#146【ドラグメントエイジ】ストーリー最終回~大量のゲストを添えて~【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
「…………やりづらい!」
「だろうね」
「自覚があって何よりだよ!」
〈せやろなぁ〉
〈そらそうよ〉
〈当然すぎて草〉
〈別カメラ凄まじいことになってるし〉
今日はいよいよ《ドラグメントエイジ》の下準備ことメインストーリー攻略回の最後だ。今回でエンディングまで到達して、次からは本題の再戦ノアEXTREMEに入る。
つまり気楽にやれるのは今回まで。とはいえもうさすがに軽々と突破できる難易度ではなくて、操作精度もとことん要求されているところなんだけど……今日はひとつ、普段と違うところがあった。
「確かに見てていいとは言ったけどさ。さすがにこの人数来るとは思ってなかったんだよ」
「大人気だね!」
「何かの参考になるかなと……」
「こんなお祭りなかなかないからな!」
「ルカナさん以外はせめてもっと悪びれて。まったくもう……」
〈思ってたのの三倍くらいいるもんな〉
〈何してんだこいつら……〉
〈ゲームが上手くなりたいという気概は感じる〉
〈隙を与えたフロルが悪い〉
うん、それはそう。それに楽しいから構わないし。
……最近は常にそうだった配信中の会話だけど、今日はヘッドセット越しの通話ではない。生声だ。私の周囲を六人ものライバーが取り囲んでいる。
しかも普段は私の2Dモデルにトラッキングするための一台だけのところ、今日は豪勢にカメラが三台。私の手元と、ゲーミングチェアを取り囲むライバーたちの後ろ姿だ。二つ目はともかく、最後のは完全にスタッフの悪ふざけである。
こんな状態になった発端は、ルカナさんが私のゲームの腕に興味津々だったことだった。どうプレイしているのか見てみたいとのことだったから、部屋に招いて実際に見せてみることにしたのだ。
そこにマギにゃも見てみたいと乗っかってきたから、部屋を開放して好きに見てもらうことにしたのが終わりの始まり。あれよあれよと取り巻きが増えてしまったし、たぶんまだ増える。おかげでさしもの私も落ち着かない。
「でも、都ちゃんはいないね」
「イミアリと、創建組もか」
「みゃーこにはママの家でちょっと教えたことあるからね。創建組はこないだコラボついでに遊んだし、イミアリというか元担当には多少は見せてるよ」
その一方で私と親しくスケジュールも空いている人が何人か来ていない。なにしろ単にゲームの操作を見るだけだから、もう見てリアクションもできないほど知っているパターンもあるのだ。
おかげで特に気安い人ほどいないから、余計に振る舞いが難しい。マギにゃや陽くんにデュエ兄はともかく、心愛先輩やもず先輩とは以心伝心とまではいかないし。……まあ、本題はこの中でも特に知り合って日が浅いルカナさんに見せることだから、そのくらいでちょうどいいかもしれない。
「ちなみにるかなさん、ついてこれてる?」
「ぜんぜん……何やってるのかわからないことの方が多いです」
「だよね。わたしも」
「あれ、おかしいな……弾幕シューティングって操作密度自体は大したことないジャンルなのに」
「どっちかというとわかんないのは画面のほうだよ?」
「ほんとにツルはつかってないんだなって……」
……ただ、レクチャーとしてはいまいちだろう。今やっているのでいいとルカナさんに言われたからドラエイでやっているけど、あまり派手で見応えのあるコントローラー捌きが発生するジャンルではない。
なんならエンタメとしても失敗したかな、と思っていたけど、どうやらそっちは問題ないらしい。……これをエンタメとして自覚している点については、さすがに今更か。
……そんな話もあったね。もちろんツルで操作はしていない。これで証明できたはずだ。
「今操作してる樹は高耐久なぶんかなり動きが遅いから、他のキャラのときは低速ボタンを押すところも等速でやってるの。それでも操作精度を保てるし」
「でも、それだと素早く移動したいときには困るんじゃないかい?」
「うん。だから覚えゲーしてるの。前の弾幕の時点で間違った方に避けたら次の安地に間に合わないから」
「……覚えゲーって、死にゲーだよな。してるか?」
「してるよ。もう三回もリトライしてるでしょ」
「もう四つ目の弾幕やってんだよ!!」
〈樹扱いづらいんだよなあ〉
〈ここ苦手〉
〈こいつ最適のステージも妥協枠でやった思い出〉
〈EXTREMEだと逃れられないか〉
〈死にゲー……?〉
〈これが?〉
〈1つ1ミスなの意味わからん〉
〈今日はあっちがツッコミしてくれるから楽だなぁ〉
私も樹はあまり好きな操作感ではないけど、さすがにEXTREMEともなると彼を接待した適正ステージを他のキャラで抜けようとするのはもっと難しい。大人しく樹で頑張るほうが間違いなく楽だろう。
とはいえ、正しい安全地帯以外でまともに避けることは不可能に近い高難度弾幕ゲーにおいて、鈍足とはすなわち初見殺しだ。性質上一度喰らってから覚えてリトライするしかなくて、少し時間がかかっていた。……なのに陽くんとコメント欄は不満げだ。
「そもそもフロルちゃん、向かう方向さえわかれば避けること自体は当然できるもの、って感覚がおかしいんだよ?」
「え? ……そうかな」
「そもそも初めてやる回避を綺麗にこなすところが周りからすれば意味不明なんだよ」
「初めてだったら一つ前のステージみたいにもっと手間取ってるよ。今は新しいの見てリトライする前に、手元でなるべく粘りながら正解のほうを見れてるから」
「…………あ、もしかして今フロルさんがやってる異常なことって、よそ見しながら不正解エリアで粘ってることのほう?」
「異常とは心外だけど、まあやってるのはそう」
〈それ〉
〈不可能以外全部できるみたいな物言いやめてもろて〉
〈そうかな???〉
〈うわぁ〉
〈よそ見して覚えながら!?〉
〈ほんとヒューマンエラーしないよねフロル〉
〈いや明らかに異常だろ〉
〈異常ではあるよ〉
ううん、そうか。よそ見というか、時々チラ見しながら逃げられる方向へ動いて、袋小路になってしまうまで時間を稼いでいただけなんだけど……そこに突っ込みをいれられてしまった。
実のところ、私はさすがに自分のゲームの腕が普通ではないことは自覚している一方で、具体的にどんなところが飛び抜けているのかはわからないことが多い。だからデビュー以降はそこを突っ込まれて自覚することがあるんだけど、これがまた一定ではないというか。やるタイトルやステージによって褒められるところが変わってくるというか。
「最近わかったんだが、フロルはゲームと銘打たれたもの全般に異様に強くなるよな」
「デュエ兄、それじゃ不充分だよ。この子はゲーム以外でもだいたい全部ちゃんとスペックが高いんだから」
「天才はいる、悔しいが」
「持ち上げられまくってる……」
「せいとうなひょうかだよ、ふろるちゃん」
〈おかしいな、苦戦感がない〉
〈なんで楽しく雑談しながらこの難度をサクサク進めてるんだ〉
〈ゲーム特効〉
〈汝もゲーム! 汝もゲーム!〉
〈ゲーム属性を付与するスキルとか持ってそう〉
〈ゲーム以外も強いんだよなあ〉
〈フロル……お前、自己評価が……!〉
好き勝手言われている。いやまあ、ゲームが本当に得意なことくらいは自覚しているけど、そんな完璧超人みたいに言われて素直に受け取れるほど自己肯定感が高いわけではないというか。
……マギにゃにまで言われてしまった。この子はけっこう寸鉄人を刺すタイプだから、これは受け入れざるを得ないか。これで人のことは本当によく見ているのだ。
「逆に何ならできないの?」
「何と言われても……ゲーム以外何ひとつママに勝てないし、仮の姿で世を忍んでるときの周りと比べたら……」
「日本人の平均で考えて」
「…………」
「フロルが黙るのは珍しいなあ」
「ま、まあ、私アルラウネだから、脆弱な人間にはそうそう負けないよ、うん」
〈ふーみゃはオール5タイプだもんなー〉
〈できないことなんてなさそう〉
〈周りがおかしいのでは?〉
〈何者なんだsperママ〉
〈なんでもできる超人が振り回されてるから面白いのよ〉
〈まあ最初から電ファンに常人なんていないし〉
〈苦しいぞフロル〉
〈諦めて自分が凄いと認めろ〉
ただ、だからと自分の中で納得するのと、周りに対してそれを自慢するのは話が別というか。普段から私より凄い人たちとも関わっていると、ちょっとふんぞり返るのに気後れがあって。
だけどこの人たちはそこから逃げるのを許してくれない。まあたぶん、これでいいのだとは思う。こういう感じの私が振り回されて目を回すところにこそ需要はありそうだし。私もみゃーこのそういうところは見ていて可愛いと思うし。
「でもフロルちゃん、電ファンには弱いもんね!」
「そうそう。電ファンが好きすぎて常に弱みを握られてるようなものだからな」
「わかってるならお手柔らかにお願い」
「だが断る」
「ふふ、みんなの妹枠ですもんね」
「それ、マギにゃに譲ったりとかは」
「だめ。ふろるちゃんのほうが妹だもん」
〈こんなに仲間意識を持てる完璧超人もいないからな〉
〈雲の上なのに同類だから安心できるのよ〉
〈しかし容赦のない同僚たち〉
〈これが愛ですか〉
〈愛です、愛ですよフロル〉
〈マギアにまで姉ぶられる終身名誉末っ子だ〉
だからこんな扱いをされても嫌がれないし、むしろ役得だとばかり思ってしまう。下に滑り込んでいるのは私のほうだから。
とはいえ、ね。自分が凄いという自信に満ちた態度はキャラじゃないから。そこは許して。




