#71【雑談】今宵だけは論争にならないほど圧倒的に猫派が多いと思うんだけどどう?【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
「コンロンカー! 電脳ファンタジア所属、もともと猫派なアルラウネ、月雪フロルです。ってわけで語ろうぜみんな」
〈コンロンカー〉
〈コンロンカ!〉
〈お待ちしておりました〉
〈さすがに今日は爆弾デカすぎるぜ〉
〈脳焼かれるってあんなん〉
〈みゃーこの話してくれるんですね!?〉
12月10日、月曜日。現在時刻は22時前で、例のみゃーこ登場回が四時間弱前に公開されたところだ。当然ながらものすごい勢いで広まって、古宮都のこととデビューの話は既にしっかり伝わっていた。まして私がその日のうちに、それもソロ雑談をやると言えば何を話すかはすぐに何について話すか理解されたらしい。
ただ、私としては語る前にやることがある。コメント欄はまだ気付いていない人が多かったから、伝えておこう。
「ただその前に……公式チャンネルのほうを見てみてください。リアルタイム公開が待機状態になっていますね? まずはこれを開いて、二窓にしましょうか。できないようなら向こう優先で」
〈えっ〉
〈ほんまや〉
〈なんかあるゥ!?〉
〈予告は……〉
〈サプライズですか!?〉
〈このタイミングでってことは〉
〈開きました〉
そう、サプライズだ。そもそもつい四時間前までみゃーこのことを集団幻覚だと思っていたみんなに、電脳ファンタジアから具現化というプレゼント。
というわけでまずは、これ……古宮都のティザーPVの同時視聴をやろう。
とはいえ、今回は一人だけ。PROGRESSの加入発表のようにこれまでの活動からピックアップ、なんてこともできないなら、どうしてもPVは短くなってしまう。
『俺が召喚するクラスメイトはこいつだ!』
『……ちょっと待って気合い入りすぎじゃない!?』
『ここまで詳細に持ち込まなくても』
『陽くん、クラスの女子のことをこんなにじっくり観察していたんですね……』
『ちょ、その言い方は語弊があるだろ!?』
だから今回はそれを補うために、さまざまなシーンをかき集めて繋ぎ合わせている。まずは初出、陽くんが『ファン研』の企画に持ち込んだところから。
『……なるほど。フロルちゃん、またスカウトしてきてくれたんだ』
『そうなんだけど、実はちょっとイレギュラーになっちゃって』
『どれどれ……へえ。面白そうだね』
『言うと思った』
続けてふたつめは……これ、わざわざこのために撮り直した小芝居だ。本当はスカウトの話をハルカ姉さんに入れた時点では古宮都だと確定していなかったからこんな話にはなっていなかったんだけど、メタすぎるわ不自然になるわでそのまま使うには無理があった。
『……あなたのことを聞いて、連れてきてもらったんだ。電ファンにスカウトするかどうか、本気で考えるためにね』
『───ええええええっ!?!?』
これは本当にスカウトしたときの会話をそのまま持ってきたもの。さすがにこの絶叫は撮り直せないということで、うまく切り抜いた。映像のほうだけ、みゃーこが手前側でシルエットになるように撮り直して合わせている。……変なところで無駄に手の込んだことをするのはいかにも電ファンらしい。
『……うん、いい感じ。やっぱり上手いね、もうできてるよ』
『ほんと? よかった』
『配信中の機材の使い方はこのくらいでいいけど……改めてもっかい確認しつつ通してみよっか』
『わかった、任せて!』
練習中にスタッフさんが急にカメラを持ったから、それらしい言い回しで合わせたときもあった。PROGRESSの場合はこのPVでは途中までビジュアルがシルエットのままで名前も出さないから、それに合わせて。……私たちのような複数人で一緒にデビューしたライバーの場合は、勝手にアニメーションPVが作られて終わりだ。
『…………え?』
『これは、どういう?』
『なあフロル、……マジで?』
『マジなんだよねぇ。……じゃあ、自己紹介どうぞ』
『おっけー。……はじめまして、ではないかな? 私、古宮都っていいます!』
そしてこれが問題のシーンにして、みんなが四時間前に驚きを共有した初登場の場面だ。ここの自己紹介で名前と、しっかり姿を映したカットが初めて出るようにうまく編集されていた。
直後に正式にデビューを告知する映像が流れて、正式な立ち絵と初配信の日時が映し出された。このあたりは他のライバーと同じテンプレートだ。
「……ってことですねー。今日こんな時間に始めたのは、コレの同時視聴をやろうと思ったからです」
〈とんでもないことするなこの事務所!〉
〈俺らの集団幻覚が実体化したんだが〉
〈フロルもよく連れてきたよ〉
〈同時視聴とかウキウキじゃん〉
〈途中雰囲気とか甘々だったけど〉
〈妙に距離感近いし、もしかしてフロルの本命は都?〉
いろいろ上手く噛み合ったよね。結果的に電ファンでないと起こりえない着地点になった。一度は集団幻覚の架空ライバーとなった存在が、後から公式で受肉するなんてさすがに前代未聞だ。
本命、というのはちょっとわからないけど、距離が近いのは確かにそうかもしれない。もともと友達だからなのか、それともただただ可愛すぎるせいなのか、みゃーこで遊びたい欲よりも愛でたい方が勝るんだよね。
みゃーこについて語るとは言ったけど、当人が初配信を控えている。私から明かすのはその前に知られていても構わないことや、当人の口からはむしろ言いづらいことあたり。
「───それで、悲鳴を上げながら私の後ろに隠れちゃって。ぷるぷる震えて……仮にもイミアリに入ってる私に隠れ切れるんですよみゃーこって」
〈おばけ苦手は解釈一致〉
〈古宮都だ……〉
〈よかったね隣にフロルがいて〉
〈は? かわいい〉
〈ちっこいのか〉
〈確かにフロルと同じかちょっと小さかったな〉
そうなると話すのは、私が知っている……つまり主に学校でのことで、しかも当人が恥ずかしがって言わないことになる。その上で特徴的すぎると身バレのリスクも出てくるから、なかなか難しいものなんだけど……ちょうどいいからと話したのが、去年の文化祭でお化け屋敷に入ったときのことだった。
元気系小動物は怖いものが苦手、相場だよね。私としてはむしろ、あまりにも双葉が過去を含めてみゃーこにハマりすぎててちょっと恐ろしい。
背丈については『ファン研』の中で149cmの私と隣に並んだことでもう知られている。私が言うことではないけど、ライバーである以上低い身長も活かしたほうがいい。
そしてこの話をしていれば、誰かがコメントしてくれると思ったんだ。
〈じゃあ都もイミアリ入れるんじゃない?〉
「イミアリは相談済ですけど、とりあえずすぐには入らない予定です。新メンバーという概念でキャラ被りするのと、あの子あんまりイミテーション要素がな……痛っ」
〈入らないのかー〉
〈それは残念〉
〈四人のイミアリ絶対可愛いのに〉
〈入ってほしいなー〉
〈加入待ってるぞ〉
〈それは別にいいのでは?〉
〈ああ……〉
〈つまり都はちゃんとロリ系と〉
〈ん?〉
〈どっかぶつけた?〉
〈てか叩かれたみたいな音したけど〉
ふむ、ほぼ満場一致か。思っていたより需要は大きいらしい。新メンバーというものにもさほど特別性を要求されていない、というかほとんど気にされていない。
となるとやはり、あとはみゃーこ本人の言動の問題になってくるんだけど……横合いから二の腕を叩かれた。けっこう強めに。素で声が出るほど痛くしたのは、きっとミスではないのだろう。小動物ではあっても、おっちょこちょいでも迂闊でもないから。
「ちょっとみゃーこ、配信中なんだから音拾われるような叩き方しないでって……それに今のは事実だし痛っ」
「……」
「わかった、わかったから。ごめんってば、これ以上ロリ扱いしないから。まあぶっちゃけブーメランになるし……」
「……まあ、よろしい」
〈ん?〉
〈お、これは?〉
〈もしかして〉
〈みゃーこがいる!?〉
〈本物?〉
〈マジで!?〉
〈隣で見てらっしゃる?〉
〈寸劇じゃない?〉
〈フロルさん必死の弁明〉
〈怒りの二発目w〉
〈みゃーこご立腹ですよ〉
〈仮に自分で叩いてるんだとしてもおもろい〉
〈折れた!〉
〈フロル敗北〉
〈ブーメランは今更なのでは?〉
〈今ちょっと声したぞ!?〉
〈マジでいるじゃん〉
〈本物なのかよ!?〉
けっこうちゃんと痛い。みゃーこ、音を入れるためとはいえかなりしっかりめに叩いてきた。しかも二回も。
まあ、ちょっとした茶番だ。電脳ファンタジアは「こうしたら面白いんじゃない?」に妥協しない。もう明かされたからこうして存在を示してもいいし、こうすることでこれまでも同じことをしていたのではと邪推してもらえる。……事実、やっていたし。
ただどうやらイミアリ不適格は本当に不服なようだ。この反応と映っていない表情からして、この子は本気でイミアリ入りを狙っている可能性がある。動機はわからないけど……もう一度話し合う必要があるかもしれない。
「まあお化け屋敷の話の間は思い出して怖かったのか背中に顔を押し付けてきてたみゃーこの存在はいいとして」
「なっ」
「たぶん今後もこういうことはあるんですよ、お互いに。部屋隣ですからね」
〈かわいい〉
〈かわいいことしてる〉
〈なんでそんなかわいいんだ〉
〈なんと?〉
〈みゃーこハウス組ですか!?〉
〈フロルの隣まだ空いてたんだ〉
〈もうなんか全部てぇてぇ〉
〈まだデビュー前ですよね? 供給ヤバいんですが〉
〈これは正妻戦争に大本命現るか〉
実際、ここまできたらもう軽率に部屋に入り合って配信にも乱入するくらいでいいと思っている。それをやっている先輩はもういるし……というか、いっそあちこち乱入して回るのもいいかも。
せっかくの距離の近いシェアハウスだ、ライバーなのだから遠慮なく動き回ってもいいよね。




