんだよ。それはもうしめやかに爆散するしかない。
あのときは口止めのために声をかけたのに、それからきっかり一ヶ月で配信にまで呼ぶことになった。もう全てにおいて負けだ。
「客観的に見て別に悪いってほどでもないのにここまで反省できるの、フロルちゃんの美点といえば美点だけど」
「その分外から褒めないとですよ。その点電ファンの皆さんはすごく信頼してますけど、あたしは配信を見る度にそれのよかったとこ羅列して送り付けてます」
「うわあ、できた妹を持ったねフロルちゃん」
「んー、ちょっと待って? これほんとに美談かなぁ? 大義名分を得たファンガが推しに長文感想送りつけてるだけじゃない?」
〈自罰思考が妹にバレている……〉
〈妹に甘やかされてない?〉
〈こりゃどっちが姉がわからんな〉
〈確かに〉
〈見方を変えればただの重度のオタクだ〉
〈天真爛漫で通ってるあの白雪詩が……〉
〈フロルの妹カミングアウトとは別のところでブランディングに影響出てない?〉
自分では自罰思考とまでは思わないんだけど……。客観的に見れば、オーディションに受かって人生が変わった瞬間の妹に「調子に乗らないようにね」なんて水の差し方はだいぶ感じ悪いし。ただ受け取った詩本人がこう言っている以上、この件においては気にしなくていいのはわかっているけど。
でも確かに、言われてみればやっている内容だけならよくないオタクに近いかも。まあ私はそれを毎回本気で喜んで最低三回は読み込んでいるけど。
「うわ重度のシスコン姉妹だ」
「こ、これは強敵だね……」
「こんな俊傑が血縁にいたなんて……でもわたし、負けないよ!」
「アルラウネって切っても血とか出ませんし、胎生じゃないですよね? 血縁って言い方、合ってるのかな」
「マリエル、問題はそこじゃないと思うぞ」
〈妹が妹なら姉も姉じゃん〉
〈姉妹だ……〉
〈なんだこのべったり姉妹〉
〈仲良すぎだろ〉
〈繰り返し読んでるところにシスコンを感じる〉
〈よくこれで三年も連絡を断てたな!?〉
〈フロル百合ハーが対抗心を燃やしておる〉
〈マリエルはどこ気にしとんねん〉
〈それ言い出したら植物は一部を除いて性別すらないんだよなあ〉
シスコンの自覚はあるけど、姉妹関係に対抗心を燃やされても……。私としてはあくまで別枠だと思っていたから、詩に向けてライバル心を発生させてくるとは想定していなかった。
これもしかして、そろそろ「私のために争わないでー」とか言いながら目を逸らしていたら火傷しかねないところまで来ているかな。私としてはそもそも、この魅力的な人だらけの電ファンで私ばっかりが百合ハーレムなんて形成すること自体が何かおかしいと思っているんだけど。
「はい自覚ない。マジでそういうとこだぞフロル」
「フロル……それは俺でも擁護できねーわ……」
「ええっ!?」
〈あのさあ……〉
〈哀れになってきた〉
〈いまどき鈍感系主人公でもここまでじゃないよ〉
〈あの陽にまで言われてるんだぞ自覚しろ〉
〈いや待て、もはやここまできたらわざとだろ〉
……信じてほしい。私は本気で思って言ったんだ。私以外もみんなすごく魅力的だから、私にしか矢印が向かないのはもったいないって。
でもさすがに、デュエ兄はともかく陽くんにまで言われるのはダメージがあった。ギャルゲーで明らかに好感度カンストまで届いているヒロインがいるのに独り身エンドに辿り着いた陽くんにまで。
「フロルちゃん……私たちの愛が伝わってないだなんて……!」
「どうして!? フーちゃんはなんでわかってくれないの!?」
「ここまでわかってくれないなら、もう、最終手段しか……」
「はい! 一晩中両手両足頭と胴体に花の刑を求刑します!」
「今日は詩ちゃんだしマギアちゃんが可哀想だから後日ね」
「あ、あれ? なんでそこまで……」
「フロルちゃん。自覚がないのでしょうけど、節操のない千依ちゃんと女狐を除いても今のフロルちゃんは六等分の花嫁ですよ」
〈イミアリがヤンデレ化してる〉
〈お手本のようなヒスじゃん〉
〈最終手段ってなんだよ〉
〈信じられるか? この猫デビュー五日目なんだぜ〉
〈そろそろ越してこないと置いてかれるぞマギにゃ〉
〈*マギア・ワルプルガ -Magia Walpurga-:ききかん〉
〈女狐は草〉
〈まだ根に持ってるんかマリエル〉
〈パンドラが一番まともとかマジ?〉
だんだん収拾がつかなく……え、これ半分はコントだよね? 心の底からヤンデレ化してて詰みルート確定とかじゃないよね? なんか怖くなってきたよ?
デビューから一週間経っていないのにライバーしぐさが完璧なみゃーこといい、この間暴露した私の横取りを未だに根を持って先輩相手にこの物言いのマリエル先輩といい、もう馬鹿騒ぎだ。……いやうん、わかってるよ。これを収める一番いい方法は私が全員をちゃんと愛する……愛するでいいのかなこれ。ことなんだってことは。
「お姉ちゃんが愛されてて嬉しい限りだけど……お姉ちゃん、なんでそんなに受け入れてあげないの?」
「うわあの妹だいぶ答えづらいことを遠慮なく聞いたぞ」
「野次馬してる分にはマジで面白いっすねこれ。なんで星夜先輩はここに住んでてこれを無視できるんだ……」
〈詩ちゃん怖いものなしか?〉
〈真正面からいったあああ!?〉
〈詩ちゃんコミュ障を自認してるから……〉
〈男二人が俺らすぎる〉
〈御門星夜に浮世を求めない方がいいぞ陽〉
うーん、これは聞いてもらえてむしろよかったかもしれない。詩はコミュニケーションガチ勢ではないから、たぶんわざとではないだろうけど。
私だって何も考えずに好意をまるごと保留しているわけではないんだ。ここまでとは思ってなかったけど、向けられていることくらいはわかっていたし。
「私ばっかりなのが解釈違いというか」
「今だいぶ贅沢なこと言ったことはわかるよお姉ちゃん」
「そうなんだけどね。でもさ……私がデビューする前は、たとえばエティア先輩はささげ先輩とイチャイチャしてたりとか「イチャっ!?」、ルフェ先輩とマリエル先輩はほぼデキてたりとか「「へっ!?」」、そもそも私が入る前からイミアリは二人でラブラブだったりとか「「ラっ、」」したでしょ?」
「まあ、そうだね「「「えっ!?」」」」
「おお、三人揃って反撃喰らってる」
「それが最近は大半私じゃない。私によくしてくれるのは嬉しいけど、多様なカップリングが見られにくくなって寂しいわけですよ」
「それは確かに、わかるかも」
「箱推し姉妹の見解が一致してる」
「出たな電ファンオタクのフロル」
〈あー〉
〈確かに〉
〈ないわけじゃないけど最近減ってるよな〉
〈フロルを絡めたら前より濃いから気付かなかった〉
〈傍観者的にてぇてぇが足りんというわけですな〉
〈詩もそっち側かー〉
〈まあ民草になる前は箱推しだったとは言ってたな〉
〈それはそれとして無自覚すぎるけど〉
その点、同期としてマギにゃの好意は受け取りやすかったり、みゃーこについてはそもそも私が真っ先に抱き合わせられる立場だから素直に受け入れられたりはするんだけど。……いやまあ、みゃーこは単なる親友だった二年半が邪魔して全力でライバー的絡みをするにはまだ気恥ずかしいけど。
先輩組についてはちょっと、私に目を向けすぎというか……私としてはこれまで通りのものも続けてほしいというか。今は私もライバーだけど、デビュー前にそうだったライバーオタク、電ファンオタク的には不完全燃焼なところがあるというか。その原因で、私と同じ思いを持つ人にとって邪魔になってしまったのが私だと思うとちょっとモヤモヤするというか。
「だからそっちももっと……あれ?」
「フロル……お前マジで罪な女だな」
「なんで!?」
「自分自身が女を誑すだけじゃなくて、自分が入らないカップリングまで指摘して自覚させるだなんて……やるねフロルちゃん」
「えっ自覚なかったの!? 私にこれだけ言っといて!?」
「「「うっ」」」
〈フロル、あんたすげえよ〉
〈これまでフロルの存在はちょっと複雑でした。今ので推しになりました〉
〈ちょっと拝んでいい?〉
〈うわあ、三人が顔突き合わせて意識しまくってる〉
〈またフロルが電ファンを面白くした〉
〈言われてるなあ三人とも〉
〈そら言われるわ〉
〈これは面白くなるぞ〉
〈パンドラは人のこと言ってる場合か?〉
……と素直に伝えたら、三人がフリーズした。そっか、この人たち自覚なしであんなにイチャついてたんだ。
もしかしたらこれは、今後は意識し合ってぎくしゃくする先輩たちを楽しめるかもしれない。そう思えば、自分が受けたダメージも気にならないかも。




