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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト6:後輩オーディションのウラガワ!?

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#147【片弦ルカナ】料理失敗vsライバー魂【#電ファンスナップショット】

 この間ちよりんの枠にお邪魔して「電ファンは生活」と言った私だけど、何もそれはあの場で示したような場面だけの話ではない。もちろん軽率にライバー同士の絡みを見せるのもファンの需要の満たし方のひとつなんだけど、それだけじゃないのか電ファンなのだ。改めて、好きでないともたない。

 多くの電ファンライバーにとって、いわゆる「素」に戻る時間はライバーでいる時間よりよほど短い。実態としてはキャラを演じているというよりは性格や言動はそれこそ素のままで、そのままにライバーに「なって」いる、といったところだけど。

 少なくともそれが苦にならない必要はあるし、スカウティング自体がそんな感じになっている。ウチのいうライバー適性というのは配信やエンタメの能力だけでなく、そういうところ……言ってしまえば変身願望があるかどうかも指すのだ。


 よそではそんな軽率な配信中通話はないし、もっとパーソナルなところを大事にしやすいと思う。正直、箱内にそれを息苦しそうにしている人がいないのは、奇跡に近いとすら思っている。もともと0期生が個人勢時代からそういう距離感の近すぎる人たちだったとはいえ。

 そんな電ファン、配信外業務外でもライバーとして振る舞う場というのは他にも存在する。……実際はみんな本当に常時自発的にそうなんだけど、必要な場としても。


「…………で、何が起こったの?」

「不慮の事故」

「それは見ればわかるんだけど」


 それが今のような、共用リビングにいる時間。ここではいつどのくらい撮られていて、どれだけ表に出されるか上限がないのだ。






 今更だけど、電ファンハウスには共用リビングという象徴的な空間がある。シェアハウスとして用意されている広いリビング、ロビーのような場所で、特にライバーはいつここに来てくつろいでもいい。ここでなら誰かの部屋に入らなくてもライバーが簡単に集まれる。

 そしてここは、しばしばコラボ配信や動画収録の現場にもなる。いわば日常シーン用のスタジオを兼ねているのだ。たとえば年越しのときとか、先日のレリシエルさんとみくりんとのコラボはここが舞台だった。

 ただ、そういった用法をされる頻度以上に、ファンファンにとってここの内装……というか、その3D背景は馴染み深い。その理由はここが、大半のスナップショットの舞台となっていることにある。


 その「#電ファンスナップショット」自体、特徴的で電ファンならではの仕組みといえるだろう。配信や収録前後の舞台裏、オフになっているタイミング、そしてこのリビングでの出来事。それらは電ファンではよくカメラが回っていて、公式チャンネルから動画としてファンに届けられるようになっているのだ。

 これがあるからこそ、電ファンライバー……特にハウス在住ライバーに完全なオフは少ない。何か面白いことが起これば躊躇なくスナップショットにして届ける、そんな文化こそが事務所としての電脳ファンタジアを定義づけているとすらいえるかもしれない。


 まあつまり、みんなの憩いの場であり自室ではできないことをしたり仲間と交流したりする場の共用リビングでは、常にカメラが置かれているしよく日常シーンも動画にされている。何かやらかせば当然スナップショット行きだ。

 この日はそんな共用リビングでのスナップショットの中でも、なかなかインパクトの強いことが起こっていた。その発端は……。


「つまるところ、ルカナさんの料理の腕が漫画的だったと」

「素敵な表現だね。まあ、そういうことだよ」

「うぅ……」


 そう、片弦ルカナ。大学の春休みにつき手続きついでにハウスに長期滞在することにした、私たちの新たな仲間だった。

 どうやら彼女は今日、共用リビングに併設されているキッチンで料理を作ろうとしたらしい。だけど……今目の前にあるのは、炭。そしてぐちゃぐちゃになった何か。


「…………」

「どうしたフロル、『挑戦にこそ価値がある』とか言うか?」

「……!」


 たぶん、炭のほうは火加減と焼き方を間違えた上でパニックになって放っておかれてしまった肉だろう。鶏肉の照り焼きの成れの果てのように見える。失敗した塩麹焼きでもこうはならないだろうというほど真っ黒だけど。

 もう片方は……まあ、まとめ方に失敗したオムレツか。スクランブルエッグにしてはほうれん草が入っているのと、こちらは焼き足りない。どうしてこんな難しい料理を。


 陽くんの発言に顔を上げて、こちらをきらきらした目で見てくるルカナさん。なるほど、私はこういうとき慰めてくれる優しい人だと思われているわけだ。

 まあ、間違ってはない。たとえば調理実習とか友達の家とか、ここ以外でならそうしていたと思う。だけど二人とも、私の解像度がまだまだ甘いよ。


「いや。なんで配信でやらなかったの、って思ってる」

「えっ」

「そっちか。まあ確かにな」

「えっ」

「陽くんも染まってきたねぇ」


 私は撮れ高の亡者だから、こういう面白い現象は極力配信で起こすべきだと思っている。スナップショットのおかげで動画にはなっているけど、やっぱりリアルタイムのほうが臨場感もあっていいと思うんだ。

 もともとなかったハシゴを外されて鳩に豆鉄砲といった様子のルカナさんの横で、納得してしまった陽くん。さすがに半年近くハウスに住めば染まるようだ。すっかり彼のことを気に入っているエティア先輩もご満悦である。


「自分がどのくらいできるかは自覚あったでしょ?」

「ま、まあ……。この調理器具を使ってもいいと聞いて、つい」

「そういうときはゲリラ枠だよ。電ファンでは突発配信はしても喜ばれるだけなんだから」

「それは諦められてるだけじゃないか?」


 どうやらちょうどいたスタッフも新人だったようで、咄嗟に配信を提案まではできなかったらしい。まあ仕方ないと思う、というか別にルカナさんに対しても責めているわけではない。今の喋りもまたスナップショット向けだし、次はしてくれたら面白いな、というくらいだ。

 残っていた映像を確認するに、エティア先輩と陽くんが来たのも始まってからだったらしい。料理してるね、と見に行ったら手元に見えたのがこのオムレツ(仮)だったようだ。その場面のテンポはさすが完璧だった。


「こうして近くから見ると、本当にフロルさんってツッコミではないんだなって」

「気付いたら周りにボケしかいなかっただけだよ」

「フロルがボケたらストッパーいなくなるしな」

「フロルちゃんはツッコミ能力も高いからつい」

「あなたたちだよ。二人とも別にツッコミできるのに、やってくれないんだから……」


 目の前で起こっている事象からして望み薄かもしれないけど、ルカナさんはツッコミも担ってくれないかな。こっち側、本当に人手不足だからさ。歓迎するよ、だめ?




 ……まあ、目の前に失敗した料理があるなら、ライバーとしてカメラの前でやることはひとつだ。


「……食うのかそれ」

「画面の向こうのみんなが一番気になってるのはこれの味だよ」

「体を張る判断に躊躇がなさすぎるだろ」


 ちゃんと近くに食器とカトラリーが用意されているのも答えだ。手始めにテーブルナイフとフォークを手に取ったら、エティア先輩もフォークを握った。私たちは毎月リリりを撮っている。

 まずは炭……もとい肉のほうから。気持ち小さめに二切れを用意すると、それぞれがフォークに刺される。……表面は手が止まりそうになるほど黒焦げだけど、分厚めの黒い層の内側は鶏肉だ。パサパサな気はするけど。


 まあ、感想は食べてからにしよう。いただきます。


「…………っ!?」

「ッけほ、こほっ……え、そっち???」

「よ、予想外だね……砂糖と塩のバランスを間違えるなら、卵のほうだと思ってたんだけど……」

「えっ」

「……辛いのか。照り焼きなのに」


 私もエティア先輩も、苦いという反応をするつもりだった。だけど実際に訪れたのは、かなり強い塩辛さ。強烈な違和感に襲われたときにはもう、既に手が止まっていた。

 照り焼きソースから自作したのだろう。あれは醤油2、酒2、みりん2、砂糖1で作るものなんだけど、この砂糖を塩と間違えたいかにもなミスに違いない。あの照り焼きの甘みがみりんだけでは足りず、本来は醤油と砂糖で調和するはずのところが塩分のダブルパンチになっている。

 不意を突かれたというのもあるけど、これだけ焦げているというのが予測しきれなかった最大の理由だった。焦げやすいのは砂糖だから、むしろ甘すぎるくらいなものだと思っていたのだ。


「体が拒否反応を示してる……っ」

「スタッフさん、水……」

「……逆に気になってきたな」

「いえ、無理しないでくださいね、陽さん……私は責任とらないと」


 慣れたスタッフさんなら自分から水を用意してくれるところだけど、今いるのは新人さんだから仕方ない。持ってきてくれるのを待って、なんとか流し込んだ。

 これは一切れが限界だ。なるべく画角内でフードロスは起こしたくないけど、陽くんとルカナさんが食べてもまだあと三人くらいは道連れにしないとなくならない。


「…………これは、っ」

「陽くん、いいこと教えてあげる。遅れをとって他の人の反応を見てからのほうが、きついんだよ」

「ああ。よくわかった。今度からは最初からやるよ」

「それとルカナちゃん、味見はしようね」

「はい……けほっ」




 まあ残りはこの後リビングに来る不運な仲間に任せるとして、もう片方もいこうか。

 スクランブルエッグ……もといオムレツだ。もはや切り分けるとかそういう問題ではないから、四人全員がカレースプーンで一口。


「……ぅ」

「なるほど……バター入れすぎだね……」

「ガツンとくるなこりゃ……」

「まあ、照り焼きよりはなんとか」


 凄まじいバターの風味、いや暴風味。そして若干の生っぽさときつめの脂感。口の中がバターに支配されている。

 明らかにバターを入れすぎている。もはや卵より強い。試したことがないしわからないんだけど、柔らかいまま崩れて形にならなかったのもそのせいなのかな。


「これ一人前だよね。バターどのくらい入れた?」

「えっと、切れてるやつ三個」

「多いよ! この場合は一個でいいよ……」

「答え出ちまったか……」


 オムレツ一人前はバターで作るなら大さじ1、だいたい12グラムくらいが目安だ。なんならそれより少なくても成立する。ところがそこのキッチンにある箱の中で切れているバターは一切れ10グラム、それを三切れ入れたらしい。

 必要量の2.5~3倍、バターが卵を占拠するわけだ。陽くんが頭を抱えているけど、こういう脂が強すぎるときって妙な重たさがあるんだよね。


「ルカナさん」

「は、はい」

「計量、しよっか」

「はい……」


 ルカナさんは一度の失敗と引き換えに、スナップショット一本ぶんの撮れ高と料理は確認と計量であるという大事な知見を得た。だけど、これで次回以降彼女が料理をできるようになるかはまだわからない。オムレツの型崩れはともかく、砂糖のない照り焼きを焦がしている人だし。

 あと、ライバー的にはむしろできないままのほうが美味しいかもしれない、という雑念がある。ハウス組はこれまで全員、料理ができるか最初からやらない人たちだったし。さっきの陽くんじゃないけど、やらずに逃げているライバーより偉いのは確かにそうなのだ。


 ……あ、残りはこの後集まってきたライバーたちが美味しく……はなかったけど、ちゃんといただきました。

 いや、別の意味では美味しかったか。

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― 新着の感想 ―
まぁでもオリジナリティは出してないから改善は可能なタイプのメシマズだ······ 電ファンに加入できる時点で人マズは無いから元々あんまり心配する余地はないけど
転んでもただでは起きないV根性。
反応集だけで一本動画ができるやつだ……w
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