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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト1:コイツ本当に新人か?

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#26【#電ファン新人面接】月雪フロルの素顔に迫る編【明日ハルカ / 電脳ファンタジア】

 私は今、ハルカ姉さんの膝の上にいた。


「というわけで、新人面接の四期生編も今回でラスト! 月雪フロルちゃんに来てもらいましたー!」


〈わー!!〉

〈来たわね〉

〈ついにフロルの番か〉

〈前々から仲良いって聞いてて気になってたんだ〉

〈なんか配置違くね?〉

〈なんで縦にいるんだ〉


 電ファン新人面接、というのは恒例の人気企画で、デビュー直後の新人は誰もが通るものだ。先輩がマンツーマンで担当して、デビューから少し経ったタイミングで対談形式のコラボをするのが通例だ。PROGRESSもやるから、これを経験していないライバーはいない。

 本来ならきっかり一世代前のまだ面談役のほうをやっていないライバー、つまり私たちの担当は三期生になるところなんだけど、私の飛び入りがあったことで四期生は六人いる。当然あぶれるのは私になって、では誰がやるかという話になった。

 一期生を担当した0期生のうち一人しか担当していなかったハルカ姉さんが、もともと私と懇意だったということもあってちょっとした特例として成立したのだ。……五期生のときどうするんだろうね、このままなら今度は逆の立場でまた私が溢れるけど。


「はーい、コンロンカー! 四期生の月雪フロルです、けど……あの、ひとついいかなハルカ姉さん」

「うん。なに?」

「なんで私だけオフな上に、当たり前のように膝に座らされてるの?」

「私が愛でるためだよ」

「職権乱用では」


〈そういうこと?〉

〈フロルのこと好きすぎだろハルカ姉〉

〈本当に余ったからなんですか?〉

〈そもそもフロルを追加枠に捩じ込んだのがハルカ姉定期〉

〈こいつフロルちゃんにハルカ姉どころか姉さんって呼ばせてるからな〉


 ばっちり膝に乗せられているし、それどころかしっかり抱きしめられている。逃げる気もないけど、逃げようとしても逃げられないほどだ。長身のハルカ姉さんとはある程度身長差があるとはいえ……ハルカ姉さんの顔、キャプチャカメラにちゃんと映ってるかな。

 この第二次Vtuber戦国時代たる2029年、ハルカ姉さんも押しも押されもせぬトップVtuberになるのにこれというキャラがなかったわけではない。むしろわかりやすい属性が武器にされた方で、彼女の場合それは「お姉ちゃん」だった。


 もちろんキャラとしてなんだけど、これが徹底していたのだ。ファンネームは弟くんと妹ちゃん、ファンにお願いしている呼称はハルカ姉またはお姉ちゃん。それどころかプロフィールからして「人を弟妹として可愛がるのが好きで『全人類のお姉ちゃん計画』を掲げるが、一人っ子である」だ。

 そんな電ファンの誰よりも強烈な個性を振りかざすハルカ姉さんだけど、なんとこれはほぼ素だ。本当に人を弟妹扱いするのが好きだし、本当に一人っ子である。そんな彼女だけどイトコには年上しかいなかったものだから、一番近い本当にそうした扱いができた相手というのがハトコである私だったというわけ。

 そうしてみると甘やかしたくなる気持ちは理解できるけど……その分、ハルカ姉さんから私への評価は全て半額シールを貼った上で考えないといけない。


「まあそれはいいとしてね」

「いいとしてないのはハルカ姉さんのほうだよね? ……えー、みなさん。私は今、髪を吸われるとうなじよりくすぐったいという知見を得ました」

「うなじを嗅がせたのか……私以外の奴に……」

「あなたたちが合格させたちよりんだよ。というかなにその独占欲、だいぶアレなこと言ってる自覚ある?」

「フロルちゃんは私の最初の妹なんだよ? そんなのもう私のものでしょ」

「はっ……あんまりな言い草に割と絶句したよ今。というか森の中まで魔物娘を探しに来る前に一人も得られなかったの、デビュー前のハルカ姉さん弱すぎない?」


〈あんまりな会話で草〉

〈味噌汁噴いた、訴訟〉

〈フロルのうなじはハルカ姉のものじゃねえよ〉

〈まずフロルを嗅ぐもの扱いするな〉

〈フロルちゃんなんで冷静なの〉

〈ここ三日で同僚二人に嗅がれてる〉

〈最初の妹発言マジだったんだ〉

〈むしろよくフロルは妹になってあげたな〉


 危ない言い方するのやめてよハルカ姉さん。あなたの活動開始時点では私はまだ森の中のはずなんだよ。おかげであなた、初めての妹を得るために魔の森に入ってくる鮮烈ながら情けない人になってるよ?

 つい一昨日ちよりんの匂いフェチの毒牙にかかったばかりなのに、こんなに早くもう一度嗅がれると思っていなかった。座った状態で後ろから抱かれたまま、という姿勢まで一致しているのはもはや怖い。オフコラボ時の私の扱いが定まってしまいそうだ、私は確かに小柄ではあるけど……。






 今度こそ、それはいいとして。


「フロルちゃんはかなり順調だよね。ライバーの初動としてできることはだいたいちゃんとできてるんじゃない?」

「そうだねー、ひととおりは。全部周りのおかげ」

「フロルちゃんがそうさせてるんだよ」

「私は温室でひたすらじっくり育てられたから、あれだけやれば私じゃなくてもこうなるんじゃないかな」


〈は?〉

〈は???〉

〈こいつ……自覚してねえ!〉

〈アルラウネには人間みんなこんな感じだと思われてるの心外だな〉

〈人間基準だと相当ハジケてますよ〉


「『知性体を温室で育てると自覚が強まりすぎるのか』……誰が家畜化されたアルラウネですか」

「そこまでは言ってないけどそうだね」


 まあ最近丸くなったなとは思うけど。そういう匠の磨き方をされただけだから、誰でも真球になると思うんだけどね。私が本当に宝石の原石だったとはそこまで思っていない。

 ところがハルカ姉さんはやっぱりそう思わないようだった。


「まあ、フロルちゃんはそういうとこあるからね。……そうだな、フロルちゃんはままならないなと思ってることとかある?」

「ううん、特には。電ファンはサポート手厚いし、特に私は先輩たちをずっと見てきたもん。今更不自由なんてないよ」

「そっか。フロルちゃんが教えてるおかげなのかな、他の四期生もすごくスムーズに動けてるみたいだもんね」


 のらりくらりと流されてしまって、次々と会話が続く。これは新人面接そのものの傾向で、基本的にはデビュー後の新生活への慣れや暮らし方がメインテーマになりがちだ。

 とはいえ、そのあたりは私は例外的というか、ズルいところがある。ライバーとしての実活動はともかく、生活や活動に際しての知識面では私は一期生並みといえるし。


「四期生は交流や情報伝達が本当にしっかりしてる、って言ってる子がすごく多いんだよね」

「そうなの。五人とも本当にすごくて、しっかりしてて……だいたいのことは一回話したら覚えるから、思ってた以上にスムーズで」

「電ファンはどの代もその節はあるんだけど、四期生は特にお互いを褒めるよね。コミュニケーションがよく取られてる」

「ああ……かなり高頻度で、配信外で作業通話してるのがあるかも。もうたまにならこれ自体を垂れ流していいんじゃないかってくらい」

「そこまで……それは仲いいね」


〈同期褒めたすかる〉

〈フロルは本気でそう思って言ってるのがいい〉

〈四期生もう表立って褒めてないラインない説〉

〈頼むそれ〉

〈気になる〜〉

〈問題ない内容のだけでいいし配信でも動画でもいいから欲しいです〉


 これは私も不思議なくらいだ。常識人なんて誰一人としていないくらいなのに、話はかなり高いレベルで成立するし意思疎通も共有もスムーズだ。言うなれば全員がまともな振りが上手い。

 これは電ファン自体の性質もあるけどね。強烈なキャラとその気になれば共同生活ができるだけの人格を兼ね備えていないと採用されない。そして0期生の人望と事務所規模もあってそれが集まって追いつかないほど応募がある。

 偶然ではあったけど、私は特別枠の六人目でむしろよかったと思っているくらいなのだ。オーディション生の機会を奪わずに済むから。




「さてと、次は普段ならライバーになった経緯や志望動機を聞くんだけど」

「私の場合、それに関わる部分の話が動画で出ちゃってるね」

「そうだね。……最初に私のスカウトで、改めて考えつつ育成する期間として置いてから約束によって土壇場で追加枠に」


 そう、そんな経緯があった。まだ二ヶ月も経っていないほど最近の話だ。ネタバラシと成否を問うシーンはばっちり動画として公開されている。

 基本的にはあれが全てだ。なし崩し的だったし、結局は私の意思で何よりもデビューしたい、という形にならなかったのは申し訳ないところだけど。


「だから代わりにこれを聞こうかな。……ライバーになって、よかった?」

「……うん、それは間違いなくよかった。私を見てくれる人も感じられて、役に立っているんだって感覚もあって」


〈よかったなあ〉

〈動画のときあんな不安げだったフロルがこんなに〉

〈あの動画見てからだと感慨深いな〉


 だけど。……明日ハルカは甘い存在ではなくて。

 できれば触れて欲しくなかったところを、真正面から見据えてきた。


「じゃあ───自信はついた?」

「…………」

「そっか、まだか。……あとは自覚するだけなんだけどね」


〈え?〉

〈おっと?〉

〈えっ自信ないの〉

〈アレで????〉

〈なんでや〉


 できればそこには、触れないでほしかったんだけどな。上手く煙に巻けているつもりだったから。

 だけど、そうだ。私はまだ、胸を張って自信を見せつけるには足りていない。ハルカ姉さんは気付いているようだった。

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