#56【アニ村】私たち! 属性過多シスターズ!!!【マリエル・オーレリア / 月雪フロル / 電脳ファンタジア】
私がサブマネージャーとしてついたことのあるライバーは、合わせて四人いる。
ひとりはハルカ姉さん。あのひとはここのところ「後方腕組みお姉ちゃん面」がマイブームだから、それが収まるまではむしろコラボ打診が来ない。今日も私に声をかけてはこないまま、配信の雑談として私やその他ライバーたちの様子を話すのだろう。その対象にならずに済むのは残る二人の0期生だけだ。
それからエティア先輩とルフェ先輩。思えばユニットメンバーがどちらもそういう関係というのも奇妙なものだけど、二人とは最近絡みも多いし昨日はリリりの収録もあった。
ただ、思ったのだ。残る一人との絡みが少ないな、と。
「だけどこのひとったら、いっこうに後輩にコラボ打診してこなくてですね」
『う……ごめんなさい』
「まだ小心者キャラで頑張ってるとこ悪いんだけど、ちゃんと来てくれないとそろそろ新人バブル割れちゃうよ?」
『キャラじゃないですってば!』
そう、三期生のマリエル・オーレリア先輩だ。デビュー直後の後輩とのコラボは控えられがちな風潮があるとはいえ、さすがに何かしらの形で後輩と絡んでいるライバーが増えてきた今になって、未だにほぼ四期生との接点がない数少ないライバーである。
こうは私も言っているけど、彼女の小心者はガチだ。初めての後輩にすっかり怖気付いて、未だに絡みは先日の私との放送事故じみた一度だけ。これでも基本的には優秀なライバーなんだけどね。
ただ、いろんな形での絡みがあったとはいえ、実は私も先輩と一対一でのコラボはこれが初めてだ。もっと増やしていきたいんだけど……対戦ゲームがやりづらい分難しくなってしまっているのは確かだった。
それに加えてマリエル先輩はとても、本当にゲームが苦手だ。今日はそんな彼女でもできる数少ないゲーム、『ようこそ!アニマル村』をやりながらまったり雑談でもしていこうという話だった。
〈デートですな〉
〈好感度管理に余念がない〉
〈現実でもギャルゲーやってんのな〉
〈さすがっすフロルの姉御〉
「やってませんから! 誰が百合ハーですか誰が!」
〈そこまでは言ってないけどそうだろ〉
〈誰がどう見ても百合ハーじゃん〉
〈今何人いる?〉
〈片手じゃ足りないよね〉
まあデートであることくらいは認めるけど、別に百合ハーレムなんて作る気はないのだ。いまどきデートなんて友達同士でもやる。
ところが民草からはそうは見えないようだった。最近のマリエル先輩が一配信に一度ずつくらいのペースで私の話をするせいもあって、完全にそういう扱いをされている。本当に小心者で奥手なだけで同期や後輩のことは私に限らず好きだから、たとえばゆーこさんの話も半分くらいの頻度ではしているのだけど。
「とりあえずマリエル先輩、これ」
『え? ……え!? いいんですか!?』
「これは交換要素だからね。マルチじゃないと揃わないの」
〈そういやそうだったな〉
〈先輩想いのいい後輩だぁ〉
〈ちゃんと裏で育ててたんか〉
〈マリエルがこれ始めた頃にはサブマネやってたし……〉
〈そう、マリエルがこの半年で一度もマルチをしていないのがリアルタイムでバレているのである!〉
挨拶代わりにまずは、五種類ある果物を一つずつ渡しておいた。これは各データごとにランダムで一種類ずつしか生えてこないもので、揃えるには他のデータとの通信が必要になる。一度渡してしまえば、あとは植えれば増えるんだけど。
私は先日の視聴者参加型配信で揃えておいたんだけど、実はマリエル先輩の小心者は自分のファンに対してすら発動する。おかげで視聴者参加型の頻度すら本当に少なくて、特にこういう自由な交流ができるゲームはほぼやっていなかった。これでもこの人、アニ村そのものは半年前のデビュー直後から定期的にやっているんだけどね。
「おととい雑談したじゃないですか。あのとき実は裏でアニ村やってて、いつバレるかなって裏企画をやってたんですよ」
『そんなことしてたんですか?』
「二時間誰にも気付かれなくてボツになったけどね」
『何やってるんですか……?』
〈!?〉
〈そんなことしてたのか〉
〈えぇ……〉
〈わかるわけないだろ!〉
〈フロルがアニ村程度で操作を態度に出すわけないんだよなあ〉
〈FPSでもこっそりできそう〉
〈自分のゲームスキルを自覚してもろて〉
まあ作業雑談よりも体感楽だったからね。さもありなん。気付くのは無理があるとやってからわかったし、どちらにしろ用はあったから損もない。
次はメリカでもやろうと思う。そのくらいやらないとネタになりそうもないし。
今日はまったりするだけのつもりだから、変に企画だとか競争だとかも予定していない。たまにはそんな日もいいだろう。アニ村はそういうゲームだし。
「先輩は好きに動いて。私はなるべく近くでなんかやってるから」
『わかりました。フロルちゃんもゆっくりしていいですからね』
マリエル先輩はゆっくりではあるけど、アニ村では収集物のコンプリートを目指している。私は適当にその手伝いでもやっていこう。
根本的にゲームの操作が苦手なマリエル先輩だけど、アニ村は最低限ちゃんとプレイができている。それがなぜかというと、このタイトルはボタンを三つ以上同時に押す必要がないからだ。……これはあろうことか本人の発言である。
『昨日、リリりの撮影でしたよね。どうでした?』
「思ってたよりは自然にやれたかな。ちょっと想定外にしてやられたのもあったけど」
『あれとファン研はリアクション芸があるタイプの番組ですからね。フロルちゃんなら大丈夫だとは思いますけれど……』
「真っ先にこういうことするビジュアルのユニットじゃないよな、とは思いながらやってた」
『そこは他のユニットがまだできていないせいですから……』
〈おお、ついに〉
〈来週からはリリりでもフロルが見れるのか〉
〈番組名に体当たりってあるくらいだからなぁ〉
〈熱いフロルへの信頼〉
〈何やられたんやろなぁ〉
〈それはそう〉
〈マジでそれ〉
〈他のユニット結成まだですかー?〉
特に五本目がひどかった。メンバーの過去の恥エピソードが書かれたり切り抜き場面が印刷されたりしたオリジナルトランプで遊ばされて、新しくカードが場に出る度に誰かしらが悶絶する羽目になったのだ。どうしてまだデビュー一ヶ月の私にそんなことをやらせたのだろうとは思ったけど、サブマネ時代を含めれば案外無理なく作れてしまっていたようでもう自分のことも信じられない。
第二第三のライバーユニットはどうやらずっと構想されてはいるようなんだけど、イミアリが形になりすぎてハードルが上がっているらしい。私たちとしても早めに完成してほしいところなんだけどね。
「あ、カツオだ。あげるね」
『そ、そんな軽々と。いいんですか?』
「私のほうではもう寄贈済みだから、持って帰っても売るしかないの」
『さすが……じゃあありがたくもらっておきますね』
「うん。さあ、この調子でガンガン献上していきますか」
『あれ? もしかして今日そのつもりで……?』
〈カツオってそんなポンと渡すものか?〉
〈フロルエンジンかかってきたな〉
〈これがゲーム強者の余裕か〉
〈ゲーム力なくてもできる(ゲーム力関係ないとは言ってない)〉
〈献上っつったぞ今〉
〈貢ぐ気満々じゃねーか!〉
主目的は雑談だよ。それに私も未所持のものが手に入ったらさすがに持って帰るつもり。だけど私、10月から11月に現れるものはもうだいたい揃っているから。
基本操作にゲームの実力は要らないゲームだけど、一部の釣りや虫取りにはちょっとコツが要るところがあるのだ。そのあたりは手助けができたらな、と思っていたから、幸先はかなりいい。……といっても、見つかりさえすれば簡単なものは、そこそこやり込んでいるマリエル先輩はある程度持っているんだけど。
『そういえば四期生って、ボイスはいつ頃から出すんでしょうか』
「早いひとはクリスマスから出すって言ってたよ」
『フロルちゃんが最初じゃないんですね?』
「デビュー決まったのが遅かったからね。台本はそろそろできるけど、スタッフさんに多忙認定されてるから発売はしばらく先」
〈お〉
〈それ切り込んでくれるのか〉
〈ボイスの話たすかる〉
〈フロルはファンサ凄そう〉
〈しばらく先把握〉
電ファンではグッズとして販売するボイスは本人が台本を書くようになっている。もちろん誰でもぽんぽん書けるものではないから内部での手助けはよく行われているし、中には伝手を辿って作家の人に協力を仰ぐ人もちらほらいるけど。
私はむしろ協力を……というよりは担当ライバーと一緒に頭を捻って書いた経験があるから、ある程度自力で書くことにしていた。むしろマネとサブマネには横から見学をされたような気がする。
『多忙なのは本当じゃないですか?』
「心配されるほどじゃないんだけど……」
『騙されないでくださいね、皆さん。フロルちゃん、本当なら怒られるかもしれないくらい忙しいですから』
「今みたいなのは今年いっぱいだから」
〈やっぱ忙しいんじゃん〉
〈無理しないでおくれよ〉
〈フロルからはワーカホリックの気配がするからな〉
〈頑張って半年早めてくれたのは嬉しいけど、民草は心配なんだぞ〉
うーん、心配されてしまった。……といっても、実際今の私がスケジュールの額面上はけっこう無理をしているのは事実だ。そもそもライバーの仕事は外からはわからないように忙しいのに加えて、私はイミアリとリリりも受け持つことになった。その上で今年中は高校に行っているのだから、身内に心配されるのはわかるのだ。
実際はもう高校はほぼ行っているだけの状態だから負担はさほどないんだけど、そんなことはファンには言えないから。……ではそもそもまるっと隠していないのは何故かというと、年明けから活動を増やしたときに怪しまれないようにだ。急なデビューで年内は前の用事が残っていた、の方が話が通じやすい。
ともかく、ボイスはそれを見越してバレンタインのものを担当させてもらえることになっている。このあたりの配慮はありがたい限りだ。




