#137【レリシエル&リオネッタ襲来】混合コラボを前についにただのメンタル強者と化した月雪フロル【電ファンスナップショット】
電ファンは箱内でなんでも完結させられる事務所だけど、かといって箱外コラボをしないわけではない。むしろ個人勢とはPROGRESSの事情もあってよくやるし、私はまだだっただけで他箱ともかなり頻繁に行われている。
特に@projectとは懇意で、もはや箱単位では何度目かは数え切れないほどだ。今回のコラボ相手もまた、電ファンとのコラボ自体は数度やっている人たちだった。
「……ヨ、ヨロしくおネガいシます……」
「はい、みくりん。今日はよろしくお願いします、楽しみましょ」
「ごめんなさいねぇ……普段はこんな子じゃないんだけど」
「わたしみたい……」
そのはずなんだけど、片方は明らかに緊張している。私から見ても、こうまでわかりやすく緊張する姿は違和感すらあるようなひとなんだけど。
普段は@プロ屈指の暴走特急であるデビュー二年目のビスクドール、リオネッタ=御厨は、明らかに私を意識していた。
「そんなに硬くならなくても、別に実は前から見たことありましたし」
「ああ、やっぱり前に来たときにも見てたんだ」
「ハウススタッフでしたから。サンドイッチだって食べてもらいましたし」
「アレがフロルちゃんのだったんですね!」
もう一人、この間クラ限でもお話したレリシエルさんはピンピンしている。彼女は印象通りの物怖じのなさだ。
この二人だけではないし今回だけでもないけど、@プロは電ファンから信用されているライバーが多くて、しばしば配信に向きすぎた環境である電ファンハウスに遊びに来る形でのコラボになる。向こうがアウェー感を嫌がらない以上、こちらとしても断る理由がないから。
というわけで、私としては初の他箱コラボだ。相手は二人、一人はとにかく母性に満ちたお姉さんな大天使のレリシエルさん。同期だろうが先輩だろうが箱外だろうがお構いなしに甘やかして堕落させる、本当はある意味悪魔なのではないかと疑われている人物だ。どことは言わないけど、両事務所で一番大きい。モデルでも、実際にも。なんでもHらしい。
そしてイントネーションがとても独特な、「人形を作り操る人形」であるリオネッタさん、通称みくりん。モデルだと球体関節だったり、たまのダンスは本当に糸で操られているようだったりする。特技は手芸、ハンドメイドの小物をよく写真でアップされていて、その手先の器用さは折り紙付きだ。
「ほら、持ってきたんでしょ? 先に渡しちゃわないと、どんどんタイミングが難しくなりますよ?」
「ゥ…………ソの、コレ、ドウぞ……っ」
「……ぬいぐるみ? ありがとうございます、可愛い……!」
「ヨ、ヨかった……」
「言ったでしょ、絶対喜んでくれるんだから自信持ってって」
そんなみくりんがずいぶん緊張しきっていたところだったんだけど、私のほうは割と楽観的だった。というのも、向けられている視線自体は普通のものだったから。これはたぶん、私と近づきたい理由があるけど、それ目当てが透けて見えるのは失礼じゃないか、という躊躇だ。
それでも勇気を振り絞った様子で、プレゼントとして手渡されたのは……みくりん自身を模した小さなぬいぐるみだった。これ、この間載せていた写真のやつだ。可愛いし、そうまでして近付いてきてくれるのは純粋に嬉しい。大切にしよう。
「みくりんったら、あれこれ考えすぎちゃってるみたいで……」
「そうですね……みくりん、私としたいこととかあったら、遠慮せず言ってくださいね。別にぬいぐるみをもらったからとか、そういうの関係なしに仲よくなりたいんです」
「エ、ゼ、全部ばれテ……」
「ふろるちゃん、また心をよんでる……」
「優しいひとだとはわかってますし、かといってあのへんみたいな湿度のある視線ではなかったので……何かやりたいことがあるけど遠慮されちゃってるのかな、って」
「フロルちゃん、エスパーだったんですね……」
いや、ほら。普段私を囲んで百合ハーレムだなんだとやっている人たち、中でも今もリビングの反対側からチラ見してくるエティア先輩やルフェ先輩あたりは、私を見る目にときどき少し質量を感じるんだ。そういう気配はなかったから、たぶん私そのものに執着があるわけではないかなって。
やりたいコラボを前に逃げて緊張してしまう理由といえば、やっぱり遠慮や後ろめたさだろうから。……だけど、私としてはよっぽどのことでない限りは断る理由なんてないし、むしろどんとこい。仲良くなりたいから。
「えっと……こういうこなんです」
「え、私なんか変なこと言った!?」
「ふろるちゃんはね、さいきん心がつよすぎるの」
「みくりん、目を覚まして。確かに凄まじい破壊力だったけど、受け止めないと」
ちょっとグイグイ行きすぎたらしい。大概な強心臓であるはずのマギにゃにすら呆れられてしまった。
でも、こうするのが一番打ち解けられると思うんだ。遠慮で詰まってしまっているなら、一度全部ぶつけてもらいたい。
応答待ち状態から戻ってきたみくりんはそのでなんとか吹っ切れたようで、意を決した様子で見つめてきた。
「ジャ、ジャあ……タメ口で、話してホシいデす」
「おっけー。じゃあ失礼するね、みくりん」
「あ、私もそうしてもらっちゃってもいいですか?」
「もちろん。レリシエルさんも、むしろ私のほうからお願いするくらいだよ」
なんともいじらしい内容だった。拒む理由なんてひとつもないというか、さすがに許可を得てからでないと失礼だと思って普段の対ライバー口調を自重していただけのところだった。それを距離感として認識されるなら、むしろ私のほうから真っ先に言い出すべきだったかもしれない。
これで全員が普段通りの口調だけど……どうやらもうひとつありそうな様子。
「他には?」
「エ、と……ソの、一緒に、踊りたい……」
「それは私もやりたかった! まだまだ時間あるし、善は急げだね!ダンススタジオは……うん、空いてる」
「エ!? イ、イマから!?」
「いいですね。私もついて行っちゃいましょう」
「あ、わたしも! おどりかた知りたい!」
問いかけたら複数おねだりの躊躇を振り払ってくれたから、そのままダンススタジオまで連行することにした。二人はかなり早く来てくれたから時間が余っているし、せっかくだからやりたいことをやってほしい。わざわざ待つ理由もないだろう。
ちょうど空いていたし、そのまま四人で別館へ。このまま本家と二人ダンスバージョンの『パペットフィクサー』のショートを撮ってしまおうか。
楽しかった。
「やっぱり上手いですねぇ……」
「みくりんの立ち回りもすごくよかったよ。あの手は私も思いつかなかった」
「前カラ、ヤってミたいト思ってて」
「やっぱり、せんだつってさんこうになるね、ふろるちゃん」
そのままの流れで数本撮って、スタジオの片付けをスタッフに横取りされて戻ってきた。どうやらちょっと練習してきてくれたようで、二人とも逆に『ミラーリング』も踊ってくれて大満足だ。未編集の動画データはそのまま持って帰ってもらおう。
私とは思うまま一緒に踊ってくれたみくりんだけど、そのままマギにゃも後を続いたときには違う動きをした。最初だけ画角に入ったあとは即座にカメラの後ろへ抜けて、後ろからカメラを抱え込むようにして両手の指でマギにゃを囲ったのだ。さながら糸繰り人形を操る使い手のようで、なんともユニークな動画になった。
「じゃあそろそろ時間だし、準備しよっか」
「そうだった……まだはじまってないんだった」
「満足感はまるで配信後ですけどね、ふふ」
そう、まだ配信前だ。@プロの面々からも電ファンハウスは好評で、ここで遊んでもらうだけでも盛り上がるから恒例行事ともいえるけど。
ただ、私は電ファンがこれと引き換えに失っている、もっと私的な雰囲気と特別感が出るオンラインな距離感にも魅力があると思っている。電ファンはハウスのせいであまりにライバー同士が近すぎて、たまのオフコラボやお泊まりというドキドキ感はなくなってしまぅているのだ。だからそのうち非ハウス組のほうへ赴く形でのオフコラボとかもしてみたいと思っているけど……それはまたいずれ。
「……フロルちゃん」
「なあに、みくりん」
「アリガトう、緊張、解いてクレて」
「私はやりたいままにしただけだよ」
みくりんは普段の様子を見ているには@プロではとにかく濃いほうで、それこそ電ファンに入れてもボケていられるくらいの暴走機関車だ。今日のようなしおらしさはそれはそれで新鮮だったけど、本調子ではない。
やっぱりコラボと聞いて求められるのはいつも通りのガンガンぐいぐいだろうから、それを引き出せればな、と思ったのは事実だ。だけど、それと同じくらいには私がみくりんと遊びたかっただけでもある。
チョロいというなかれ、他箱からこれだけファンしぐさをしてくれるのはかなり嬉しかったのだ。
「さ、まだまだ遊ぶよ。配信用にいろいろ持ってきてくれたんでしょ?」
「ウン! ガンバろ!」
なかなか勝手が違うというか……電ファン内だとあまり起こらない流れだね。普段は私が引っ張られる方ばかりだから。なにしろ私は電ファンでは慣れられすぎている。
……同時に、この二人でハジケ扱いされる@プロを思う。今後他の子たちと関わるときは、やっぱりアクセルを加減したほうがよさそうだな、と。