表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト6:後輩オーディションのウラガワ!?
140/142

#140【メリク:ワールドトリップ】水中は嫌だ水中は嫌だ水中は嫌だ【野乃宇千依/電脳ファンタジア】

 ちゃんと自認しているし知られてもいることだけど、私は電ファンそのものが大好きだ。ライバーとして活動している今もそれは変わらず、一般のファンと同じような形でも生活の一定の割合を電ファンに染めている。それは単に活動という意味だけではない。

 具体的には、隙間や余暇の時間に隙あらば配信や切り抜きを流したり、グッズを部屋に飾ったり。たとえば作業のBGMに同僚の話し声を使ったりとか、同期のぬいを棚に並べたりは普通にしている。……そのグッズを正規で買うことが難しい上に、余り物を直接買おうとしたら経費計算が面倒だからとタダで押し付けられたことは許してほしい。


 私もみゃーこみたいに紛れてコミケに並んだりすればよかったかな。でもあの日双葉があっちにいられたの、デビュー前に取っていたチケットで一般入場していたからなんだよね。合流しようとしていたら確実に待ち合わせを持ちかけられるけど、入場経路が違う私はそうはいかないし。

 ちなみに、あくまで小さめのものを並べているだけだ。他のライバーが普通に入ってくる部屋に大きなタペストリーとか抱き枕カバーとかを置いているひとは、さすがにいない。たぶん一部の非ハウス組はやっていると思うけど。ローラ先輩とか。


『くっ……また失敗……』

『これ難しいからねぇ』

『3Dゲーは上手いやつとそれ以外で違いすぎるからな』


 ただ、私の場合は必ずしもそうした、一般のファンがやっていることしかしていないわけではない。というか、立場上それ以上を常に求められている。

 いくら電ファンオタクであっても、ライバーであるからには同僚と絡むことは熱烈に求められているのだ。ライバーは活動をファンに見せることが第一だから、誰にでもできることは求められていない。


 だから、こうする。


『上手い人にコツを聞いたら教えてもらえるでしょうか』

『教えてはもらえるだろうが、それを俺たち凡人が受け止められるかは別じゃないか』

『フロルちゃんとか?』

「呼んだ?」

『うわぁ!?』

『聞いてたのかよ!』


 電ファンならではのやり方だ。個人枠として始まった配信に平気で突入する。ここはそれができる、いわば全員で「電脳ファンタジア」というひとつのコンテンツを作っている箱だから。

 やっているのは私だけではないし、むしろ私は迎え入れる側になることのほうが多い。それに今回もむしろ遅れをとった方で、ちよりんの個人ゲーム枠に既にゆーこさんと陽くんが来ていた。

 それを受け入れていることを示すボイスチャットに入る準備をしていたら、ちょうど私の話になったからそのまま入った。こういうのは機を逃さないこと、テンポが何より大事である。


『さっきまで歌枠をしていましたよね? どこから聞いていたんですか?』

「終わって部屋に戻ってきて、どれか点けるかってなってから五分くらいかな」

『となると、コレやり始めてからか。とりあえずで配信つけるのは当たり前なんだね』

「そりゃもう。電ファンは生活だもの。今からサムネ作るところだし、作業中に何も流さないわけないじゃない」

『フロルが言うと重みが違うよな……』

『歌枠の後にすぐ作業入るの、さすがにエネルギッシュすぎませんか』


 スタジオで歌枠をしてきて、やっておくべき作業があったから切羽詰まる前に済ませておこうとPCを立ち上げて、画像加工ソフトとYeahTubeとDisconectを開いたのが今から五分前だ。こういうことをむしろ積極的にさせるために、電ファンではライバー一人に複数のPCが試供品として渡されて机に並んでいたりする。

 ……断れないのよ、「ライバーさんからのフィードバックが一番参考になるんです」とか言われると。もらっているのはこちら側なのに、よしんば遠慮しようとしたら逆に拝み倒されるから。


 コメントは一応見られるように配信も無音でつけ続けているけど、今は手元を見るから反応は三人に任せておこう。いわばラジオから作業通話に切り替えたようなものだし。






『さておき、いるなら聞きましょうか。このビーチバレー、コツなどあったりは』

「うん。みゃーこやママにやったみたいな根本のレクチャーはオフラインじゃないとできないから、この形で言えるのは小手先だけど」

『充分です』


 で、私が求められたそもそもの理由。ちよりんがゲームで苦戦しているからだ。配信と一緒にdisconectの電ファンサーバーを開いている通り、求められていなければ来ていなかったとも限らないけど。

 ちよりんが今日やっているのは『メリク:ワールドトリップ』。メリクシリーズの3Dアクションで、私がこの間即終了企画に失敗した『スタージャーニー』の後継作だ。あちらより操作性は向上しているけど、局所的な操作密度の要求量は増していたりもする。

 今やっているのは後半に差し掛かったあたりのステージのミニゲーム。ビーチバレーのラリーを行うものなんだけど、それをアクションゲームの中でやるとなるとなかなかクセの強いゲーム性になってくる。


「一番大事なことを先に言うね。これ実はボールが落ちてから終了判定までタイムラグがあるから、ワンバウンドで返しても続くよ」

『……ビーチバレーとは』

『それテニスじゃね?』

「なんかそうなってるから、諦めなければ割と続いたりするの」


 これはその難しさを前提とした救済措置だ。実際、このミニゲームは本編を通して要求されるアスレチック的なアクションとはかなり違うこともあって、ゲーム内でも特に難しいもののひとつになっている。

 箱庭やオープンワールドのミニゲームって、往々にしてこうなるんだよね。操作性がゲームに合ってないから。それを含めて楽しいんだけど。


「コツというか攻略法だけど、まずはコートの中央に立つこと。端っこで構えて逆側に来たら、ラリーが速くなる後半は間に合わないから」

『でも下がるのは難しくありませんか? 今までは中央後ろに立っていたのですが……』

「打っていちいち戻ってたら、打ち返される前とはいえその難しい後退を本来より多くやることにならない?」

『それは確かに……』


 操作で飛んでくるボールに体当たりすれば、ボールは勝手に返っていくようになっている。だからとにかく当たりに行くだけの反射神経ゲーで、なれば移動距離をなるべく縮めたほうがいい。

 相手はコート内にしか打ってこないから、そのためにはコートのど真ん中だ。……ただ、確かに背走は距離感が掴みづらくて難しいというのもわかる。


「あくまで私は、なんだけど……カメラを横からの視点にしたほうがやりやすかったよ」

『横……というと、メリクと相手を左右に?』

「そう。メリクの体の向きと、プレイヤー視点の手前と奥をズラすの」


 これはその見づらさへの対処だ。根本的には3Dアクション全般にいえることなんだけど、それをビーチバレーに合わせた話。

 こうすればプレイヤーから見た手前と奥はメリクの左右、逆もまた然りになる。人間、手前と奥よりも右と左のほうが認識しやすい。


『あ、確かに』

『不思議なもんだな……』

「個人差はあるけどね。こうすると、手前と奥じゃなくて上と下に見えるでしょ」

『なるほど……確かに画面的にはただの上下ですものね』

「自分にわかりやすいように見方を変えてみるの、けっこう大事だよ。……こうすれば、スティックの上下左右に対応して入力するだけに見えない?」

『はい。少し感覚が2Dゲームに近付いた気がします』


 ちよりんは2Dゲームはそれなりにできるんだけど、3Dには苦戦しているタイプだった。そういう人には特に有効なことが多い転換だ。これは一人称視点で俯瞰できない仕様の3Dゲームが難しい理由にもなるけど、3Dメリクはカメラ視点を動かせるゲームだからこれでいい。

 そうでなくても、左右の次に上下じゃなくて、いきなり前後を認識してしまうとこんがらがるのも無理はないよね。そうした混乱は案外簡単に解消できる。


「次は、打たれた時点でどっちに来るかの判断かな。これは弾道から予測するしかないんだけど……とりあえず、最初の軌道を覚えて」

『はい。……横視点だとこれも見やすいですね』

「最初の三球は真ん中にしか来ないから、これを目に焼き付けておく。これより上下左右どっちにくるかで判断するの」

『さっきまでの千依ちゃんは、着弾予測が出てから動いてたけど……』

「なるべくだけど、弾道から見られたほうがいいからね。予測円はちょっと遅れて出るし」


 着弾地点には予測円が出るからこれは無理にとは言わないけど、打たれた時点での弾道でだいたいの方向がわかれば一歩早く動ける。それで時間に余裕ができるから、返しやすくなるというわけだ。

 加えて、実は一部のアクションには広い判定があるからそれを上手く使えればなおよし。……エンディングはこれなしでも余裕で到達できる脇道のミニゲームだから、このどちらかはないと全クリアはできない難易度だったりする。


『……けっこう、できますね』

「ちよりんは操作は上手いからね。あとはどう認識して出力するかだったから、そこがわかれば」

『フロル、お前コーチングまで上手いのか……』

「多少はね。教えるつもりでゲームしてるわけじゃないから、できる範囲でしかできないよ」


 ちよりんはそれなりにゲームが上手いから、意識するところさえ押さえればこの通りだ。私はその手伝いをしただけに過ぎない。

 掴んだようでこれを境に目に見えて上手くなって、しばらくした頃にはなんとか最高評価のクリアまで取ってみせた。ただ……そんなちよりん、直後に飛び込んだ海中エリアで大苦戦する羽目に。ああまでして避けた奥行きという概念から、水中では絶対に逃げられないからね。さもありなん。


『フロルさん! これ、どうすれば!』

『水中は上下があるからね、こればっかりは逃げられないよ。頑張って』

『そんなぁ!?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ