#15【#フロル10万人】登録者10万人&収益化記念! 試される凸待ち!【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
「コンロンカー! 電脳ファンタジア四期生、幸せ者アルラウネの月雪フロルです!」
〈コンロンカー!〉
〈コンロンカー!〉
〈10万人おめでとう!〉
〈ついにこの時が〉
〈収益化おめ!〉
〈記念すべき一発目はもらった!;10000〉
10月25日、木曜日。昨日は数分ほど尺があるファンボードパーティのオープニング台本に目を通しつつ雑務を済ませて、今日はいつの間にかクラスに三人ほどいた民草をそれとなく避けながら受験対策主体の授業をこなしてきた。
どこに配信のネタがあるかわからないから、必要がないからと適当に流す人も多いそれも真面目にやっている。ただ目指す上というのも国立くらいしかないから三年生の共通テスト受験率は二割ないらしいし、クラス2位の成績を持ちながら美大推薦のことりもいるからこの学校は少なくとも普通の感覚ではないけど。
「わわ、さっそくありがとうございます! 入間さん、ですね。まさしくこれが一発目です。……いざこうして受け取ると恐縮しちゃうな、金銭感覚狂わないようにしないと……。スパコメは少なくとも後で改めて読むので安心してくださいね」
さて、今回は凸待ちだ。ボイスチャットの部屋に待ち構えて誰かが話しに来てくれるのを待つ、不特定多数とのコラボに近い企画。成功すれば賑やかで特別な回になるけど、そもそも来てくれるかどうかの段階で人望が試される上に時には凸待ち0人という惨い様式美まで存在する諸刃の剣だ。
バーチャルの壁を隔てているからこそありのままの生き様をコンテンツにできるVtuberにとっては、大失敗や芸を含み節目によく行う伝統芸能のひとつである。
そしてスパコメ、正式名称スーパーコメントというのは、YeahTubeの配信に存在する投げ銭の機能のこと。収益化をオンにすると送ることができて、お金を払うことで額に見合った色で目立つコメントをすることができる。亜種として言葉ではなく用意されたイラストを送るスーパースタンプも存在する。
リスナーにとっては読まれやすいコメントでありお布施として、配信者にとっては収入源のひとつでありコミュニケーションツールとして扱われている。私もこの配信から有効化したから、正真正銘さっきの豪快すぎる人が最初だ。私も最初はもっと読ませにくるものがスパコメだと思っていたんだけど……軽率にぶん投げてくる文化を実感することとなった。それでも少なくとも、投げてくれた人の名前はしばらく忘れられそうにない。
〈ファンクラブやりますか?〉
〈ファンクラ欲しい〉
〈クラブできたら入るぞ;500〉
「ファンクラブはもうちょっとだけ待っててください。来月か再来月か……出せるコンテンツに目処がついたら、先輩たちにやり方聞きながら作るつもりなので」
ファンクラブはいわゆるサブスク、月額制の有料コンテンツ機能だ。ライバーを含む多くのYeahTuberが開設していて、メンバーはチャンネル主が用意したコメント用スタンプを使えたり、メンバー限定の配信や動画を見られたりする。
とはいえこれはまだ作らない。勿体ぶっているのではなく、ちゃんと対価ができてからでないと形だけになってしまうから。特有のネタや文言でスタンプを作ったりだとか、限定コンテンツの拡充が先に必要になる。まだデビューから2週間弱、手が回らないものも多いのだ。
収益化の手段は主にこの二つと広告収入。私たちとしてはありがたいけど、ご利用は無理なく計画的に。
企業ライバーの収入はそれだけではないからね。グッズ売上や最近増えつつあるテレビ出演、案件やコラボにイベントの入場料などなど。特に大手の企業ライバーはスパコメ額をランキングだとかで取り沙汰されるけど、スパコメの少ないライバーが困るなんてことはない。
「さて、さっそく始めていきましょうか。泣くか笑うか、いざ尋常に勝負!」
〈がんばれー〉
〈フロルちゃんなら大丈夫!〉
〈たくさん来てくれますように;777〉
とはいえ、私はまだ他の事務所や個人勢、非Vtuberなんかとの接点はない。来客は同僚に限られるだろうし、電ファンライバー全体のdisconectサーバーでやるつもりだ。
電ファンライバー全員分の立ち絵とアイコンは用意してある。会話デッキも用意してある。万全を期してボイスチャットルームに接続した。
事件が起こったのはその五秒後だった。
「……うん?」
〈きた!〉
〈0人回避だ〉
〈マギアちゃん? それともエティア?〉
〈え?〉
〈何この音〉
〈なんかめちゃくちゃ来てない?〉
〈SEやべーことになってる〉
〈wwwwwww〉
〈何人来たんだ!?〉
ボイスチャットルームは自分または誰かが入ってきたときにSEが鳴るようになっているんだけど……その音が凄まじい数、重なりながら発生した。
さすがに混乱しながら画面を見ると……なにこれ。
「え、何人いるのこれ……」
『うわ、一番手狙いに来たのに!』『真っ先に来たぜフロル!』『わたしはやくそくした……』『こういうのは先輩に譲るのじゃ!』『同期が先だよやはり』『苦楽を共にしたシェアハウス組の方が!』『コラボ済ですけど!』『デビューのきっかけを作ったのはわたしだよ』『わたくしのサブマネージャーです』『これから仲良くなるんですー!』『昨日あんな秘密を共有した仲で』
「う、うるさーいっ!! さすがに騒がしいよっ、人数わかってる皆!?」
〈草〉
〈草〉
〈草〉
〈草〉
〈なんだこれ〉
〈ライバー全員集合してない?〉
〈凸待ち大渋滞!?〉
〈フロル大人気じゃん;1500〉
〈さすがに示し合わせたろこれ……〉
〈こんな凸待ち見たことない!〉
〈これはひどい;500〉
〈これぞ電ファンクオリティ〉
〈人望激アツでよかったね;400〉
〈なんか最後ちよりん凄いこと言ってなかった?〉
おびただしい人数のライバーがほとんど同時に入ってきて、しかもそのまま言い合い始めた。凸一番手を取り合っているらしい。…………え、さすがにコントだよねこれ? 私は聞いてないんだけど……。
えっと……数えてみると24人いた。電ファンは0期生から四期生までで私を含めて合計24人、PROGRESSが8人いるから、なんと四分の三が来ている。そんなことある?
「どうすればいいのこれ。これいち新人の配信だよ?」
『うーん……確かに順番にやるしかないよね。だけどこれだけの人数だと順番付けは大変で……』
凸待ちであるからには、精々一人か二人ごとに相手することしかできない。この人たちが本当に私と話したいのなら、ちゃんと一人ずつ来てくれないと困るのだ。
だけど24人だ。下手に全員でじゃんけんなんてしようものなら決まる前に配信が終わるし、どう決めても時間がかかる。かといって助け舟は思いつかなかったんだけど、再び十数秒騒がしくなったところでゲーム脳で勝負事好きでギャンブラーと三拍子揃ったデュエ兄が言い出した。
『なあ、ぴったり24人いるんだよな? それならメリカで決めないか?』
「えっ?」
『まず一レースして、上位と下位に分かれてもう一レースすれば順位が決まるだろ?』
「あの」
『いい案ですね。それが一番早く決まりそうです』
『じゃあ早速やってこよ!』
『グループ分けのルーレットアプリ用意しますね』
なんか前代未聞の勝負をしようとしている。私を発端に、私抜きで。まさかとは思うけど、この人たち本当にコントでやってる?
『じゃあフロルちゃん、ちょっと待っててね!』
「えっあの、なに人の配信の横で面白いことしようとしてるの? というかルーレットアプリあるならそれで直接決めればいいんじゃ……って、ちょっとー! せめてそっちはそっちで配信しろー!!」
〈草〉
〈草〉
〈草;500〉
〈なんだこれ……なんだこれ〉
〈【悲報】本日の主役、蚊帳の外〉
〈さすが電ファンですね!;120〉
〈置いてかれちゃった〉
〈嵐のようだったぜ……〉
〈最後の対応、配信しろで合ってた?〉
〈フロルもフロルでエンタメ精神染み付いちゃってるじゃん〉
〈三窓の時間かー〉
…………そして彼らは本当にレースをしに行った。私を置いて。
あれ、もしかして実質凸待ち0人編始まった?
かと思いきや、捨てる神あれば拾う神あり。次に聞こえたのはテキストチャットの通知音だった。
「はあ……とりあえず、すぐ来なかったときにするつもりだった会話デッキの話でも……ん? なんだろ、メンション……あ、別鯖だ」
〈ドンマイ!〉
〈振り回されるフロルも可愛いんだよな〉
〈一粒で二度美味しい〉
〈やられる覚悟もあるみたいなこと言ってたし〉
〈そんなこともあるさ〉
〈なにか来た?〉
〈別鯖?〉
〈フロルって箱外と絡みあったっけ〉
〈せれながコメントしに来たくらい〉
〈一方的に言及ならめちゃくちゃされてるけど〉
〈なんかあったっけ……〉
うん、特にないはず。これから少しずつ広げていきたいとは思っているけど、今のところは何も。箱内コラボですら二度しかしていない段階で考えることでもない。
だから参加しているサーバーは電ファン関連だけなんだけど……通知バッジを辿って見に行ってわかった。そうだ、一人だけいた。この状況で声をかけてくれてもおかしくなかった人が。
私は一人きりになったボイスチャットルームを退出した。レースを終えた人たちが困るかもしれないけど、私はもっと困ったから許してくれるはずだ。
そして神の待つサーバーへ。既に待機していたルームへ入って、練習しておいた文言を。何食わぬ顔なくらいがちょうどいいだろう。
「わ、一人目が来てくれました! さっそく話していきましょう!」
『……お疲れ様。大変だったね』
「いやほんと。……では、お名前をどうぞ」
〈マジ?〉
〈抜け駆け?〉
〈急展開じゃん〉
〈何が……〉
〈聞いたことない声だ〉
〈配信者?〉
〈いい声してるけど知らない〉
苦笑が返ってきた。無理もない、私も大概な展開だと思うし白々しいと思う。だけど仕方ないじゃない、これ私は悪くないよ。
ともかく、来てくれたならこんなにありがたいことはない。決着がつくまでの繋ぎと言わず、今日一番のサプライズゲストとして迎え入れることにした。
『うん。……皆さん、はじめまして。sperといいます、イラストレーターをしています』
「というわけで、ママが来てくれました!」
〈!?〉
〈マジ!?〉
〈ママ来ちゃった〉
〈完全初登場では?〉
〈sper先生が何かに出てくるのは初めてのはず〉
〈うおおおおおお!!〉
〈sperママ女の人だったの!?〉
〈声からしてかなり若いよね〉
〈私生活ついっとすらしてなかったあのsper先生が……!〉
〈面白くなってきた!〉




