#75【初配信切り抜き】生みの親も知らないサプライズとガチ百合爆誕【古宮都/電脳ファンタジア】
「まずは本当のプロフィールからお見せしますね。……はぁ、ちゃんと隠れられてると思ったんだけどなぁ」
〈ドンマイ〉
〈あるんじゃねえか!〉
〈用意周到ですね〉
〈みゃーこは楽しい寸劇をするタイプと〉
〈そういうのちょうだいもっと〉
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古宮都
種族:猫又(打ち消し線) シュレーディンガーの猫
年齢:16(打ち消し線) 94
誕生日:2月22日(打ち消し線) 8月12日
身長:157cm(打ち消し線) 147cm
”
〈シュレーディンガーの猫!?〉
〈これまたとんでもないのが出てきたな……〉
〈めちゃくちゃ年サバ読んでて草〉
〈全部嘘じゃねーか!!!〉
〈誕生日まで違うのかよ〉
〈何一つ合ってなくて草〉
〈全部訂正されてる〉
〈じゃあ最初の自己紹介なんだったんだ〉
〈*葵陽 -Aoi Haru- 【電ファン】:何それ知らないんだが〉
〈陽くん知らんのか〉
〈内部にも伏せてやってた?〉
そうして見せられた本当のプロフィールはこれ。……シュレーディンガーの猫とは、量子力学の考え方を不完全だと指摘するために物理学者シュレーディンガーに提唱された思考実験だ。
猫を密閉した不透明な箱に入れて、量子力学的に完全にランダムかつ半分の確率で猫が死ぬ仕掛けを用意する。このとき、箱の中の猫が生きているかどうか、という問題である。
量子力学には事象の重ね合わせという、まだ観測されていない確率的な事象を「どちらも存在する」とする考え方が存在する。これがそれまでの物理学の考え方と真っ向から衝突するということで議論になった。
シュレーディンガーの猫はこの量子力学の考え方をマクロな物理の世界に持ち込んだもの。この場合、箱の中では「猫が生きている」と「猫が死んでいる」という二つの状態が同時に存在していて、これは箱を開けて確認するまでわからないということになる。「いや、確認されていないだけで猫は生きているか死んでいるかどちらかしか存在しないだろう。だからその考え方はおかしい」というわけ。
みゃーこはそんなシュレーディンガーの猫を、異能や妖怪的な形で再解釈した存在……だと本人が言っていた。
「でも、そんなのそんなの理不尽じゃないですか。だから私、死なずに逃げ出せる結果になるまで自分で“再観測”したんです。
そういうわけで、私はさっきまでも何度か再観測してて。……まあ、たまーに調子が悪いときがあるというか……もしかしたら、配信には再観測が効かないのかもしれませんけど」
〈なるほど、まあわかった〉
〈うーんわからん〉
〈つまり再観測という名のタイムリープができると〉
〈配信では全部丸見えだけどな!〉
〈巻き戻し芸をこれからもやるってことですね〉
本当にざっくり言うと、量子力学的な考え方では、確率が絡む事象は条件が同じでも観測する度に結果が変わる。それを“再観測”と称して再現するような形で、ここまで散々巻き戻し芸をやってきたわけだ。
そういうことができる異能的なキャラクターだよ、という自己紹介である。そのためにここまでやったのだ。これからも使い倒すらしいから、そのプレビューを初配信でやっておくことにしたと。
「一応……見えますかね? たぶん気になってた方も多いであろうこの尻尾も、そのときに生えたんですよ」
〈見えてるよー〉
〈あー、それでこんな〉
〈残像みたいになってるとは思ってた〉
〈量子ってことなのかこれ〉
そしてそう、みゃーこの二本目の尻尾はホログラムのようにブレたりしている。ここが後からデザインを変更した部分で、ただの猫又ではないことを示す要素だ。
これのおかげで考察班は活発になっていて、中には正解に辿り着いている人もいた。ご褒美などがあるわけではないけど賞賛するし、これからもいろいろ考えてみてほしい。私も歌い方の意図を的中させているコメントを見て思ったんだけど、こういうのって少人数だけ当てている人がいるくらいが特に楽しいんだよね。
「年齢は……その、いくら化け猫といっても、いきなりこんな数字を出したら反応が怖くて。フーちゃんとかと違って有り得なくはない範囲なのがちょっと」
〈今更では?〉
〈まあ数百歳ほど胸張って言いやすいわけではなさそう〉
〈ファンタジア組の中では若い方では?〉
〈同期に幽霊いるんだぞ〉
〈ダミーの数字のためにサクラやらされた陽くんに合掌〉
私も今更だと思うけど、言わんとするところはわかる、かな。いっそエティア先輩くらいぶっ飛んだ年齢の方が気軽に話しやすいとは思う。……そういえば、どうしようかな。私、まだ年齢設定がそもそも決まってないんだよね。三桁くらい、という以上のことは別に必要にならなくて。
なお、ちゃんと意味のある数字だ。シュレーディンガーの猫が提唱されたのは1935年、今年2029年で94年になる。
〈誕生日は?〉
「……猫っぽくて疑われないかなって」
〈安直!〉
〈そもそもこの日付を隠しておく理由がわからん〉
〈さては全部嘘にするためにやったな??〉
大正解。台本を考えていたとき、みゃーこは「いっそ全部訂正にしちゃお」とか言っていた。
ただ、これまた元ネタのある日付だったりする。8月12日はシュレーディンガーの猫の提唱者、エルヴィン・シュレーディンガーの誕生日だ。もっとも、さすがにそこからバレることはまずないとはみゃーこもわかっていたけど。
「そういえば、いろいろ決めなきゃいけませんよね。……ファンアートタグはみなさん使ってくれている『#みやこ立美術館』のままにしますけど、サムネとかに使わせていただくのは今日以降の投稿だけにします。使っていいよって方は、よければ再掲していただければ」
ネタばらしが全部終わって、ようやく古宮都として自由に動けるようになった。時間はやや押しているけど想定内ということで、残りのやらなければいけないことに着手していく。
具体的には配信タグなど。ただみゃーこの場合、これはあれこれ悩む必要はなかった。ファンアートタグはファン研の該当回Cパートで陽くんが決めていて、もうたくさんのファンアートが存在するくらいだから。
とはいえ本当に出てくる、それどころか配信までやるとは当初思われていなかったから、慣例となっている「ファンアートタグのついたイラストは配信活動に使わせてもらうことがある」を適用するのを今日以降に限るのは妥当だろう。再掲を募るのも、副産物としていい盛り上がりになるはずだ。
「配信タグは……知ってるんですよ? 一部の方が『#みやこ営放送』で存在しない配信を見ていることくらい。量子猫にはお見通しです」
〈バレてら〉
〈ギクッ〉
〈この量子猫鋭いぞ!?〉
〈そら非公式wikiあるし……〉
〈集団幻覚を本人に認知されてんのマジで意味わからなくておもろい〉
とまあ、そんなことすらあるから余計に。普通は順序が逆だから当然といえばそうなんだけど、ここまでファンが勝手にやってくれて本人が何もする必要がないライバーも珍しい。
とはいえ、ファンメイドどころか一部は同期となった陽くんが作った代物をそのまま使うみゃーこの胆力もなかなかのものだ。
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ファンネーム:みやこ民
配信タグ:#みやこ営放送
ファンアートタグ:#みやこ立美術館
センシティブタグ:#みやこ所蔵不健全図書
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〈この子もおセンシタグ作ってる……〉
〈どこぞの吸血鬼に脅されたならちゃんとした先輩に相談した方が〉
〈しれっとみやこ民採用されてるが〉
〈めちゃくちゃ拾ってくれるじゃん〉
〈今思うとみゃーこ呼びに字面似てるからに見えてきた〉
出された一覧がこれなんだけど、センシティブタグについては何も本当にローラ先輩に作らされたわけではない。というのも、私やみゃーこ、それからマギにゃあたりはまだ中身が成人年度を終えていないから。名前検索でのエゴサの中に紛れ込んでしまったものを見るだけで悪いことになってしまうから、ちゃんとタグ単位でミュートにできるように分けてあるだけだ。
もっとも、来年の四月以降にわざわざタグを取り下げる気も、それどころか見ないようにし続ける気もさしてないのだけど。公言はしないけど、やっぱりちょっと気になるじゃない。
「ま、こんな感じで……とにかくいろんなことを、みんなと一緒に楽しんでいきたいと思ってます!よろしくね、みやこ民のみんな!」
……といったところで、みゃーこはつつがなく初配信を成功させた。ずいぶんと難しい方法を選んだものだけど、まとめてきたのはさすがの一言だ。
ただ、私の方が先に少しだけでも気を抜いたエンディング中のことだった。
「……うまくできたよ、フーちゃん!」
「!? ……みゃーこ、マイク切れてない」
「わざとだよー。ちょっとアピっとこうと思って」
〈ん!?〉
〈これは〉
〈Cパート!?〉
〈フーちゃんって〉
〈いたのかよ!?〉
〈ちょ、ま、詳しく〉
〈ずっと隣に!?〉
〈フロルガチ勢組が来ないのがかえって怖いんだが〉
みゃーこ、Cパート中に仕掛けてきた。隣に私がいたことを最後の最後でバラしたのだ。明らかにわざとだとすぐにわかったから私も声を出して応えたけど。
しかし、アピールだなんて。もしかして大々的にてぇてぇアピールで売るつもりなのかな。確かにデビュー前の時点ですらかなり接点が多かったし、全く同じことを先にやったのは私なんだけど。でもこれ以上やったら、さすがにガチ扱いされかねないよ?




