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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト2:四期生の絆を見せつけろ
43/142

#43【#新生イミアリ】私達的・イミアリVer1.0の完成【ImitateAlice/電脳ファンタジア】

 拝啓、親愛なる我が妹へ。私は今、一度は諦めた夢の一端の入り口に───私自身の意思はほぼ介在していない状態で立たされています。


「イミアリの『主人公が迷い込んだ図書館で見かけて心配して声をかけたら実はずっと年上で、主人公が探し求めていたものへの道筋をそっと示す』方、エティア・アレクサンドレイアです」

「イミアリの『子供っぽく見える留学生へ学校のことを教えるときについ子供扱いをしたら急に大人びた仕草になって逆に甘やかす』方、ルフェ・ガトーだよー」

「……えっと、イミアリの『行方不明の子供の捜索クエストを受けて見つけた操作キャラを誘い込みながら裸足で逃げ回って、より重要なフラグイベントに辿り着かせた後そのまま忽然と消える』方、月雪フロルです」

「おお、いいねフロルちゃん!」


 一昨日の緊急会議を経て、昨日にはいよいよ正式にImitateAliceへの加入リリースが出た。これでもう後戻りはできないんだけど、ユニットメンバーとなった二人は歓喜ですらなく安堵の様子。このあたりで私はようやく、イミアリ自体がそもそも私の存在が前提で組まれていたことを察した。

 なにしろこのユニットはまだとても新しい。どのくらいかというと、結成が私のデビューが決まったのとほぼ同時なほど。とはいえそれも無理からぬ話だ、ルフェ先輩もこれでまだデビュー半年ちょっとなのだから。

 今日の配信タイトルにも漏れ出ているね。私を含めてようやくバージョン1.0、つまり二人のイミアリは準備期間のようなものだったらしい。オリジナル曲に至ってはまだ一曲も出ていないほどだ。


「加入初回の挨拶がいきなりこんな難しいやつなのなんで?」

「フロルちゃんの実力を喧伝したかったから」

「というわけで。新メンバーの月雪フロルちゃんです!」

「新メンバーというか、これが初期メンバーみたいなものというか……やっとプレリリースを終われますね!」


 まあ、そういうことだ。今日はイミアリの三人でのお披露目を兼ねたコラボである。どんどん活動幅が広がっていく。

 ちなみに電ファンではハウス組どうしのコラボは割と雑に理由がなくともオフコラボになることがある。特に今回のような、各々に機材が必要ではない雑談回は。

 そして冒頭のは、この二人が悪ふざけで続けていた挨拶の形式。それ自体はよくある、「○○の△△な方」だ。


 ……なんだけど、イミアリの場合はそこに固定の要素が入る。それが「偽ロリ的、あるいはミステリアスな要素」だ。






 まずはImitateAliceの売りと性質について説明しなければならないだろう。

 Imitate(模造品の)Alice(少女)、というように、イミアリはただの声が可愛いロリ系ライバーユニットではない。その要素のどこかしらが偽物、本質的に幼いだけではない必要がある。

 元はまだマギにゃのいなかった電ファンの中ではロリ担当扱いだった二人が合同して、「私たちはガチじゃないんだ」と主張していたのが馴れ初めということになる。そのままの流れで公式にユニットを組むところまでいったのだ。


 偽ロリというのはまさしくその要素で、いわばイミアリのアイデンティティだ。エティア先輩は性格や立ち回り、ルフェ先輩は所作と雰囲気がそれぞれアピールポイントらしい。

 では私はというと。


〈フロルちゃんの偽ロリ要素ってなんですか?〉


「まず私にロリ要素ある?」

「え、あるけど……」

「フロルちゃんはやっぱり面倒見というか、知性と実行力だよね。正直それ以外ほぼロリだよ」

「え?」

「カラオケのときに馬脚を露わしてましたけど、フロルちゃんは背伸びしたがりのおねえちゃんですからねー」

「自覚ないかもだけど、仕草も喋り調子もだいぶ幼いよフロルちゃん」


 それ以外の全てに異論があるけど、理性的だとは認められているらしい。それ以外の全てに異論があるけど。

 この言い草だと、私はまるでただの大人びた幼女だ。同期にイミアリ入りしないほどガチなマギにゃがいる中、私よりも露骨に幼女らしさのある二人からこの言い草。誠に遺憾である。


「そう言ってるんだよ」

「ここまで自覚ないとほんと諧謔ですよねえ。この子ママに似顔絵描いてもらっても自分がロリ枠だって気付かなかったんですよ」

「身長149cmもわたしたちとマギアちゃんの次に低いのにね。パンドラ先輩よりちっちゃい自覚ある?」

「偽ロリユニットに入ったはずなのにロリ認定が止まらない……」


〈マジで自覚なかったんだな……〉

〈エゴサ中も本気で首傾げてスルーしてそう〉

〈ルフェのワードセンスが好調だな今日〉

〈コメントでは他に言うこと多すぎて埋もれてたもんな……ごめんな……〉

〈*sper:擬態中はもっと大人っぽくできてるのにね。不思議〉


 ……私、そこまで子供っぽい? たまに言われるな、とは思っていたけど、こんなに満場一致になるほどとは思ってなかったよ。

 背丈は……まあそうだけど、別に言われるほどじゃ……いや、でもそう思っちゃうの、もしかしてさらに小柄な朱音や双葉がいるせいなのかな。私は律としてもフロルの公称通り149cm、朱音は確か143cmで双葉は147cmだ。もっとも朱音には子供っぽさなんてなくて、小柄な大人といった佇まいだけど。

 似顔絵、つまり立ち絵は確かに幼げではあったけど、まだ少女の部類だと思っていた。え、これバイアスだったりするの?


「あ、今の表情。そういう顔できちゃうあたりだよフロルちゃん」

「すごく無垢というか、いじらしい顔で首を傾げますよねぇ」

「ママにまで言われるとそんな気がしてくるというか……私、そんなのでローラ先輩に餌をやり続けてたんだ、というか……」

「周りはけっこうハラハラしてたんだよー」

「いやまあそれはルフェちゃんもだけど」


 ……どう受け取ればいいんだろう、これ。私としてはまだあんまり認めたくないんだけど、たぶん今考えるべきは自分のキャラクターをどう活かすべきかなんだよね。かといってマギにゃ側じゃなくてイミアリに組み込まれたということも受け取らなきゃいけないし。

 三秒ほどの空白。その間、私はどうしてもモニターに映る(フロル)を見てしまって。


「こうやって聞いてから自分のこと見てると、確かにそう見えてきた」

「よかったねえフロルちゃん、一歩成長だよ」

「寝起きドッキリであんな怖がり方をする子が、ここまでに一ヶ月かかるとは思ってなかったけどね」


〈ついにか……〉

〈イミアリっぽくなってきたな〉

〈やっとロリがロリの自覚を持った〉


 不覚にもね、思ってしまったんだ。こいつだいぶ幼げだなって。

 鏡を見てもこれまでそう思ったことはなかったんだけど、2Dモデルだと違った。顔のパーツで印象って変わるものだ。


 ……で、合ってるよね? 今のやり取りの直後なせいで、なんだか不安になってきた。もしかすると外から見れば律としての顔も幼げだったりするのかもしれない。






 まあそれはいいとして。


「やらなきゃいけないことをやりましょう」

「というわけで、まずはこれ!」


 配信主、枠を取っているエティア先輩の操作で、三人のモデルとコメント欄だけだった画面が切り替わる。最初に映ったのは、三人揃っての一枚絵だ。

 手前に先輩ふたり、中央奥に私。いずれも普段よりも少しだけ幼げに描かれた上で、一方で子供っぽくない表情をしている。イミアリの特徴を捉えた絵なんだけど……画風には見覚えがある。


「キービジュが更新されました!」

「……早くないです?」

「まあママならありえる……」


〈うおおおおお〉

〈いい表情〉

〈こんな引き出しもあるのか〉

〈sperの筆速すぎない?〉

〈*sper:偽ロリ描くの楽しかったです〉


 そう、sper(ママ)の絵だ。ママは信じられないほど速筆で、たぶんこのクオリティの三人絵でも今月に入ってからの注文で優先してもらわなくても納品が間に合う。

 あとこれ、たぶんこの間の作業雑談のときに進めていたやつだ。あの時は私単体のレイヤーだったけど、そもそも私の部分は知っている絵だった。


「そしてこれ、ちょっと時間かかるけどグッズになります!」

「これまで頑なにグッズを出さなかったイミアリが!?」

「こういう本格的な活動はフロルちゃんが入ってからって決めてたからね」

「フロルちゃん、反応が素になっちゃってますよぉ」

「無理もないよ。フロルちゃんはイミアリそのものの発起人だから、思い入れはあったんじゃない?」

「バレてたの!?」


〈!?〉

〈はっ!?!?〉

〈今なんて〉

〈マジ?〉

〈フロル、お前だったのか……〉

〈ありがとうフロル〉


 うん、実はそうで。エティア先輩とルフェ先輩がお互いにシンパシーを抱いていることはわかっていたから、共通項がしっかりしてきたあたりで私が上に掛け合ったのだ。ちょうど箱として音楽活動にも目をつけていたところで、ユニットは必要だったようだからあっさり通った。

 夢エティア事件はその直後のことだから、雪の最後から二番目のイタズラだった。本人たちにはバレないように、こっそり動いたはずだったんだけど……。


「ハルカ姉を夢エティアの件でちょっと揺すったらね」

「ハルカ姉さん……どうして」

「遅かれ早かれフロルちゃんも入れるつもりだからって言ってたよ」

「Oh……」

「フロルちゃん、自分で仕掛けたユニットに自分がぶち込まれることが最初から決まってた気分はどうですかぁ」

「私もうハルカ姉さんのことなんて信じない……」


〈草〉

〈それは草〉

〈ハル姉さすがっす〉

〈かわいそうに〉

〈フロル、お前本当に遊ぶ側でいられてるか?〉


 いよいよもってまずい。大半のライバー、特に同期は全員で遊べている自信があるけど、よりにもよってユニットを組む二人と電ファンの盟主にだけはどんどん勝てる気がしなくなってきている。

 私、こんなのでイミアリでやっていけるのかな。さすがに不安になってきた。

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