表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト2:四期生の絆を見せつけろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/149

#44【電ファン切り抜き】雪に救われた経緯を明かすルフェ・ガトー【ImitateAlice】

 ハルカ姉さんに抗議するのは後として、告知はまだまだある。


「それから『リリり』だけど、再来週の回からフロルちゃんも出るから乞うご期待」

「まだ撮ってませんし、出るのが決まったの一昨日なのでまだなんにもわかってません」

「ほんと迅速ですよねぇ、デビュー一ヶ月足らずで。葵陽くんもだけど、四期生急がされすぎじゃないですか?」

「私はもう準備期間三年みたいなものだからいいんだけど……もうレギュラー持ってる陽くんはほんと凄いよ。普通こんな速度でやらない」


〈もう!?〉

〈ほんと動き早いな〉

〈無理しないでね〉

〈この速度感は電ファンの強みだよな〉

〈三年準備してても大変なものは大変なのでは〉


 リリりこと『イミアリエスプリ体当たり!』の収録は来週末。そこで撮るうちの一本目は再来週末には公開されることになる。この番組はタイトルの通り、電ファンらしからぬアイドルユニットといえるイミアリとバランスを取るかのようなオールジャンルバラエティだからちょっと怖い。……というか、渡された台本がね。

 ただ、速度感がウリなのは確かだ。だからこそライバーやスタッフに適性を要求してしまうところはあるけど、それもこれも電ファンのストイックさともいえる。ハードスケジュールを承知でこの件を請けたのも、私自身が電ファンのそういうところを誇りに思っているからだし。




「そして。ユニットとしての本題の活動ももちろん動きます!」

「しかも二曲! カバーとオリジナル曲、どっちも三人でやるよぉ」

「信じられますか? このユニット、最初からオリ曲を三人用、しかも私前提の歌詞で発注してたんですよ」


〈!!!!〉

〈とんでもねぇ、待ってたんだ〉

〈ついにか……〉

〈初のオリ曲!〉

〈二本もいいんですか!?〉

〈スケジュールヤバいって話をした直後に自分達でヤバさ引き上げてる〉

〈聞けば聞くほどフロル前提ユニットすぎて草〉

〈フロルに救われた二人だし〉


 というわけで、私は時期に幅があるとはいえ現在最低三本の歌収録が控えている。二本目の歌ってみたには今回もショートを添えるつもりが最初はあったんだけど、さすがに無理ということで諦めた。

 今回は私のイミアリ加入が漏れたりしないよう、内部で抱えているクリエイターで固められていた。情報統制は完璧だったよ、なにしろ私自身が先月末まで知らなかったんだから。


 といっても、さすがにオリジナル曲はまだ制作中。イミアリの計画が立ち上がってからわずか二ヶ月だし、予定では加入ももう少し先だったそうだから無理もない。

 一方のカバーはもう全ての準備が整っているから、あとは収録とMIXだけすれば公開までいける。だから公開順はイミアリのカバー、個人の歌ってみた、しばらく空いてオリジナル曲の順になりそうだ。


「結成の話をしている最中にフロルちゃんのデビューが決まったからね。フロルちゃん前提なのはもはや言うまでもないよ」

「わたしたち的には決まる前からそのつもりだったから、フロルちゃんが五期生になったりしてたらそれまで結成自体をまってたかも」

「私はそんなつもりなかったよ。カラオケの時点でもまだ普通に誘われただけだと思ってた」


 今思えば滑稽だよね、ここまで確定したまま全てが進んでいたものに対して「できる自信がないから保留」って。二人はどんな気持ちで「返事はいつでもいいよ」とか言って、翌日の朝にファンに口説き落とされる私を見ていたんだろう。

 ことライバーとしての技能をして養殖と自称してきた私だけど、今思えば違う。心変わりや精神的な成長に至るまで全部養殖されていた。私は分かった振りで何も知らず踊らされているマヌケだ。


「ほんと、何が『ライバーで遊ぶ』ですか。デビュー前から遊ばれてるの私のほうじゃないですか……」

「大丈夫だよフロルちゃん、遊んでるのはわたしたちだけだから」

「そう言われて『ならよかったぁ』ってなると思うの!?」


〈でもそんなフロルが好きだぞ〉

〈フロルにまでポン要素があるなんてなぁ〉

〈電ファンにハズレなしとはこのことよ〉

〈なんの慰めにもなってなくて草〉

〈フロルへのダメージが一番大きいのルフェなんよ〉

〈諦めろ、もう二面性で売ってくしかないぞ〉


 「電ファンにハズレなし」とはよく言われる文言なんだけど、これには二つの意味がある。額面通りちゃんと全員が面白い、目利きが確かという褒めのニュアンスと……一見ちゃんとしていそうなライバーも含めて全員例外なく“配信者スキル”、つまりポンコツを完備しているという意味だ。

 もっとも、別にこの一ヶ月の間その意味が否定されていたわけではないけど。自分が完璧でないことなんて最初から承知だった。……だけど、この遊ばれ方はなかなか手痛い。

 そして何より、それを美味しいと心から思ってしまった自分が複雑だった。






 この日は特に予定していなかったこともあって、余った時間は雑談。三人もいる上に、コメント欄もあるから話題に困ることもあまりない。


〈さっきから言ってるフロルに救われたって?〉


「ああ、新規さん向けに話し直しておくのもいいかも」

「救ったわけじゃないんだってば。確かに結果的にはそうなったみたいだけど、私が決めたわけじゃ」


 これはエティア先輩とルフェ先輩がそれぞれ擦り倒している話だ。私は大袈裟だと思っているけど、これこそが「雪」の知名度が跳ね上がった理由でもあった。

 二人の私に対する好感度がやたら高い、遠慮がない原因でもあるから、この話は確かに私から入ってくれた人や最近見始めた人にはしておいてもいいかもしれない。私から自発的にはしづらい話だから、こうして先輩たちが取り上げてくれるのはありがたいか。


「といっても、私の場合は珍しい話ではないよ。ここに来てすぐ、デビュー前からずっと一緒にいてくれて、悩んだときも危うく炎上しかけたときも寄り添ってくれたの」

「サブマネとして当たり前のことしてただけだよ」

「フロルちゃんはいま電ファンのサブマネのハードルをぶちあげました」

「どれだけ救いになったか、伝わってないんだろうなぁ」


〈そうか、神だったか〉

〈フロルはデビュー前からフロルだったんだなあ〉

〈自分が救われた経験でもなく人を救えるのは才能だぞ〉

〈依存されてもおかしくない〉


 私は本当に、担当のためにできることはなんでもするというつもりで動いていただけだ。生活環境を変えるのは不安だと私も体感していたからまずはなるべく一緒にいて、悩みはとにかく全部聞く。その上で私ではどうにもならないことは安請け合いしない、というくらい。

 ボヤ騒ぎがあったときは……私の立場ですら怖かったのだから本人はなおさらだろう、というだけ。ほんの不注意の小さなボヤでしかなかったから、落ち着くまで支えにはなったけどそれだけだ。


 ……わからないわけではない、それが心強いことくらい私自身もライバーになった今ならわかる。だけどほら、本当に素でやったことをこれだけ称え擦られたら、居心地が悪くなってくるというか。




「わたしの場合は……ほんとに人生を変えてくれたんです」

「だから、私だけじゃないって」

「でも、見つけてくれたのはフロルちゃんだよね?」


 ……ルフェ先輩の場合は、確かに割と派手なことをした。スカウト、という行為だ。


「こっちに来てすぐのころ、ぜんぜん馴染めなくて。ハヤテせんぱいだけが生きがいみたいになってた時期があったんです」

「それ、ハヤテ先輩が知った時の喜びようといったら凄かったよね」

「ほんとにつらくなって、やらなきゃいけないことから逃げるみたいに電ファンのファンイベに来たとき……漫画みたいにきれいに、会場内で道に迷っちゃって」


 ルフェ先輩は地図を読むのが苦手だ。自分の目で覚えると大丈夫だから方向音痴とは違うんだけど、地図と照らし合わせて動くことが大の苦手である。それを理由にオープンワールドゲーをやりたがらないくらい。

 そんなルフェ先輩が道端で途方に暮れているところに、私は偶然通りかかった。


「わざわざ連れて行ってまでくれたフロルちゃんのこと、あのときは神様に見えてたんだよ」

「……お察しのことと思いますが、私はただ目的地に向かう道すがらだったんですよ。そのついでで案内して、ファン仲間だと思われて……そのとき連絡先を交換してくれたのは、ルフェ先輩の勇気です」

「でも、その話をハルカねえにしてくれたのもフロルちゃんでしょ?」

「したけどただの雑談だよ」


 私は裏方スタッフとして動く最中についでで案内をしただけで、連絡先を交換したのはルフェ先輩からだった。それがなければその直後、ハルカ姉さんに食いつかれたときも話をつけられなかったし、これはルフェ先輩が自分で掴んだチャンスだ。

 スカウトを決めたのはハルカ姉さんだし、私がそれ以外にしたことといえば「声がよくて話も面白い人と会った」という控え室でのただの世間話だ。


〈それが一番でかくね???〉

〈ルフェはフロルがいないとライバーになってなかった把握〉

〈知ってるかフロル、自分だけじゃ成立してなかったことでも自分がいなければ成立してなかったのは変わらないんだぞ〉


「フロルちゃんは何より、ハルカ姉が『フロルちゃんが言うなら本当に面白いんだろうな』って思った事実を正しく認識すべきだと思うよ」

「フロルちゃんが声をかけてくれたから、わたしはここで居場所も仲間もぜんぶ手に入れたの。フロルちゃんが韜晦しがちなのはわかってるけど、恩返しくらいしていいよね?」


 ああ、だめだ。私、こういうのには弱い。なるべく驕らないように振る舞っているつもりだけど、それが自己評価の齟齬に繋がっている現象がこの一ヶ月は多すぎる。

 それに、人として好きな相手にこうまで言われてもまだつまらない自己軽視を続けられるほど、私の自己肯定感も捨てたものではないらしい。あんまり調子に乗りたくはないんだけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ