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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト3:あの子はフロルが連れてきた
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#67【クラ限動画】うちの親友がかわいいから自慢したい【月雪フロル / 古宮都】

「と、いうわけなの」

「古宮都です。よろしくお願いします」


 そのままその日の夕方。たまたま全員が空いていて五人とも四期生のボイスチャンネルにいたから、都と一緒に入って紹介することにした。

 マギにゃとアンリさんがコラボ配信後、ちよりんは夜から配信を控えているけどまだ時間がある。私はやや遅めの時間に軽めに雑談枠をやるつもりで、ゆーこさんはいつも通り深夜。陽くんはさっきまで収録があったから今日はお休みだ。


『と、とんでもないことをなさりますね、この事務所……!?』

「それには私も同意だよ。どこかにブレーキとか落ちてない?」

『スカウトしてきた当人が言ってもね』

「都として、なんて言い出したのはハルカ姉さんだよ。私関与してない。……まあみゃーこは持ちかける前からやりたがってたみたいだけど」

『大型新人だ』

「むしろオーディションすら受けようとしなかった小心者なんだけど……」


 悪いけどそこについては、配信者としての面白さを何よりも優先したストイックさと看做すということで話がまとまっているから。たぶんもう覆りはしないだろう。


『甘んじて受け入れないと、新人面接のときのフロルみたいになるぞ』

「そ、それは……ん、わかった。そういうことにしとこ」

『あれやっぱりいやなんだ……』

「生き地獄だからねアレ。私は途中から懺悔しかしてなかったよ」


 もっと早く自信を取り戻しておけばこんな目には遭わなかったのに、って本気で思ったんだ。つい一時間前までずっと自分の至らなさばっかり見ていたところから。皆は気をつけてね。

 元民草のみゃーこはそれがよくわかっているのだろう。あっさり翻して受け入れた。もともと自発的に個人勢になろうとしていたから、私とは受け止めやすさが違うのかもしれないけど。


『ともかく、よろしくね都ちゃん!』

『共に頑張りましょう』

『陽くんはどんな驚き方をしていたんだろうね? ともかく、こちらこそよろしく頼むよ』

『同期がふえたの、うれしい……。よろしく、みゃーこちゃんっ』

「お、おお……フーちゃん以外にみゃーこ呼びしてもらえた」

「マギにゃはたぶんいつものくそかわ滑舌が発動しただけだと思うよ」

『あいでんてぃてぃだから』

「つ、強くなってる……!」


 そもそも新たな仲間を喜べない人は電ファンにはいない。挨拶の最中にも話に花が咲いてしまうくらい一瞬で打ち解けて、浮いたりしないか心配していた十五分前が滑稽なくらいだった。

 そして最近めきめき自己肯定感を上げてきているマギにゃに驚くみゃーこ。かなりのファンファンでもあったみゃーこは今になって知ったことを悔しがっているけど、それは無理もないよ。




『そういえば、都さんはこれまでどんな感じで準備してきたのですか?』

『ああ、それは気になるね。我々は一ヶ月半かけてオリエンテーションや講習のような形で学んだり、実践形式で練習をしたものだが』

「その代わりはやったよ。私とルフェ先輩、それから流れでマリエル先輩とエティア先輩も参加して」

『そうだったのか……』

『……いつからやってたの?』

「先月の……18日、二週間前からだよ。スカウトが16日だったから」

『え、麻雀女子会より前!?』


 そうなるね。大きなサプライズだったから、私たちは頑なに口を閉ざしていたけど。実はそのくらい前からずっと知ってやっていた。

 その時期から時間を見つけては誰かが講師役をして、順に教えていっていた。普通の半分しかない半月で、配信での手の動かし方は後回しとはいえ公式番組での振る舞い方まで教えるハードスケジュールだったけど、みゃーこは持ち前の優秀さと元は個人勢デビューのためにやっていた予習で見事に乗りきってみせたのだ。

 今週に入ってからは教える側の時間が足りなくなって、もともと休めと言われていたこともあって私が配信を減らして対応していたほど。周りには「それじゃ意味ないだろ」と詰められたけどそれはそれだ。


「せっかく特例でやってるなら直接見せちゃってみてもいいかなって思って、配信の裏で実は同じ部屋にいたことが二回あったし」

『けっこう危ないことやってんな!?』

「みゃーこに限って変なミスはないと思ってたからね。それに、どっちもわかっててフォローもできる人とのコラボだったし」

『っていうと……マリエル先輩とのアニ村?』

「そう。あとはママとのお絵描き雑談」

『あー』


 そう、その二回は実際に配信をして動くところを隣で見てもらっていた。挑戦的な試みではあったけど、変なことがあって驚いてしまったりはしないように動きの少ない回で、かつ声が入ってしまったりという事故に備えて私以外にも事情を知る人がいるときに限定はしたけど。

 その最中にママがみゃーこの絵を描き始めたのはちょっとした悪戯だろう。私も乗っかって話題にしたけど、みゃーこは目を泳がせていた。あのときの会話はなかなか白々しいよね、それまで五日ずっとみゃーこ呼びもしていたのに。


「あとは、リリりの収録を見学してもらったりしてたね」

「あれすごく助かったよ! 事前に収録の雰囲気だけでも見れたから、ファン研でも目立たず隠れられたんだ」

『そういうことかよ……。後から思い返しても変な動きしてるスタッフが思い当たらなくて悔しかったんだよなぁ』

『イミアリは全員仕掛け人だったからそれができたんだ。なるほど……』


 と、裏でやっていたのはそれくらいかな。隠し通すのは少し大変でもあったけど、楽しかった。……いや、まだもう少しだけ、今度は電ファン全体まで秘密の共有を広げて続くんだけども。






『で、今後のスケジュールはどんな感じなんだったかな』

「今日で内部にだけ周知したから箱内では話していいけど、それから一週間強は内密。10日……再来週の月曜に該当回が公開されて、その日のうちに告知とPVが出て情報解禁だね」

「初配信は15日の土曜日って聞いてるよ」

『わかりました。……この手の秘密、どうしてか少しわくわくしてしまいますね』

「今後はけっこうあると思うよ。それこそ新人とかPROGRESSとか来たら毎回似たような感じになるし」


 これから半月の間は改めてみゃーこのデビュー前ということになるけど、基本的にはライバーにやることはない。いつも通り、少なくとも情報解禁までの一週間を違和感を持たれずに活動してもらえればそれでいい。陽くんには失言がないよう意識してほしいけど、あとは問題ないだろう。

 強いていえば、私はもうしばらく配信頻度が落ちたままになるかな。今週はそれまでの週5から週3まで減っているけど、これは「前から言われていたように忙しいから無理しないようにした」と受け取られているから勘繰られるような気配はない。


「私は来週は三回だけ動いて、残りはみゃーこのサポート。収録も終わったし、そろそろ擬似配信形式の実践演習やらないと」

「いよいよかー……なんかワクワクしてきたよ」

『そこで楽しみにできるならだいじょぶそう』

『だな』

「ライバーの目を気にせずに設備も使えるようになったし、みゃーこは明日から本格的なボイトレも始めてもらうよ。水波ちゃんも来てくれるから。けど……」

『けど?』

「ちよりんとカラオケ行った時あったでしょ? あのときドリンクバーで見つけてきたのがみゃーこなんだけど」

『えっ?』

「あ、だよね。あのときのお姉さんはちよりんだよね」


 みゃーこはやっぱりわかっていたらしい。エティア先輩ともルフェ先輩とももう会っているし、そもそもそうと知ってかかればあのそこそこ高めの身長の時点でちよりんしか有り得ない。翻ってちよりんはわからなくて当然だ、あれがまさにみゃーこだなんて。声ぜんぜん違うし。


「あの後向こうに行ってた間に聞いた分には、みゃーこって元々そーとー上手いんだよね。セルフレッスンとかしてた?」

「うん。素人の独学だけどね」

「後からもらった録画を水波ちゃんに聞かせたら、『基礎はできてるので飛ばせますね』って言ってたからあんまり時間かからないと思う。もう曲選定とかしちゃっていいかも」

「ん、そこまで? アレでよかったの? けっこう手を抜いてたんだけど……」

『……ねえふろるちゃん、もしかしてわたしたち、けっこうダメなこ?』

「みゃーこと陽くんがよすぎ、というか経験があるだけだよ。焦らないでいいからね」


 声作りも歌もそうなんだけど、昔から憧れてずっと一人で計画してきたこともあってかみゃーこは即戦力だ。技能面では申し分ないから、私たちが教えているのも進行や対応のやり方ばかりだった。

 決まってからわずか半月で、しかも公式番組が初舞台などという挑戦に最終的にゴーサインが出たのはそのおかげでもあった。ハルカ姉さんだって当初は一月の収録分に合わせて出すつもりだったのを、たぶん大丈夫と暫定的に早めさせたのは実は私だし。


『10日って言ってたけど、その10日の配信で話すのはさすがにまだダメかな?』

「ゆーこさんは大丈夫だと思うよ。確定はしてないけど、18時に動画投稿、22時ごろにアナウンスの予定だから、22時過ぎからは話していいはず。ぎりぎりの時間なら念のため運営ついったから話が出てるか確認してね」

『おっけー』


 ……なんというか。ただ集まって変化と今後について話しているだけなのに、悪巧みでもしているような気分になるね。それが何故かといえば、密談が楽しくなるくらい四期生は気の置けない関係性だから。いい仲間に恵まれたし、みゃーこにもそう役立ててほしいと全員の意見がすぐに一致したのだろう。


 あと半月。もちろん自分の活動もしながら、古宮都という特大のサプライズの行く末を見届ける。それが楽しみで仕方ないのは、決しておかしな感覚ではないはずだ。

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