表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト3:あの子はフロルが連れてきた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/149

#68【クラ限】クラブラやるよ! かかってきな!【月雪フロル / 電脳ファンタジア】

 残り一週間。とはいえ私には、その間も自分自身の活動がある。みゃーこへのサポートや指導はむしろライバー全体ができるようになって負担が減ったことだし、私も民草を楽しませなければならない。


 それに、ちょうど月が替わったところだ。私は今月からファンクラブを始めたから、そちらにも早めに供給をして期待に応えたいところだった。

 というわけで、今日はファンクラブ限定配信をする。これまでと違うことだから少しだけ不安でもあったけど、昨日のファンクラブ開設後初の配信ではその証であるコメント欄の名前色が変わっている人がかなり多かった。改めて見てみると、加入者数は想定よりもずいぶん多いのだ。

 おかげで今日は案外平然とできている。このまま変に意識してしまわず、平常運転でいこう。


「というわけで、クラブラ百人組み手やります」


〈おお〉

〈格ゲーまでできるの?〉

〈本当に苦手ジャンルない説あるな〉

〈クラブラなら任せろ〉


 で、何をするかというと、視聴者参加型の対戦ゲームだ。もうひとつの候補として同僚の好き語りがあったんだけど、みゃーこ抜きでその話をすることにちょっと抵抗があった。そちらはあの子のデビュー後に回そうと思う。

 やるのは『超乱戦クラッシュブラザーズEX』。大手ゲームメーカーのオールスターキャラによる乱闘ゲームのシリーズ最新作だ。初心者や得意でない人でも楽しめるように、多人数戦やアイテムによってパーティゲームの性格も帯びている。よくある格闘ゲームと違うのは勝敗をHPではなく画面外への撃墜で決めることだけど、もはやクラブラが人気になりすぎて今更それを説明するまでもないところまできている。


「ただですね。私はひとつ懸念しています。普通にガチ組み手したら、だいぶ同じような絵面が続かないかと」


〈まあせやな〉

〈そらそう〉

〈フロルも持ちキャラとか得意戦術とかあるだろうし〉

〈普通にやったらフロルが無双するよね〉

〈てかしろ〉

〈ガンガン勝ちまくって〉


「なので、今回は皆さんに楽しんで見ていただけるように、ランダム性の高いルールで遊んでいこうと思います」


〈え?〉

〈試合形式じゃないの?〉

〈フロルの無双が見られるものと〉

〈普通の勝ちまくりでいいんだけど〉


「具体的には、デフォルトルール。つまりアイテムあり時間式の四人乱闘です。そのほうがたくさんの民草さんが参加できますからね」


〈普段とだいぶ違うな〉

〈むしろ基本ルールな件〉

〈ここで開発がしてほしいルールを選ぶ配信者の鑑〉

〈フロルの無双は見れないんですか?〉

〈勝ちまくりから逃げるな〉

〈ちゃんと民草をボコボコにしろ〉


 悪いね。私は自分が負けることより、似たような展開がひたすら続く方が怖いんだ。遠慮なくパーティゲームの側面を使わせてもらうよ。

 というわけでさっそく部屋を立ててしまって、部屋番号を映して参加者を募る。ありがたいことにけっこう人が来ていることもあって、公平性を上げるために下二桁を隠す小細工をしてもすぐに埋まった。


「ちなみに使用キャラもランダムにします。とにかくエンジョイしていきましょう」


〈本気?〉

〈いくらなんでもそれは……〉

〈マジで楽しむだけの気じゃん〉

〈いくらフロルでもこれはキツそうね〉

〈これで勝ちまくったらどうするんだ……〉


 さすがに大丈夫だよ。どんな人でも勝ち続けるのも負け続けるのも難しいモードになっているし、私は全キャラの最低限の立ち回りは知っている。逆にいえば本当に勝つ気も負ける気もなくて、平均順位が2.5に近いほどいいというつもりだ。






 というわけで初戦。私はランダムの末に看板キャラのメリクになって、画面中央に陣取っていた。

 メリクは遠近両用の万能型だけど、だからこそ器用貧乏と呼ばれがちだ。この手の器用貧乏タイプは特定の何かに秀でたものが少なく、多くの場合あまり強いキャラとならない。誰もが知る主役キャラクターではあるけれど、だからこそ背負ったものによって不遇となっているキャラの一人である。

 だけど、それはガチ対戦のときの話。相性が単純でなくなる乱闘の場合、こういうバランスタイプは悪くない。


「……よし、掛かった。あっちは任せて……よっと」


〈は?〉

〈いやいやいや〉

〈今なんで滑り込めた?〉

〈やっぱ上手すぎるじゃん〉

〈挟み撃ちされて無傷で打開してる……〉

〈まあ今のはサクリィはキューをやるよな〉

〈立ち回り完璧すぎませんか〉

〈そのコンボの猶予5F(フレーム)だが!?〉


 二人に挟み撃ちされてしまっていた場面だ。さすがに迂闊に動けば危険だから両方へ牽制しつつ、四人目(サクリィ)が相性有利な遠距離型(キュー)のほうを倒しに来てくれるのを待つ。

 時間制乱闘は撃墜/被撃墜数で勝敗が決まるから、ちゃんと自分で撃墜数を稼がないと勝てない。そのときの順位や何位狙いかにもよるけど、他プレイヤーを誘うも乗っかるも戦術というものだ。


 あとは残る近距離型のほうを自力で倒して、誘いに乗ってくれた四人目と戦うけど……なかなか強い。飛ばし切れないうちに二人が戻ってきたから中断して離れたんだけど、今度は二人とも向こうを集中的に狙い始めた。背後が甘かったから、悪いけど後ろから一刺し。連戦で削れていた四人目もそのまましっかり撃墜しておいた。


「三人とも、対戦ありがとうございました。サクリィの方はフットワーク上手くて焦りましたよ、ほかの二人もエイムが正確で」


〈はい一位〉

〈ダントツおめ〉

〈つっよ〉

〈どうすりゃいいんだこいつ〉

〈ランダムで出たメリクをここまで使いこなすのか……〉

〈これは始まったかもしれんね〉

〈対戦相手全員褒める優しさよなー〉


 実際、少なくとも初心者の動きではなかった。クラブラはe-Sportsにもなっている人気タイトルだし、いつもよりだいぶ視聴者の少ないクラ限とはいってもやり込んでいる人が多いのかもしれない。

 特に私の場合はもともとファン層にゲーマーが多いようだし、視聴者対戦はクラ限でやると公表しているから、やりたい人が多めに加入しているのだとしてもおかしくないか。






 そのまま続けていって、なかなか面白い試合が量産された。たとえば五戦目。

 私のキャラは「村長」、これは先日もやったアニ村の主人公……というかプレイヤーアバターだ。もちろん原作では戦闘なんてしないんだけど、クラブラ内では作中に出てくるさまざまなものを使って奇想天外な攻撃を繰り出す。たとえば、


「あ、隙あり」


〈!?〉

〈着地狩り上手すぎんか?〉

〈ドンピシャだったぞ今〉

〈村長ってこんなPS出るんだな……〉

〈その釣竿ふつう当たんないのよ〉

〈さっき「村長w」って言ったお前ら、ごめんなさいの準備はいいか。俺はできてる〉


 上入力プラスBボタンでは釣竿を振れるんだけど、この技がかなり扱いづらいというのが大方の評価だ。原作ほどではないものの出は遅いほうだし、向いている方向の一定距離まで放物線を描く軌道はいまいち掴みにくい。

 ただ、当たれば強い。抵抗無効のまま一気に引き寄せられる上に若干の操作猶予が村長にだけ与えられるから、その隙に横強攻撃……リーチが短く外した時の後隙が大きい斧を当てれば凄まじい火力が出るのだ。


「まあ私も当たるときしか当たりませんよこれは。基本的には隙待ちで、四人乱闘だからこそなところあります」


〈だから普通は四人でも当たるときなんてないのよ〉

〈圧倒的プレイスキル……〉

〈対人でのフロルのヤバさ思ってた以上だな〉

〈そりゃ対戦ゲーコラボできんわな〉

〈ハヤテでもついてこれなさそう〉


 ううん、そうかな。そうかもしれない。これでも私にも「俺たち、お前とゲームやるの苦しいよ」みたいな過去は上京前に何度かあった。それからサブマネとしてコソ練相手を頼まれるようになるまで、私は一度も対人戦をやっていなかったし。そのコソ練でも当然ながら相手に合わせていた。

 そういう意味ではライバーという立場はいいものだった。何かしらハンデやルールあたりでエンタメ化できさえすればむしろ歓迎して上手くコンテンツにできたりするし、こうしてひたすら見せつけるような需要もある程度はある。


「……そういう意味では、今ものすごく楽しいんですよね。勝ち負けとか関係なく、ただ民草のみんなと対戦で遊べるのが嬉しいです」


〈よかったなぁ〉

〈少年漫画の孤高の天才みたいな悩みだ〉

〈まあそりゃあるかこんだけ上手いと〉

〈これだけランダム要素増しといて平均順位1.25だし〉

〈普通は毎回ボコられまくるだけだと飽きるもんな……〉

〈フロルにボコられるの楽しいぞ!〉

〈ライバーは天職だったんじゃない?〉

〈それかプロゲーマー〉


 たぶん、声優の夢を捨ててすぐに声をかけられていなければ、プロゲーマーは考えていたと思う。……ただ、オンラインマッチでも上級者に勝っては熱が冷めてを繰り返していた私にひとつのタイトルへの熱意が持てるかは微妙だし、どちらかといえば好みはいろいろなゲームの高難度チャレンジにアタックするような楽しみ方のほうなんだよね。対人戦はできなかったのもあるけど、どうしてもやりたいわけではなかった。

 だから結局、ゲーム実況や配信に手を出していたかもしれない。……まあ、それにつけてはある種最高峰ともいえる電ファンには遠慮を繰り返したように、もともとそう思えていたわけでもないんだけど。


 思えば私は、長らく迷走していたのだろう。考えれば考えるほど、根気強く引き込んでくれていた電ファンとハルカ姉さんへの感謝が尽きないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ