#148【セイクリッド・サーガ】いよいよ中盤!ハルヴを守るぞ!【四ツ谷幽子/電脳ファンタジア】
「うーん……今日はここまで、かなぁ……」
〈マジかよ……〉
〈凄まじい光景だ〉
〈こういうものだとわかってはいたけど、改めて見ると……〉
〈フロルが……実力負けしている……!?〉
この間、私はいよいよドラグメントエイジのメインストーリーを難易度EXTREMEでクリアした。それ自体も配信者がやればトレンド入りくらいはしてしまうくらいには目立つ所業だったけど、とはいえここまでは前座だ。
今日からはいよいよ本題、ゲーム界隈全体でも有数の無理ゲーのひとつと名高い『再戦ノアEXTREME』を始めていた。私は以前『ダークリターンズ』の大ボス戦に無強化で突っ込んだけど、あんなものはコレと比べればちゃちとすらいえるほどだ。
〈いやマジか ここまでやれるのか〉
〈噂には聞いてたけど凄いなこの子〉
〈初見です! プロの方だったんですね!〉
〈これそのうちできそうだなぁ〉
「ドラエイ界隈からの皆さんもご視聴ありがとうございました。まあもともと初日にいきなりできるとは思ってなかったし、たくさん来てくださった初見の方にも最低限の面目くらいは保てたかなと」
だからもちろんというべきか、今日は明らかに同接が多かった。実のところドラエイを含む九津堂タイトル界隈はかなり盛り上がりがあって、そちらを専門にしてコミュニティを作っているインフルエンサーも何人もいる。そういう人たちにも注目してもらえたようで、かなり流入があったらしい。
あと、経緯の話もそのインフルエンサーさんがしたようで、きっかけになった“みなみのおさななじみ”についても何者なのかと話が回っていた。まあ、朱音こと“ルヴィア”はまだチャンネル始動すらしていないから後の話だ。
再戦ノアEXTREME。ドラグメントエイジのラスボスである『ノア=リントヴルム』の、クリア後ストーリーで発生する強化再戦を最高難易度で攻略する挑戦だ。
言ってしまえばそれだけだし、ちゃんと難易度EXTREMEの報酬も用意されているから開発も意図的に用意しているものだ。しかしその難易度は異常そのもので、「人間卒業試験」とすら呼ばれている。スキン的要素である報酬は、それを実際に見せるだけの動画が数百万再生されるほど希少視されているほど。
ひとまず一度挑戦してみた上での私の感想は……話に聞いていた通り、というものだった。これは確かに、並大抵のプレイヤーでは無理だろう。恐ろしいことに安全地帯もなければ内容固定でもないから、高い操作精度と集中力とアドリブ力がなければスタートラインにも立てない。
「とりあえず、ひとつめの弾幕は安定してきたので……この調子で固めていって、今年度中くらいにはどうにか決めたいですね。来月には感謝祭あるから、ちょっと時間取りづらい時期が続くけど……」
〈初見からものの二時間でエンブレ安定してるのがおかしいって話は……〉
〈こういう子なんです〉
〈伊達に38分でダクリタ仕留めてない〉
〈伊達に20時間弱で宙渡り合成縛り踏破してない〉
〈あっ人外の方でしたか〉
進捗としては、順調な部類……なのかな。全部で七つある技のうち、《エンシェントブレス》のクリアは安定してきている。《ライトニングバイト》の突破率が半々くらいで、最高到達点は《メーティスライブラリ》の前半あたりだ。
再戦ノアは全ての技が強化されているけど、特に後半は強化が著しい。それに差し掛かるよっつめで跳ね返されているあたり、まだ先は長そうだ。いくら人外呼ばわりされても、そのくらいなのは仕方ない。
「まだ追加技二つは見てすらないですからね。後半どれだけ沼るかわかったものじゃないので、とりあえず前半三つは早めにモノにしたいところです」
〈なんかまっとうに攻略詰めていくようなこと言ってる〉
〈なんでコレ相手にそんな平常心で攻略を狙えるん……怖……〉
〈その前半三つすらSTGガチ勢が泣いて撤退するやつなんですよ!〉
〈三時間でメーティス見てることにドン引きしてるんすよ〉
九津堂クラスタの皆さんに怯えられてしまっている。私は彼らほどではないにせよ九津堂を気に入っているゲーマーの一人として、できれば彼らとも仲良くしたいんだけど。
……まあ、こういうものではある。再戦ノアEXTREMEというのはそもそも、まともにクリアを企図することすらできないとされている代物なのだ。今確認したら配信告知ついっとすらファンファンの外まで伝わって軽くバズっていたくらいには。
「さて、じゃあこの枠はスパコメ読ませていただいてから終わりにしますね。その後は……同期のゆーこさんがセイサガやってるみたいだから、見に行こうかな。りついっとしとこ」
〈おつー〉
〈いやよく頑張った〉
〈すげえわこの子〉
〈セイサガとな〉
〈つまり愉悦しろと?〉
〈先行っておこうかな〉
〈導線助かる〉
感謝祭まで一ヶ月を切っている今、そっちの練習もしたいところではあるんだけど……生憎、「やりすぎだしもう充分」と言われて練習時間に制限を設けられてしまっている。私は上手くなるほどいいと思うけど、体を労るのも仕事だ。大人しく従うことにしていた。
となれば、こまごまとした作業のお供はやっぱり同僚の配信だよね。ちょうどよく同期が同じ九津堂タイトルをやっているようだったから、おまけ程度に導線を張りながら向かうことにした。とはいえ当然、感謝のスパコメ読みは焦らずに。
「というわけで、お疲れ様でしたー。先にゆーこさんのとこ行く方はまた後で、この後もお付き合いいただける方はこのままで。
じゃあ最初、『K』さん───え、『向こう見に行きたいからスパコメ読みは後がいい』……?」
私はスパコメ読みついでにその内容に関連する会話をしたりもするから、普段からそのパートのリスナー残留率は比較的高い。ところが今回、読み始めようとした矢先にコメント欄が動いた。曰く、今はゆーこさんのセイサガ優先でスパコメは後がいいとのこと。
その合唱に今日投げてくれた人たちの大部分が参加していたから、素直にそうすることにした。こういうとき大事なのは何よりも、リスナーの体験をよくすることなのだ。
というわけで誘導URLを貼って、少し待ちつつDisconectを開いてから配信枠を切った。手元のスマホでコメント確認用にミュートで開いているYeahTubeはゆーこさんのほうに切り替えて、そのまま通話に入る。
やっているのは『セイクリッド・サーガ』、九津堂の代表作のひとつで、こちらは王道ファンタジーRPGだ。
『うわぁ……なんというか、負けフラグすごい……』
『さてはて、どうだろうねぇ』
『愉悦されてますねー……あら?』
「やあゆーこさん、来たよ!」
『うわあ愉悦勢が増えた!』
いきなり凄い言われようだけど、間違ってない。確かに私は愉悦しに来たし、ついでにリスナーを連れてきている。
先に来ていたのはエティア先輩とマリエル先輩だった。前者は愉悦勢、後者はゲーム苦手につき一緒にストーリーを楽しむつもりだろう。マリエル先輩はけっこうそれをやるのだ。私はストーリー流し見ばっかりになっててごめんね。
『んん? なんか一気に同接増えた!?』
『フロルちゃん、今日からドラエイ本番じゃなかったっけ』
「ほどほどに進んで、疲れでキレが悪くなってきたから続きは今度。九津堂ファンの初見さんがいっぱい来てくれたから、導線張ってついてきてもらったよ」
『みんな愉悦しに来たってことじゃん!』
実際、同接はたぶん倍くらいになっている。民草には私にはできないはずの愉悦が好きな人が妙に多いし、今回はそこに開発元である九津堂そのもののファンまでいるからなおさらだ。中にはセイサガ初見の民草もいるだろうけど、増えたうち大多数が愉悦勢であること想像に難くない。
こういう全体の一体型コンテンツ化によるファン層の融通は、電ファンの特色であり強みだ。箱ファンが増えて安定するし、コラボもやりやすくなるし。
その分だけ一人を追うだけではわからない話が出やすい点については、適宜対策を打つ必要があるけどね。その場ごとに私たち自身で補足をしたり、公式切り抜きを拡充したり。
『……ほどほどではなさそうですけど』
「まあ進捗は半分弱だけど、後半の方が難しいからね。ほどほどだよ」
『フロルちゃんのゲームについての話は信用できないからね』
なんと。信用されていなかった。見かけの進捗が五割近くとも実際はまだまだだということは、ドラエイのプレイ経験があるエティア先輩ならわかるだろうに。
こういうとき私に賛同してくれるのは、電ファンだとハヤテ先輩くらいだ。今回は分が悪いか。




