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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト3:あの子はフロルが連れてきた

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#70【Universe Simulator】この宇宙、どうなっちゃうんだ〜!?【月雪フロル / パンドラ・ラスト / 電脳ファンタジア】

 電脳ファンタジアはよくヤバいヤバいと言われるし、実際かなりヤバいのも確かだ。そしてこの「ヤバい」には様々な意味がそのときどきやライバーそれぞれに合わせて当てはめられて、固定された意味の存在しない便利な単語としても強みを存分に発揮している。

 でもこうは思ったことがないだろうか。「その『ヤバい』という言葉たちの中にも程度の差というものがありはしないか」と。


「というわけで今回は、考えうる限り一番スケールの大きいヤバさの組み合わせを持ってきました」

『フロルちゃんがそんなつもりでわたしを見ていたことには遺憾の意を表明します』


〈パンドラちゃんだ!〉

〈電ファン最強のボケとツッコミ……ついにぶつかるのか〉

〈ファンボードのとき仲よさそうだったから期待〉

〈デュエコマのレクチャーのときめっちゃイチャついてたよね〉


 私は別にツッコミばかりのつもりはないし、私以上のツッコミはいると思うけど。仮にいないならそれこそマズいと思うよ。


 一期生、パンドラ・ラスト先輩。一見すると西洋風ファンタジーのとても可愛い村娘のようでありながら、2Dモデルでも時折何か邪気のようなものが漏れ出たりする意味深な少女だ。

 16歳のこの手のキャラに相応しい体格は大柄というわけではないにせよ、ロリ呼ばわりするには無理があるからイミアリには入っていない。その一方でエティア先輩とはまた違う見事なミステリアスさを持つ逸材である。


 私が関わるのはファンボードパーティのゲスト回が被って以来だけど、あの回はなかなか反響がよかった。私の初公式番組はもちろんのこと、パンドラ先輩の擬態性と凄まじさがいい具合に出たのだとか。

 それと……あのときは収録前にデュエ兄の手引きでカードゲームをやったけど、そこでパンドラ先輩に二人がかりで教えた様子があまりに初心者向けの始め方動画としてちょうどよかったからと単体で動画になった上にあろうことか向こうの公式から追認された。フットワーク軽いよね大概。

 そのタイトル───『デュエリズム・コマンダー』は少し前に一度電ファンとコラボしたことがある縁もあったのだろう。私もパンドラ先輩も、こうなった以上はコラボ第二弾の対象となることを座して待つことになっている。


『わたしがフロルちゃんとやりたくて、今日は持ちかけたの』

「実は仲がいいんですよ、純粋に。あと……」

『フロルちゃんが本当に一期生でデビューしないと聞いたときは泣きわめきました』

「という件でちょっと逆らえなくてですね。危うくいろいろ滅ぶとこだったし」


〈シャレにならねえ!!〉

〈てぇてぇで済ませてる場合じゃなかったわ〉

〈全力でご機嫌を取ってくれフロル〉

〈フロルに世界の命運がかかってるぞ〉


 今回のコラボはパンドラ先輩からの要望だった。そもそもそんな嬉しいお誘いならたとえツッコミが大変だとしても断る理由はないし、ことパンドラ先輩相手の場合は拒否権がない。


「電ファン発足時に、0期生の三人はそれぞれ一人ずつをスカウトしてきました。それで呼ばれてきたときに、そこそこの期間親交を深めていて」

『わたしはアリエッタ姉、フロルちゃんはハルカ姉だったよね』

「そこから一人だけデビュー取りやめたの、さすがに当時すごく良くしてくれたパンドラ先輩に対しては負い目でですね……」

『ショックだったんだよ? 入居をボイコットするくらい』

「そのときに『ああこれ嫌われたな』って思ったのに、たまに顔合わせるたびに前より良くしてくれてたのはある意味ホラーでした」

『そうそう。フロルちゃんもデビューしたし、わたしもハウスに移るね。もう理由もなくなったから』


〈へえ……〉

〈そんな裏話が〉

〈つまり御門がこまち先輩か〉

〈ボイコットだったのか……〉

〈罪深いぞフロル〉

〈そこまでされてもデビューする気にならなかった当時のフロル、だいぶ重症だったな〉

〈思ってたより甘いぞ!?〉

〈ハウス入居マ!?〉


 それは私も今初めて聞いた。それでスタッフさんがみゃーこの分と合わせて二部屋、私のいる階を全て片付けていたのか。そういうことなら、賑やかになりそうだね。

 まあ、私としても今となってはデビューした以上、二年半も遅れてしまったけど初期スカウト組仲間として絡むのもいいと思う。もう一人も含めて、追ってそういう話もしてみよう。






 閑話休題。

 では今日は何をするのかというと、


「これですね。『Universe Simulator』、宇宙空間を擬似演算するシミュレーションゲームです」

『確か、わりとなんでもできるんだよね』

「ほんとになんでもできるので、宇宙の神になって遊んでいきましょう」


〈なるほど〉

〈サンドボックス系か〉

〈面白そうだな〉

〈宇宙の生殺与奪をパンドラに与える……?〉

〈そんなことしたら……〉


 もちろんわかってやっている。今日は奇想天外を楽しんでいく回だ。

 マルチプレイモードというか、ひとつの宇宙に複数人が参加する機能があるからそれを使う。普通ならみんなで一緒に作業をして、たとえば自分好みの宇宙や恒星系を作ったりするのだ。メイン機能ではないから演算能力は比較的劣るとはいえ、星間文明を作って発展を見守ることもできたりする。


 もっとも、今回は単に画面を共有するために同じ宇宙にログインしている。このままお試しも兼ねて基本の操作からやってみよう。


「たとえば、この何もない空間に恒星を作ったりできます。誕生から見守ることも完成品を直接出すこともできますが……せっかくですからね、誕生から見てみましょうか」

『ということは、惑星とかもできたりするよね』

「うん。といっても、生命が生まれる条件が整うかは運次第だけどね」


 運というか、自然発生させる場合はできなくて当然だ。いくつもある条件の最初のひとつとして「水が液体である絶妙な恒星との距離である」が要求される。といっても放ってもいても水が液体として存在する温度はたったの100度しかないのだから、その距離帯にしっかり条件を満たした惑星が生まれるかどうかは。

 ただ、恒星ができるのだから惑星ももちろん完成品で作ることもできる。それをプレイヤーの手でちょうどいい距離に配置してしまうことも簡単だ。基本的にはそうして、地球のような星を作り出すことが前提になっていた。


「でも、都合の悪い位置にある惑星に重力を乱されたら……」

『ああ、そのときは消すしかないね』

「……まあそうなんだけど、惑星を消すのってそこまで軽々しく言うことかな」


〈よかったいつものパンドラだ〉

〈さすがっすパンドラ様〉

〈このくらいはナチュサイコ見せてくれないとパンドラっぽくないよな!〉

〈フロル、このくらいで突っ込んでたら体力もたないよ〉


 いや、わかってるよ。私だってこの人とは3年半の付き合いだ。ゲーム内の星程度なら買った後の服のタグくらいあっさり消す人だし、むしろこのくらいは軽すぎるだろう。この間は自称村娘だというのにフェンリルを手懐ける前提で話をしてきた人だよ。

 むしろ今日ここまでがちょっと大人しかった……と言われているけど、いくらパンドラ先輩でもその理由もない世間話では狂ったりしないよ。……たぶん。


「じゃあ実際に作っていくんだけど……まずは星間ガスをこのあたりに濃いめに撒いていきましょう。レシピは水素7、ヘリウム3、あと鉄とかの重元素をほんの少しですね」

『これがまとまって星になるんだったっけ』

「うん。死んだ星から出てくるもので、大量になってまとまると星雲になるんだけど……それがさらに集まると重力が生まれて、どんどん星になっていくの」

『銀河みたいな形になってきたね』

「宇宙空間で何かが強い重力でまとまると、だいたいこんな感じの形になるんだ。原理は同じだよ」


〈ほー〉

〈なんか神秘的〉

〈このゲームの正しい使い方〉

〈教育的なゲームですね〉


 中央に球形のようなものができて、それが回転する。その回転軸に垂直の方向に、薄い円盤ができていく。といっても中央の重力がかなり強いから、こう見えて質量のほとんど全ては球形のところにある。


「で、真ん中がそのまま恒星になって……」

『残りもまとまってきたね?』

「これがまとまりきって、落ち着いてきたら惑星になるの。そうなるまで加速」


 ひとつの恒星系の惑星の公転軸が全て同じなのは、こうしてひとつの円盤からできるから。シミュレーター内で数億年分を加速すると、やがていくつかの惑星ができあがった。

 ……のだけど、やはりそう上手くはいかないか。


「本当はこのあたりに地球型惑星ができたらよかったんだけど……残念」

『そんなに狭いんだ……地球ってほんとうに奇跡なんだね』

「まあこれだけなら案外あるんだけど、他にも条件がいろいろ……あ、パンドラ先輩、そこにズラすなら先にひとつ内側の星を動かしておかないと……あ」

『あー。なるほど、重力で引き合ってぶつかっちゃうんだ。……でも、またできてきたよ』

「実際、こういうのを繰り返して惑星ってできるの。……ぶつかって砕けても材料はそこに残るから、それがまた集まって星になるよ」

『ならいっか。むしろ大きくなってよかったね!』


〈草〉

〈せ、せやな〉

〈指先で星を砕いといてこの発言である〉

〈やっぱ魔王だろパンドラって〉

〈パン生地くらいのノリで惑星くっつけるじゃん〉


 実際、ここまでの操作で勝手に水が液体になる範囲、いわゆるハビタブルゾーンに岩石惑星が勝手にできることはなかなかない。それを操作なしで引き当てたのだから、地球がいかに運がよかったかがわかるというものだ。

 なんだけど……パンドラ先輩が一番近い惑星をぐいっと範囲内に動かすと、隣にあった惑星と距離が近くなりすぎた。お互いに引き寄せ合って衝突、粉々になってしまう。

 それが改めて収束して惑星になっていく。スーパーアースというやつだけど、これは……ああ、ダメそう。


『…………あれ? これすごく熱くない?』

「私も別に詳しいわけではないんたけど……暴走温室効果っぽい? 隣の星の大気組成がまずかったのかな……。太陽光の熱で水が蒸発して、水蒸気が温室効果ガスの働きをして、熱が逃げないまままた蒸発して」

『え、それまずいんじゃ』

「まずいんだよね。海が全部干上がって、際限なく暑くなり続けるから。これちゃんと戻るかな……無理そうだな……」

『うーん、なら消そっか』


〈あっ〉

〈消えた〉

〈さよなら惑星くん……〉

〈役目を果たせなくなったら無慈悲に消し飛ばされた惑星くんに涙〉

〈かるーいノリで〉


 金星のようになってしまう運命が定まったスーパーアースくん、哀れ消滅。パンドラ先輩の前で期待外れや邪魔をしたらこうなるのだ。なんの感動もなく、ゴミ出しくらいの温度感で消されてしまう。


 それで改めてハビタブルゾーン内に惑星を作ってみたところ……星雲から作り直させたらどういうわけかガス惑星になったからまたボッシュート。その後も何度か調整して試してみたもののいっこうに成功せず、パンドラ先輩のあまりに無感動なマッドサイエンティストぶりを見届けながらいかに海のある星を作るのが難しいかを痛感することになった。

 最終的には面倒になって岩石惑星をそのまま設置して、十数個の作られては無慈悲に消えていった惑星たちの犠牲は活かされずに終わった。私たちに創世はまだ早かったようだ。




 ……なお、配信の終わり際に用済みになった作られたばかりの既製品の地球と散々庭先を荒らされた恒星系、そしてシミュレーションの宇宙そのものがパンドラ先輩の手の中でどうなったかについては、もはや言うまでもないだろう。

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ブラックホール世紀末作るか、そのまま削除か、後者かな めっちゃ読んでて楽しい!
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