#142【五期三次オーディション】またしても特殊な立場を利用される月雪フロル【#電ファンスナップショット】
一日遅れ。精進します。
そろそろ耳にタコができるほどされている話ではあるんだけど、電ファンは本当に全てをコンテンツにする。……まあ実際は一部例外を除いて自室に勝手に入られたりはしないからさすがに隠したい私生活は隠せるんだけど、だからこそみんな可能な限り共有空間でいろいろやろうとしているし、軽率に自室に同僚を入れるし。
ただそんな中で、アンタッチャブルなものも存在する。今日はそんな、これまではコンテンツにされていなかったもののひとつが行われていたんだけど。
『今の子はどうだった?』
「前回ちょっと言い淀んでたことも上手く答えるようになってたし、言い方もキャラクター性の魅力が伝わってくるようになってたよ。審査員がどう受け取るかはわからないけど、間違いなくよくなってると思う」
今回はそれ、オーディション関連のことが部分的に解禁されていた。私が聞いて、他の面々は通った二次選考のデータを見つつ私の感想を聞く間接実況のスタイルだ。
……そんなことができるようになったのは、これは私がデビューしたからだ。私の特殊な経歴が活かされている。
『これで今日の分の半分くらいか。全体の四分の一が済んだわけだが、フロルから見たらこれまでと比べてどんな感じだ?』
「やっぱりレベルは上がってきてると思うよ。再挑戦の人が増えてるし、当然ではあるんだけど……」
『箱そのものが大きくなってきて、有望な子が新しく応募してくるパターンが増えたりしてたら嬉しいよね』
「そのパターンもかなりあると思う。今回二次を通ってきた人たちの中にも、慣れてきた再挑戦組に勝るとも劣らない人もちらほらいるし」
ライバー同士の関わりをなるべくコンテンツ化できるように、つまりデビューが決まるまでなるべく関わらせないために0期生以外のライバーはオーディションには関わらないことになっていた。だからオーディションを裏側から見知っていたりはしなかったんだけど……そこに今回、例外が出た。私はスタッフとして二期から四期までのオーディションを見てきたから、ライバーでありながらオーディションの電ファン視点での空気感を知っている。
そこで運営部、思いついた。話していいラインも感覚もわかっているし、そもそも四期のオーディションを見ていながら四期生として問題なく活動している。ではフロルなら選考に関わらない現役ライバーでありつつオーディションを見てもいいのでは、と。
またしても私の特殊な立場を運営側に積極的に利用されているし、そもそも将来的にデビューさせる気しかなかったサブマネージャーをわざわざオーディション時の雑用として駆り出す必要は別になかった。だから実際は最初からここまで考えていたんじゃないか、ハルカ姉さんならやりかねないと思っている。
まあ、私としても私の存在がコンテンツを生むなら否やはないんだけど。後に動画で出たときに受験者が見て気付いても大丈夫なように、私がやることは見た受験者の褒めポイントを伝えることだけだし。
少し大変なところがあるとすれば、
「……」
『ん、どうしたフロル』
「いや……あの人たちまた私が言ったことをそのまま寸評に書き加えてる……」
『信頼されてるね!』
『もはや審査員なのでは?』
『ルフェちゃんと都ちゃんを連れてきた敏腕スカウトだものね』
「責任は取らないからね」
私には受験者のみならず審査員たちの声も全て聞こえているばかりか、私の声も彼らに聞こえていることか。
私は今、スピーカーからライバーたちとの通話を、片耳につけたインカムからはオンライン面接会場であるグループトークの音声を聞いている。だから面接そのものだけでなく審査員たちの話も検討まで含めて全部聞こえているのだ。
それだけでも明かしてはいけないことまでぱーちゃん視点で収録されているライバー通話に話さないよう気をつける必要があるのに、その上でどういうわけかインターバル中は後者をミュートにすることを禁じられている。
つまり向こうからすれば独り言に等しいはずの私の声は、こうして感想を述べるタイミングに限って審査員たちにしっかり聞こえているのだ。セレーネ先輩は冗談で言っていると思うけど、本気で当てにされていそうだ。さすがに各種責任は審査員に取ってもらうよ。
『フロル、負担なら文句言っていいと思うぞ。今のお前はあくまでライバーなんだし』
「ま、ことの原因は困ったら最古参の私に頼る情けない後輩スタッフたちでも、隙あらば私を巻き込もうとする性格の悪い最古参スタッフたちでもなくて、普通に乗り気になってる私にあるからね」
『……いや、やる気があるならいいんだが』
『イケメンとイケメンの会話だったよ今』
『同期を気遣えるできる男と、頼られる分だけ応えてくれる敏腕女……』
『陽も成長したじゃないか、最初のうちはあれだけヘタレていたというのに』
『いつまで擦るんすかそれ!』
まあ、結果的に私は安全圏から好き勝手言っているだけだし、それでいいことになっている。せいぜい望んでも立てない立ち位置を楽しんでやろう。
ところで、この企画にはおそらく需要があるであろう要素が他にも残っている。それに触れられたのは、さらにしばらく進んだ後の小休憩の時間だった。面接官が休憩しているけど、私たちは駄弁っているだけのようなものだから休憩も何もない。
電ファンの形態が上手く回っている理由のひとつには間違いなく、ライバーたちが遊び感覚で自発的に動き続けることがある。こういうオフショットはそう見せるのが当たり前になりすぎて、そもそも仕事感がないというか。
『今は今後のライバーを選抜してるわけだが、これまでのライバーも通ってきたよな。フロルはそれを全部見てる』
「そうだね。雑用しながらではあるけど、どういうわけか二期から四期までの三次と最終選考は全て見てるね」
『じゃあ今ライバーをやってる中で、特に印象に残った三次選考ってどれだ?』
「うわあ陽くんアグレッシブだねぇ。そんなこと聞いちゃったらみんなからヘイト買わない?」
『大丈夫だ、どうせ全員美味がる』
『開き直りすぎじゃない?』
『自分もオーディション組なのによくやるよね』
「まあスカウト組がこれ言ったら本当に〆られるだろうからねー」
一期から三期までのナンバリング組が五人ずつ、四期は初期時点で六人。このうちがスカウト組が四人いるから、電ファンはこれまでオーディションから計十七人を採用してきた。私はこのうち一期の三人を除く十四人についてはオーディションを見ている。……というのは正しくなくて、二期の五人のうち二人は一期オーディションの三次を通っているから、私が三次を見たのは十二人だ。
その中で、この場で話せるようなエピソード。そりゃまあ、結局一番需要があるのはそこだろう。そして詳細に話していいのもそこだけだ。
「インパクトが大きかったのは、ローラ先輩かな。アピールポイントを聞かれて『YeahTubeで流せるか微妙なところまで百合を作れます』って大真面目に言ってきたのはさすがに吹き出しそうになった」
『あいつ……』
『蓋を開けたら微妙どころか絶対アウトのところまでやってるよね?』
「あとは最後の受験生から質問できるところで、『DLportを使うのは許可されていますか?』ってぶっ込んできたところかな。まあ後々を見るに、本人は本気だったんだろうけど」
当然だけど、この話は現在知れ渡っているキャラクターそのものになる。自分の最適解を自力で導き出せる人でないと、千倍のオーディションを抜けるのは難しい。
だからこそこんな話になるわけだ。ローラ先輩は最初からローラ先輩だった。
『他は?』
「ゆーこさんは二次でホラゲ絶叫を動画で送ってきてたんだけどね、三次で何故そんなことをしたのか訊かれたら『ライバーは苦手なことをして酷い目に遭うのが普通じゃないんですか?』って返してきた話とか」
『えぇ……?』
「デュエ兄が抱負を問われたとき、『全ての人気TCGと電ファンをコラボに漕ぎ着ける』って啖呵切って、一年半でほぼ実現した話とか」
『言ったな。やる気だったからな』
『芸は身を助けるってほんとだよねぇ……』
「当時の電ファンはまだ発足一年で、これからタイアップやコラボを増やしていきたい時期だったからね。うってつけだったんだよね」
言うまでもないけど、そうしたオーディションでのアピールは採用後のライバー来歴に大きく影響することも多い。私みたいに箱内バランスを考慮して、まだいないカテゴリであることからつけられるパターンも少なくないけど。
この二人は特に露骨にそう作られたパターンだ。ホラー苦手な幽霊を面白がられて作り上げられた四ツ谷幽子、ならばやってみろと全力でカードゲームに寄せた形で用意された嘉渡決斗。結果として本人たちも生き生きしている。……はっきりとは言わないけど、視聴者にも「やりたいキャラがあるならオーディション時から寄せていけ」ということが伝わるかな。もちろん採用後に希望は出せるけどね。




