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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト6:後輩オーディションのウラガワ!?
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#139 極楽の上から真面目な話が聞こえてきて寝るに寝られないマリエル【#電ファンスナップショット】

「そうだ、朱音。大学での第二外国語、何にするかって決めてる?」

「はい。ドイツ語は基礎をやっても仕方ありませんし、ひとまずスペイン語にしようかと。フランス語も気になってはいますが……」

「そこで確実に単位を取れるドイツ語で楽をしようとしないあたりが朱音だよね」


 この日は登校が朱音と被ったから、二人で行動することになった。入学後に備えるために進路指導室に来て、今のうちからシラバスを確認しているのだ。

私たちは利便性も兼ねて同じ時間割を組むことにしているから、組むときも二人で考えたほうが話が早い。今はまだ正式な時間割など当然出ていないから、前年のものを見ながらざっくり思案しているだけだけど。


 その途中、第二外国語に意識が向いた。晩生野大学では選択肢はドイツ語とフランス語、スペイン語に中国語、それからイタリア語の五種類なんだけど……朱音の場合、このうちドイツ語は自動的に選択肢から外れる。なにしろ彼女は父方の祖母がドイツ人だから、ほとんど母語レベルで話せる。

 それもあってスペイン語選択になるようだ。……私はそれに合わせてもいいんだけど……。


「律さんは興味のある言語がおありで?」

「んー、そういうことなら私もスペイン語にしようかな、とは思ってるけど……」

「?」

「よければなんだけどさ。朱音、ドイツ語教えてくれないかな」

「なるほど、そういうことでしたか。スキマ時間でよければ、引き受けますよ。律さんならさしたる負担にもならないでしょうし」

「ありがと。なんか過大評価されてる気がするけど……」


 私が今身につけたいのはドイツ語のほうだった。ただ、朱音はまず取らないことはわかっていたし……薄々、聡明な準ネイティブ話者である朱音から教わることができたら、そのほうがいいのではと思っていて。

 とはいえ忙しい、というか忙しくなるのは知っているから、負担や時間とは相談だったけど……あっさり引き受けてくれた。しかも手間にもならないほど覚えの早い優等生だと思われている。私は朱音やことり、橙乃あたりには成績でとてもとても勝てないのに。


「……お忘れかもしれませんが、晩生野大附(ここ)に通っているだけでそのあたりの要件はとうに満たしていますよ」

「いやまあそうなんだけど……どっちかというと、朱音が私を自分と同じくらいのステージとして見ていることのほうがね」

「それは私のことを買い被りすぎですし、自己評価が低すぎます。私はこれでも、律さんのことは高く評価していますよ。特に問題がなければ四年内にはスカウトをかけようと思っている程度には」

「…………えっと、ありがと」


 と思っていたら、なんか朱音に褒め殺しされた。しかもスカウトの意思まで示された。四年内とは言いつつ、こんなことを本人に話した時点でこれ自体がスカウトのようなものだと朱音ならわかっているだろうに。

 だけど、その。生憎と私はそうされなくても、九鬼グループにはもう入っているというか。まあ、いずれ知られるとは思うけど。






 では、なんで私がドイツ語を学びたいのかというと。


「……ENと同じ速度でDEが発足するの、完全にフェーガルトの影響だよね」

「そもそもがフェーガルト側からの発案だからね。やるならこの二言語なのは規定事項だったよ」


 実は電ファン、このタイミングで海外展開を始めるから。プロジェクト自体は以前から進んでいて、昨秋の時点で発足済。そこから半年かけて準備してきて、今度の春から本格始動となる。

 なんでも、「扱いやすいネット媒体のインフルエンサーであり新商品のテスト施設」という認識で、九鬼グループが提携して蜜月関係にある『フェーガルト』が目をつけてきたらしい。


 このフェーガルトはドイツに存在する世界的な極大企業グループで、「欧米でフェーガルトと関わらずに生きることは不可能」とまでいわれる。どこかで聞いたことがあるような話だ。

 そのフェーガルトだけど、日本支社は存在しない。なぜなら、その役割は事実上九鬼が兼ねる形で果たしているから。

 九鬼の先代会長、つまり朱音の祖父にあたる人物が、日本展開を視野に視察に来ていたフェーガルトのご令嬢と国際結婚をしたのがそのはじまりだ。そのまま本当に出先機関の役割を任せる形になったそうで、現在はそのフェーガルトの血が流れている息子、朱音の父君が取り仕切っている。

 ……朱音は以前、この関係を「清洲同盟のようなもの」と言っていたかな。主従関係ではないが、さりとて対等というほどでもないと。それは仕方ない、さすがに規模が違いすぎる。手広くやっていることも善し悪し、九鬼はあくまで日本が基盤だ。


「私、フェーガルトの最大の目的は生活的なテストフロアなんじゃないかと疑ってるよ」

「否めないよね。視察に来たときも、そっちをかなりよく見てきてたし……人気のほどはさすがに不透明だけど、少なくともそっちは計算できるし」


 そういうわけで、フェーガルトは世界一と呼んで差し支えない極大企業だ。そこが目をつけたというあたりでVtuber業界の未来は明るいようにも思えるし……その一方で、フェーガルトならむしろほぼ全ジャンルに展開する自社製品のテストフィードバック用の箱庭を主目的にしていてもおかしくないと思えてしまう。

 結果として、電ファンは少なからず存在する「九鬼からフェーガルトに展開されるもの」、つまり九鬼がフェーガルト日本支社ではない証拠のひとつとなった。ノウハウを特に重視するフェーガルト自体の社風もあってか、この『Virtual Fantasia』というプロジェクトの主体であり中枢はここ、日本の電脳ファンタジアであるということになっている。


 電ファンとしては、寝耳に水だった。あくまで九鬼からすれば孫会社、末端という立場でやっていたはずなのに、気付けば世界的プロジェクトの中枢になっていたのだから当然だけど。

 とはいえフェーガルト側がとことん電ファンの話を聞き共有する姿勢を貫いたこともあって、特に問題もなくすんなり成立してしまった。さすがに大ごとになりすぎているから、電ファンをフューチャーサウンドプロダクションの子会社から九鬼グループに直接属する企業へ移行するとかしないとか話されているらしい。


「一番驚いたのは、なんかちゃんと電ファンっぽいことなんだけど」

「どうやって見つけてきたんだろうね」

「ハルカ姉さんだけは他人事にならないでしょ……。まあ、それだけ向こうでもVtuber文化が浸透しきってるのか、電ファンがけっこうちゃんとジャパニーズコンテンツとして知られてるのか」

「もともと外国語コメント自体はちらほらあったもんねぇ」


 そういう話もあって、裏ではVirtual Fantasia ENおよびDEの一期生メンバーとやりとりする機会もあるんだけど、面白いのは彼らにちゃんと電ファンっぽさがあるところで。面白い、人がいい、ボケ倒すと三拍子揃っている人ばかり。採用基準までJPと同じになっていた。

 内部騒動が本当に起こらないところを見て、その要因として見出されているとかなんとかで……まあ、ハウスを作って試供施設をやるというのだから確かに大事だ。さすがはフェーガルト、取り違えない。


 ただ、そうした選定基準でちゃんとタレントが見つかる、見つけられるところは本当に凄いと思う。いくらVtuber文化が世界に膾炙していたとしても、発祥であり中枢である日本ほどではないだろうから、それでちゃんと揃える難易度は日本より高いだろうに。


「フロルちゃんは英語できるから彼らとのコミュニケーションも任せられそうだけど」

「実はドイツ語も勉強……じゃなくて、丸投げはしないでよ。みんなも頑張って」

「みんな多少はやるだろうけど、フロルちゃんほどできるようになるかは……」

「…………あの」


 一応、私は特別に英会話を習ったりしているわけではない。単純に学力面で、他のライバーよりはできるというか……まあ、なんとかコミュニケーションくらいは取れるというか。一応だけど、あれで英語は堪能な橙乃に教えてもらったりはしていた。

 さておき、朱音にドイツ語を教わることにしたのはこれだ。ライバーとして実利がある。断られたらドイツ語選択も考えたけど、選択は合わせた上で個人授業の方がお互いよさそうだとは思っていた。


 とはいえ、だからといってまた私頼りというのとよくはない。せめて英語については、他に最低限でもできる人がいるといいんだけど……と、そこで口を挟まれた。私の膝の上から。


「ん、どしたのマリエル先輩」

「その、耳かき中に上から聞こえるような話とは思えなくて」

「フロルちゃんは軽い感覚でこういう真面目な話や小難しい話もするタイプだよ。前まではハウスではあんまりしてなかったけど、都ちゃんとしてるの見かけなかった?」

「いえ、見たことはありますけど……」


 実は今、マリエル先輩の耳掃除中だった。強く求めてもきていたし、私も練習したかったしで今は高頻度で共用リビングでこういうことをしているのだ。……まあ、電ファンならではだとは思う。

 そして確かに、耳かきって小難しい話をしながらやるものではないという感覚はわかる。わかるけどさ、考えてみてほしい。ほぼ常時カメラが回っている場所にライバーが三人いて、無言のほうが無理があると思う。


「そういうときに囁きとかしないの?」

「映像確認していいけど、ハルカ姉さんが来る前にやったよ。マリエル先輩がびくびく跳ねて危なかったから控えてるだけ」

「だ、だって……破壊力が……」

「ああ、それは仕方ないね。フロルちゃんの囁きだもんね」

「ハルカ姉さんのほうが上手いでしょ。何他人事ぶってるの」


 それに私はまだ本気の半分も出していない。無声音もオノマトペも吐息も「ざぁこ♡」もやっていないのだから。

 だから正直、まだ練習できていないことは多いんだけど……エティア先輩も妙に耳が弱かったみたいで、試せていないんだよね。そのあたりの生の感想も誰かから聞いてみたいんだけど……。

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